君と僕とのワンルーム

鹿之助

君と僕とのワンルーム

 僕は君と一緒に住んでいる。いや、住まわせてもらっているの方が正解かもしれない。君と僕だけの生活、確かにとても楽しいけれど……。


 ふと、悩むことがある。

 最近仕事を始めた君にとって、同年代のくせに自由気ままな生活をしている僕は必要なのだろうか。

 君は毎日忙しいだろうに、炊事も洗濯も掃除も僕のことも……どれ一つとして蔑ろにしない。そんな所が素敵だとも思うけれど、ビー玉のような瞳が日々くすんでいく姿を見ていると心配の気持ちが僕の胸をざわつかせる。


 ちなみに、僕だって何もしないわけじゃない。この前の大雨の日も、遅くまで働く君のために部屋の掃除をしておいたことがあった。どうやら失敗に終わってしまったみたいだけど。

 あれは時計の針が一本になろうとしている頃だった。君はスーツをぐしゃぐしゃにして帰ってきた。僕がタンスから引っ張り出してきたタオルは、満面の笑みで受け取ってくれた。いつもありがとう。今日は掃除をしておいたよ。

 君は僕の頭を撫でて部屋をぐるりと見渡すと、眉根を寄せて微笑んだ。

「君は何もしなくていいんだよ。」

 僕が片付けた物をまた違うところに置き始めた。僕なりに頑張ったんだけどな。

 少し悲しかったから、その日の夜はないた。


 朝、ベランダで鳴くすずめをじっと見つめる。何度かお腹が鳴った。今日はやけにご飯が遅いと思ってベッドに登ると、君は上気した顔で喉を小さく唸らせていた。そっとおでこに触れてみる。良く晴れた日の屋根瓦くらい熱かった。

 咳き込む君が、か細い声で僕の名前を呼ぶ。こんな状況でも、君に何もしてあげられずにいるのが、心の底から悔しい。せめて何か、君を落ち着かせられるものは──

「みいちゃん、手……かして……」

 ああ、そうか。ここにあったのか。


 君は、僕の肉球が好きだったね。

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君と僕とのワンルーム 鹿之助 @Shikanosuke

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