第32話 標的の理由
私、「時の加護者」アカネ。
私とシエラはフェルナン国とギプス国の親善イベントに出席するため、ラヴィエ王女の乳母によって、今まで着たことがないような愛らしいドレスに身を包んだのだった。
—ラヴィエ王女の部屋—
「あら、シエラって元がいいからお化粧するととっても可愛い女の子になるのね。イエローのドレスも凄く映えるわ」 ラヴィエがその変わりように目を輝かせて言った。
「ほら、聞いた? アカネ様。やっぱり私の方が少し可愛いのかも」
「はい、はい」
しかし、お化粧をしてドレスを着たシエラの姿は、昔、写真で見た若い頃のおじいちゃんに寄り添うおばあちゃんの姿にそっくりだった。何となくシエラのその姿に親しみを感じていた。
「ところでさ、ラヴィエ。僕、凄く気になることがあるんだけど、ここの王都って防備がガバガバだよね。どうしてなの? 」
私にはシエラが言っていることがよくわからなかった。
「へぇ.. シエラっていろいろ詳しいのね。正直、そんな質問されるとは思わなかったわ」
ラヴィエはシエラに何かを感じ取るような目つきをしていた。
「なに、なに? なんか2人だけわかっていてずるい! 」
「アカネ様、普通、城下町というのは人の壁なのですよ。城壁があり、次に人の壁があり、そして城は守られているのです。ここみたいに外門から大きな道1本で王宮に来られるなんて、敵が襲来したときに『はい、どうぞ』と言っているようなものです」
「 ..あれは私がお父様を説得してそのようにしてもらったのです。お父様を説得するのは並大抵のものじゃなかったです。でも、あれは国の意思表示なのです。今は、伝説になっている『3主の力』。未だにその力を信じて滅びゆく村や町がある。世界の六大王国も決して全ての国の財政が潤っているわけではありません。そのような村や町、人々を救えないでいる国もあります。長い歴史に敵対した王国同士は表面上『友好』『協力』と言いつつも、いつまでも腹の探り合いばかり。一向に前に進もうとしません。ならば王国フェルナンから始めようと思ったのです。今こそ、若い世代より各国が手を取り合い真の協力をしていくべきだと。その意思表示なのです。今回の料理対決も私が考えたのよ。『くだらない』って言う大臣もいたけど、でもそんなくだらないことに笑い合って信頼を一歩でも進めることができれば、それは素晴らしい事でしょ? 」
「すごい。すごいよ! ラヴィエ! とてもじゃないけど私なんかじゃ考えられないようなことするラヴィエを尊敬する」
..そうだ ..これって友達同士で険悪になった時、自然体の杏美ちゃんが手を取って仲直りさせる。いつも杏美ちゃんのやっていたことに似てるんだ。もしかして現世の杏美ちゃんとラヴィエって魂でつながっているとか?
「今はまだ王国ギプスのカレン王女、王国シェクタのブレス王子しか私の考えに賛同してくれていないけど、絶対に若い世代では協力し合えるって信じてる」
「ラヴィエ、まるで夢物語のようだね。僕は歴史を勉強しているんだけど、今までもそんな事を言ってきた王族がたくさんいたよ。だけど、結果に残ったのは裏切りによる失敗さ」
「シエラ、なんでそんな意地悪言うのよ! 」
「確かにそうだった、今までの過去は。だから今度は私たちがそれを実現するんだよ。絶対に諦めない」
シエラの意地悪な発言に怯むことなく、ラヴィエは堂々と言ってのけた。
「はははは。ラヴィエ、僕は君が好きだよ。アカネ様、この意思の強さです。ヨミはわかっていたんです。ラヴィエがいつか自分にとって脅威になるって。そしてその意思の強さがアカネ様と僕をラヴィエの前に呼び寄せてしまう事を」
「ヨミっていったい誰のこと? それにあなたたちは? 」
ラヴィエが私とシエラを順に見て疑問に思った時、王宮広場から、大きな鐘の音がした。
『ラヴィエ様、料理の用意が整いました。お客様の席も用意してございます』
執事長カルケンさんが迎えに来た。
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