第4話 メリーバッドエンド?
5の矢は思いがけず、国に大層な忠義を誓っている王家の影が動いた。
自発的に動いてしまった。
『
王都各所で高位貴族の婚約者を持つ令嬢の暗殺未遂や、事故未遂が多発した。
「ちょっとアルス!王様は一体何をしたいの!あちこちでご令嬢の暗殺騒ぎを起こしてんの、あなたのところの影じゃないの?」
「違うぞ!断じて父上はこんな命令を出したりなんて出来ない人だ。不器用で不自由なくらい非情になり切れないから苦労ばっかりしてるんだろ」
「なら宰相?けどコルネリウスのお父さんって頭が切れるから、こんな無茶をするとは思えないけど……」
「当然です。父がそんなことをする様なら私自らが父を糾弾して隠居させます」
魔導士長クルトの各地の様子を映し出す魔法「見鏡」によって、アクリメント王国各地の様子を見ていたトワは思わず悲鳴を上げた。濡れ衣を着せられかけたアルスとコルネリウスも憤慨しつつ困惑の様子だ。
不審な気配をトワが感じると同時にその座標をクルトに伝えて魔法「見鏡」の作り出す一抱えほどの大きさのリアルタイム映像の映る円盤を周囲に浮かべて行く。その数は刻々増えて行き、郊外の宿の一室でしかないその場は、さながら異界のオペレーションルームの様相を呈してきた。
令嬢を害そうとする王家の影の動きを感じ取ったトワの指示する場所を魔導士長クルトが映し出し、不穏な動きをする者への対策を宰相令息コルネリウスと公爵令息エトヴィンが瞬時に判断し、騎士団長令息ダーヴィトが具体的行動を指示してトワが白カラスで現地に伝える。公的機関の警邏隊や騎士団を使うときは王太子アルスの肩書にモノを言わせた。
段取り良く行われる連携作業に、騒ぎを起こしていた王家の影たちは、次々に捕縛されて行く。
万が一被害が出てもトワが聖女の魔法を駆使して全てを救った。
(あの国王……おとなしくしていれば滅茶苦茶な事態を引き起こして、もぉゆるさないんだから―――!!)
国王の胃の耐久値には変化はなかったが、聖女の忍耐が擦り切れた。
※ ※ ※
アーデルベルトが嫌な予感に魘されつつ、束の間の浅い眠りに就いていると、首筋にひやりと冷たい鋼の感触が当たった。
「陛下御覚悟を」
眼を覚ました王の寝室にひっそりと佇んでいたのは、剣を突き付けた騎士団長令息ダーヴィトをはじめとした、魔王討伐から戻ったばかりの6人だった。
「魔王の次に弑するのは私か。良いだろう。私も疲れた……好きにするが良い」
全てを諦めたような穏やかな声にカッと目を見開いたトワは、足音高くアーデルベルトの側へ近づくと、右手を高く振り上げ、力任せにその頬を打った。
「この大馬鹿もの―――――っ!!!」
平手打ちの派手な音と聖女の怒声が響き渡り、流石に気付いた城の衛士が寝室の扉を開ける。けれど、少しの動きも許さない緊迫した室内の様子と、そこにいるのが王太子を始めとした聖女ら魔王討伐の功労者たちとあって、すぐさま動きが取れるものは居ない。
「今回の事で父上が王に向かないことはつくづく思い知らされました。よって、私に王位を譲っての速やかなる退位をされることを望みます」
アルスが覚悟を決めた面持ちで父の前に立ち、トワが幾分か和らいだ表情でアーデルベルトを見詰める。
「わたしでアルスの後ろ盾になれるんなら、どれだけでもここに居るわ」
「――ならば、アルスと婚約するか?」
的外れな言葉に、トワは鼻で笑う。
「馬鹿言わないで、アルスにはちゃんとした相思相愛の婚約者がいるでしょ?わたしがここに残るのは、支えなきゃって思える馬鹿な人がここに居るからよ」
ダーヴィトに剣を引かせたトワは、驚きに目を見開くアーデルベルトの頬にそっと手を添えた。
(馬鹿な人。非情な判断を下さなければならない時もそれができず、婚約者を持つ高位貴族の婚約を強引に解消させることも出来ない優しすぎる人。聖女を無理にこの国に留めおくため、罪人として搾取する事や、幽閉するなんて事は思い付きもしないんだもの)
『戦勝祝賀会』では1年の後、この世界の成人年齢となる王太子に王位を譲り渡し、アーデルベルトは1代限りの公爵位を得て聖女トワと結婚し、アルスを支える臣下となることを発表した。
アーデルベルトの治世は終わることとなったが、彼は一目見た時から惹かれていた最愛の女性と結ばれることとなった。
聖女あまってます!ー王はバッドエンド回避のため溺愛系イケメン高位貴族婚約者を探しに奔走するー 弥生ちえ @YayoiChie
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