第12話 クソ野郎と叫びたくて

 私は「時の加護者」アカネ。

 ビーシリーの街でまずは宿の受付を済ますシエラ。私は先に料理屋に入り、シエラを待つことに。しかし、トラブルと言うのは向こうから近づいてくる。衛兵らしき2人が旅客に絡み始めたのだ。んっ、もう!早く来てよ、シエラちゃん。


—ビーシリー 料理屋—


 他の客の料理を床に落とした大男は、口では謝りながらも得意そうな顔をしていた。散乱した料理は酢豚のような匂いを沸き立たせていた。すぐに若い店員が駆け付け、床を清掃し始める。


 「こらこら、ジキ。気を付けないと旅の方々や店に迷惑だろ」


 「ああ、悪い、悪い」


 2人の存在に気が付くと厨房から笑顔を見せながら店主が出て来た。


 「ルキさん、ジキさん、今宵は良い晩で」


 「おお、店主。何か変わったことはないか? 街の治安を乱しそうな旅人とかいないかね」


 「ほら、こうやって見まわりに来てやっているんだ。何でも遠慮なく言えよ」


 「何もございません。いつもありがとうございます」


 店主はより一層ひくつに笑ってみせた。


 「なに、街の治安を守るのが我らの仕事だからな」


 「そう、そう。君らの笑顔を見るのが俺たちの喜びな・ん・だ・な」


 そういうと意味もなくジキがカウンター脇に置いてある卵を床に落とし始める。店主は変わらず笑顔を絶やさなかった。そして慌てながらパンやハムなどの食材を籠に敷詰めるとジキに渡した。


 なるほど。どうやら2人はこの街の保安を守る衛兵らしい。そして、だいたいの察しがついた。これは私が巻き込まれるパターンだ、きっと。


 私はなるべく目立たないように体を小さくして顔を下に向けていた。なぜ私がそのように察したかって? 


 だって私、学校の制服だよ! これ、絶対に目立つじゃない! 


 心の中で『早くいなくなれ』と願わずにいられない。


 「おや..店主、変わったことがあるじゃないか」


 (その言葉の意味よ、はずれてほしい..)


 そして私のテーブルに足音が近づいて来る。


 (んっ、もう! ..やっぱりだ)


 「顔を上げなさい」


 「あの..わ、私でしょうか? 」


 「このテーブルに君以外いないでしょ」


 恐る恐る顔を上げる。


 「ほ~、これは可愛いらしい顔と何とも甘い香りがしますね」


 ルキは私の首元に顔を寄せて来た。


 「今夜は楽しめそうだな、げへへへ」


 横から下品な笑いを振りまきながらジキが来ると、私の片手を引っ張り上げた。


 「痛い! 」


 「お..お前ら..いい加減にしろよ。人の店で好き勝手やりやがって」


 床を清掃していた店員が声を震わせて立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る