第8話 吹きあがる嵐脚

 私は一ノ瀬茜。

 白い手の連中に拉致され、神官グラムの宮殿に連れて行かれる私。そこでもしつこく尋問される。奴らはカバンの中にある「懐中時計」を発見すると、突然、私を殺す決断をする。「誰か助けて!」その時、宮殿の中に凄まじい竜巻が吹き荒れた。


—グラムの宮殿—


 ガゼが私の首に剣を突き刺そうとしたその時、突然、私以外の者は全て砂塵に包まれて吹き飛ばされた。


 竜巻がおさまると、私の横に長い髪にワンポイントのブレイズが特徴的な女の子が立っていた。


 「信じておりましたよ。お帰りなさいませ」


 茶色く汚れた服に片足がズタボロのパンツ。顔は、きっと私のほうが少し良いはず..


 ひとつだけ消えずにいるランプの下にいるガゼが叫んだ。


 「グラム様、お逃げください! 私が何とか時間を稼ぎます」


 「ひっ、やはり現れおった。ひぃ! 」


 さっきまで気取っていたグラムは無様な声をあげながら逃げていく。


 「ふ~ん。僕が誰だかわかっているのだな」


 「当然だ。私はもともと『刻の社』の警備隊長だ。あなたの顔は見飽きるほど見ていた」


 「それでも闘う? 」


 「ああ、その娘が 『それ』だとしても、あなたの力はまだ弱いはず。それに私はあなたに憧れ、あなたの技を体得するため研鑽を積んできた。今、私はあなたを超えるのだ! 」


 「へぇ。なら試してみるかい? 」


 その瞬間ズターンという大きな地響きとともに2人の足が交わった。このような格闘技見たことがある。これはカポエイラという格闘技に似ているのだ。


 2、3度その足が行き交う影が見えたが、その後は砂埃が舞い上がりよく確認できなくなった。ただその秘めた力の質量が風を切る音、足を交える地響きがその場を支配した。


 「きゃっ!」


 砂埃で見えないのにリアルに伝わるその危険な迫力につい声を出してしまった。辺りに舞い上がる砂がなくなると2人の足が見え始めた。凄い速さで2人の足がぶつかり合う!


 だが、時に編み込みの女の子は足の力を緩めているのがわかった。確実に当たる攻撃をあえてしないでいる。さっきも脇腹に入れることができたのに、一瞬寸止めしているのだ。


 女の子は足を止めた。


 「守護者シエラ様..なぜやめるのだ」


 「まだ僕に『様』をつける男を殺したくはない」


 「馬鹿な! まだ勝負はついておらぬではないか」


 「いや、もうついている。アカネ様はもう僕たちの足の動きが見えている。これがどういうことかわかるよね」


 「ふざけるな! 」


 「ガゼよ。お前、足を失ってしまうよ。僕は僕に憧れてきた者の足を奪いたくはないんだ」


 一見、お互い相手の攻撃を防いでいる。しかしその足に大きなダメージを負っているのはガゼなのだ。その破れたズボンに見えるガゼの脛は内出血を起こして酷い色をしている。


 「僕の体は岩でできている。傷つくのはお前だけだよ」


 「く..あなたは、どうしても勝負をつけないというのか? 」


 「ああ、そうさ」


 「..ならばっ! 」


 風圧と共にガゼの足は私をめがけて飛んできた。だが、私はわかった。その足が決して私に届かないことを。


 太い生木を折るような鈍い音とともに、ガゼは壁まで吹き飛んだ。


 「もう、お前の足は治らない。だが生きろ」


 「ぐっ..なぜだ。なぜ今になって現れた。時の加護を持つ者よ。進む道を示さず居なくなったくせに、私は.. 私はあなた方を許さない」


 「ガゼよ。それ故にお帰りになったのだ。まぁ本人にはその自覚はないようだけどね。 さ、早く行きますよ、アカネ様」


 「え、でも..あの人が.. それにあなたは? えっ? えっ? 」


 「大丈夫です。奴は死にはしません。さあ、さぁ! 」


 腕を引っ張られ宮殿をあとにするなか、私はひと言だけ大きな声で叫んだ。


 「ガ、ガゼさん。馬車の中であなたが一番親切でした。ありがとう」


 シエラ様という女の子の顔をチラッと見ると呆れながらも笑みをこぼしていた。


 ちょっと仲良くできるかも..でも.. この子の顔って見覚えがあるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る