第13話 殺意と笑顔

 私は「時の加護者」アカネ。

 なんとも悪い衛兵だ。奴ら権力を傘にやりたい放題だ。でも、お約束どおり、奴ら私に目を付けた。そりゃ目立つよね。だって私の姿は学校帰りの女子高生なのだから..


—ビーシリー 料理屋—


 ジキの悪行に怒った若い店員の声で店は静まり返った。ジキは私の手を放すと下品に口元をゆるませながら、若い店員の方へ振り返った。


 「ほほ~。これは珍しいぜ。神がくださったこの素晴らしい世界に対して、お前は不満があるってことだな」


 ジキが腰の警棒を握りしめると、厨房の方から女性店員が割って入った。


 『どうもすいません。ちゃんと息子に言いきかせますから』


 と言いながら満面の明るい笑顔を浮かべている。その台詞と表情の不釣り合いに気持ちの悪いものを感じた。


 「そうだなっ! ばばぁ! 」


 ジキが足の裏で女性の顔面を蹴り飛ばした。それでも身を起こした女性は鼻血を拭わず


 『はい。言い聞かせます。私が言い聞かせます』


 と変わらない笑顔で男に訴えていた。


 『笑顔』の為に妙な光景だったが、私は涙があふれてきた。


 「母さん、なんで卑屈に笑うんだ..こんな奴、俺がやっ—」


 パンッ!


 私は若い店員に詰め寄り頬を思い切りひっぱたき、静かな口調で言った。


 「あなた、今のお母さんの気持ちがわからないなら死んだほうがいい」


 「おお~。変な服装の姉ちゃんも混ざって楽しくなってきたな。だがな、その小僧のたわごとしっかり聞いたぜ。その小僧は少し折檻しなきゃいけないな。それが終わったら次にお姉ちゃん、その怪しい服を脱いで身体検査だねぇ。なぁ、ルキ、それでいいよな」


 「ははは。ジキよ、職務上の任意検査なんだから、相手に一応同意してもらう必要があるな」


 「では、よく聞けよ。これは任意の検査だ。不服なら拒否もできるがどうする? なぁ、姉ちゃん」


 (これはまずいことになったなぁ..とか言ってる場合じゃない。ほら、今よ、すぐに来なさい。シエラちゃん! 出番よ! )


 「いたた。痛いって!! 」


 再びジキが腕を引っ張り上げ、その太く汚い指がやらしく襟元に差し込まれた。


 —ガバンッ!


 勢いよく扉が開いた。


 「はぁ~い。そこまでよ。はいはい。お終い。解散ね。アカネ様、おまたせ」


 「もう! 遅いじゃない! 」


 「げへへ。もう一匹教育し甲斐のあるのが入ってきたなぁ。これは今晩は検査続きで眠れないなぁ」


 「殺すぞ」


 それは私が今まで知らないものだった。まるでそこから指一本でも動かせば、鋭い虎の牙と爪が頭を吹き飛ばしてしまいそうな、芯から身がすくむ恐怖だ。


 ジキを見ると..なんと失禁している。


 「..あわわわ」


 「どうした? ジキ」


 「ひっ、こ、殺される。殺さないで~! 」


 シエラが出口を指さすと、ジキは顔を恐怖で歪ませながら一目散に逃げていった。


 「ジキ!! お、おまえらこの街を出られると思うなよ」


 そう言い残すとルキはジキを追いかけ店を出た。


 「ずいぶん盛り上がっていたようですね。アカネ様」


 「シエラ! そこに居たでしょ! それもかなり前から! 」


 「え~、そんなことないですよ。僕は2階で宿を取ってましたよ」


 「ふん。嘘言っても無駄。私、シエラの気配を感じ取れるようになったんだから」


 「あたたた。もうですか? ずいぶんと早いですね。さすがアカネ様」


 「でも、これって、どういうことなの? 」


 「僕はアカネ様の分身ですからね。双子よりもお互いを感じ取れるってことです」


 「そうなんだ..じゃない! なら早く来なさいよ! 」


 「へへへへ」


 シエラはいたずらっ娘ぽく笑っていた。この屈託なく笑う娘が、さっきの恐怖を放つ者と同一人物っていうのが..まったくヤバすぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る