第6話 ガゼ、ロウゼ、ミゼ

 私は一ノ瀬茜。

 エスカレーターにてあの「白い手」が、こともあろうか親友の杏美ちゃんを突き落とそうとした。私がその手を思いきり叩くと、世界がキャンバス上の線画になってしまった。そこについに白い手の正体が姿を現した。普通の女子高生である私が太刀打ちできるはずもなく気絶させられた。夢なら覚めて!


—知らない世界のどこか—


 「はゎ~.. うっ..」


 「うわ! こいつ吐きやがった! しかも何だ、この異様な匂いは! 」


 胃までが口から出てきそうだ。何、ここは?馬車? 凄く揺れる。


 「ほぉ~。見てみろよ、ミゼ。こいつの服やらこの吐瀉物(としゃぶつ)を見ると、やっぱりこいつは向こう側の人間のようだぞ」


 「うるせー! ロウゼ! そんなことはわかってるんだよ。実際に俺はこいつに思い切り腕をたたかれたんだからな。この野郎、今でも腕がジンジンしやがる。なんて馬鹿力してやがるんだ」


 「ミゼ、落ち着け。戻ったら医者に診てもらえ。もしかしたら骨がいってるかもしれないからな」


 「くそ! やっぱりこいつはここで殺しちまおうぜ! 」


 「やめろ! ミゼ。このガゼの言うことがきけないか? 」


 「わ、わかったよ..ちっ」


 (ガゼ、ロウゼ、それとミゼだっけ?あの場に3人いたのか..)


 「おい、女。聞こえているのだろう。このガゼが質問するぞ。お前、何で入って来れた? 」


 「 ..う ..何に? 」


 「『時の狭間』だ。そうか、その様子.. お前初めてか? そして偶然か? 」


 「ガゼ、偶然ではないだろう。この娘、特に変化はみられないようだ」


 「うむ。そうだな。それならば、この女は持っているはずだな」


 「ねぇ..あなた達、さっきから何を言ってるの? 」


 「女、お前は持っているのか? 」


 「だから何を言っているかわからない! 」


 「おい、女よ、とぼけていないで、さっさとガゼの質問に答えろ」


 「まぁ、待て、ロウゼ。この女には自覚がないらしい。見せたほうが早いだろ」


 ガゼという男が胸元を開け、首に下げていたものを取り出す。手のひらに乗せたのはブロンズ色の懐中時計だった。


 「女、お前、これと同じものを持っているな? 」


 色は違うけど、これは正直に言わないほうがいいかも..きっと、これ取られてしまった時点で、とてつもなく悪い状況になるパターンだわ。


 「ガゼ、もうこいつ殺した後に身ぐるみ剥がして調べてしまった方が早いだろ! 」


 「待て、ミゼ。こいつの持ち物検査はグラム様の前で行うのだ。我々が勝手な真似をすることは許されていない」


 「もう、そんなの関係ねぇだろ。だいたい神官グラム様とか言ってやがるが、あいつは..」


 「黙れ! 」


 どうやらこのガゼという男が一番偉くて分別がありそうだ。逆にミゼと言う男は怒りっぽい男で荒くれ者のようだ。


 「あの、持ってません」


 「はぁ。こいつとぼけてやがるぜ。仕事はじゃまされ、その上なめられっぱなしで、良いところなしですぜ、ガゼ様よ」


 「それは小娘ごときに腕をケガさせられた自分を戒めた言葉か?ミゼよ」


 「なんだと! ロウゼ、てめー!」


 「だって私、持ってないですもん」


 「まぁ、いい。お前はグラム様の前で洗いざらい吐かざるを得ないんだからな」


 何? また吐くの? そうだ、思い出した! せっかく杏美ちゃんにおごってもらった1300円分のケーキセット全部吐き出しちゃったじゃない! それにこの扱い。なぜだか恐いより腹立たしい! それよりもこいつらに狙われていた杏美ちゃんの身が心配だ。

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