雨上がりに君は輝く(ボイスドラマ脚本)
【学生時にボイスドラマとして脚本を担当した物】
(雨が降る音、コーヒーを焙煎する音)
雪乃「なあなあ、仲春クン。キミ、いつまでそんな退屈な仕事をしてるんだい」
仲春「退屈もなんも勤務中なんですけど……」
雪乃「だってそこの棚、さっきも掃除したじゃないか。暇ならちょっと座りたまえ。コーヒーを煎れてあげるからさ!」
仲春「だから勤務中なんですって」
雪乃「店長が良いって言ってるんだ、バイトのキミは従いたまえ〜?」
仲春「横暴だァ……時給は発生します?」
雪乃「ウン、発生するとも。ほら座った座った、こんな古書店、雨の日に客なんて来るもんか」
仲春「それ、自分で言うんですね」
(椅子に座る音、コーヒーを注ぐ音)
雪乃「経験則さ。ほら、火傷しないように気をつけなよ?」
仲春「子どもじゃないんですけどぉ……ありがとうございます」
雪乃「――いいや、キミは子どもだよ。背伸びした子どもだ」
(雨音が響いている。少しの沈黙)
仲春「随分言い切りますね、雪乃さん?」
雪乃「キミは夢を諦めることが賢いと思っている子どもだよ。違うかい?」
仲春「どうしてそう思うんですか……そもそも俺は夢なんてないですよ」
雪乃「そういうところ、かな?キミは作家を目指してたんだろう、だから文学部に入った」
仲春「どこでそれを――あ、いや、前に言ったような気がするなァ……!」
(頭を抱える仲春。楽しげに手を組む雪乃)
雪乃「マァマァ、ともかくだ。私はキミの夢――作家を目指すことを応援したいんだよ」
仲春「応援、ですか?」
雪乃「そうとも。というわけでキミ、夢を追いかける気は?」
仲春「ありません。作家なんて非現実的じゃないですか。才能がないと食っていけない」
雪乃「まったく夢のない!……が、実際その通りかもしれないね」
仲春「でしょう?ちょっかい掛け損でしたねェ〜、雪乃さァん?」
雪乃「マァ待て、煽るにはまだ早いぞ?……そもそも、だ。夢とは理性で諦めるモノじゃない、遠くの星に手を伸ばすようなモノだ。キミは星の輝きから目を背けている」
仲春「ッそれは、」
(ガタンと椅子の動く音)
雪乃「星は常に輝いている。それなのに君は目を逸らしているんだ」
仲春「そんなに言うならアンタが目指したらいいじゃないですか」
雪乃「オヤ、素が見えた。私はもう夢を叶えたからさァ〜キミみたいにくすぶってなんてないんだよねェ!」
仲春「そうなんですか?」
雪乃「私は仕事を辞めて古書店を開いたのさ。大人になってから見つけた夢を叶えたんだよ」
仲春「周囲に反対されなかったんですか?」
雪乃「勿論反対されたとも!だが反対するヤツらは私の人生の責任を取ってくれない。なのに一度きりの人生を退屈にしようとするんだ、話を聞く必要なんてないさ!」
仲春「一度きりの人生……」
雪乃「そうとも。星のない人生なんて、どんなに賢しくたって楽しくないぞ?」
仲春「でも雪乃さんだって責任取ってくれないじゃないですか!もし俺が星を追いかけてずっこけたってッ……!」
雪乃「その時は必ず責任を取るとも。どこまでも星に――夢にかじりついて手を伸ばす、それが大切なんだよ、仲春クン」
仲春「手を伸ばす……」
雪乃「キミにこれを譲ろう」
(雨が響く音、本を差し出す音)
仲春「これは?」
雪乃「私のお気に入りの本なんだ。開いてごらん」
仲春「……なんも書いてないんですけど」
雪乃「その通り。その本はキミの未来だ。キミの未来はまっさらに白紙で、誰にも定められてない。キミの明日はキミで決めるべき。そうだろう──仲春クン?」
仲春「──!!ああ、もう、ホントにアンタって人は……!!」
雪乃「さて、もう一度聞こう。……キミは、星を追いかけるかい?」
仲春「──こうも言われて黙ってるのも癪だ、アンタの話にノってやるよ、雪乃さん」
雪乃「いい子だ!せいぜいやって見せておくれ!ああそうだ、餞にこれもあげよう!」
(カップを置く音、ひとつの箱を手渡す)
仲春「万年筆?」
雪乃「そう。私のおさがりだがね、是非ともその万年筆で綴って欲しいんだ。──キミの、キミだけの物語を、ね」
(来客を告げる鐘の音、雨音は止む)
雪乃「どうやら長雨も止んだみたいだ。出てやってくれるかい、仲春クン」
仲春「はーい。……またコーヒー飲ませてくださいよ、雪乃さん」
雪乃「いいとも。ただし時給は発生しないがね?」
仲春「わかってますって」
(席を立つ音)
雪乃「──さて。……夢を追いかける姿を楽しみにしてるよ、白紙のキミ」
〜終わり〜
散文倉庫 綿津サチ @wadatu_sachi
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