第19話 どっちにしよう?(迷ったら読め!)
「う〜ん。わかんないや」
ひなはスマホを手にしてうなっています。一人称と三人称、どっちで書けばいいのでしょう?
「ひな、下手の考え休むに似たりだよ」
「失礼なこと言わないで」
「だってさっきから、一文字も打ち込んでないじゃない」
「う〜。じゃあどうすればいいのよ」
「他の人の小説を読みに行こうよ。なにか分かるかもしれないよ」
モコりんの言うことはもっともです。お腹がすいてきたひなは、モコりんと一緒に夕ご飯を食べに行くことにしました。
「今日はここに入るよ。メニューはボクが決めるね」
そこは、インドカレー店でした。
モコりんは、「3種のカレーセット、ナンお替り自由」を頼みました。
「さあ、まずはサラダとスープを食べてみて」
最初に来たサラダとスープは、三人称の物語でした。東洋風な異世界で、悪役令嬢が婚約破棄され、美しい王子と立場の弱い下町出身の娘が婚約する短編でした。
「おいしい。この話好き」
「よかった。じゃあ二話目ね」
モコりんは、続けてきたチキンカレー(甘口)を食べる様に勧めました。
「これは……」
それは、一人称で書かれた悪役令嬢のお話。子供の頃から王子の婚約者として親からの愛情を受けずにそだった娘。そのため感情を上手く表すことが出来ず誤解され続けるのです。でも、正しくあろうとする姿が、「冷たい」とか「嫌味」などと周囲から思われ、どんどん嫌われ孤立していく。何一つ悪くないのに、誤解と陰謀で悪役にされて婚約破棄を受けた娘の悲しみの短編でした。
「どうして? 同じ話なのに」
「それが、三人称と一人称の違いだよ。三人称は心の中は書けない。状況を書くからね。逆に、一人称は主役の目で見たことと心の中が細かく書けるんだ。でも、他の人の見たことや心の中は書けないのさ。次は豆のカレーだよ」
ひなは、豆のカレーを食べました。こんどは、下町のヒロインのお話でした。
「なにこれ!」
ヒロインは、貧乏な家に育ちました。子供の頃から意地が悪く、人をだまし、弱い幼馴染をいじめながら、「こんなところは嫌だ。お金持ちと結婚して贅沢するんだ」と思いながら育ちました。ある日貴族の家に引き取られ学園に通うことになりました。そこでは、何も知らない弱い女の子として過ごしながら、王子やその取り巻きに近づき、王子の婚約者にいじめられるふりをして見事婚約破棄させるという、サクセスストーリーでした。
「なんで、三人称では美しかった話が、一人称だとこうなるの?」
「だから、三人称は外観だけを写すカメラみたいなものだから、ヒロインの心を書かなくていいんだよ。でもね、ほら、微妙な表情とか動きで、じつは悪いヒロインだって書いてあったんだよ。よく読めば気付けるようにね。この作者の上手な所がこのさり気なさなんだよ」
最後に来たのはスパイシーなキーマカレー。王子の話です。
食べ終えたひなは、一言だけいいました。
「王子最低!」
「まあ、ラッシーでも飲んで機嫌直して。どう、一人称の奥深さと三人称の役割、分かった?」
ひなはラッシーを飲み干すと、ため息をついてからいいました。
「本当に、同じシーンが書き方ひとつでこんなにも違うのね」
「そう。カメラで見るか、主役の心と目線か、ヒロインの心と目線か。その場にいる人が、みんな同じこと考えているわけじゃないからね。その人が置かれている状況や立場、場所、性格、性別。いろいろな感じ方を人はしているんだよ。それを明らかにするのも、小説を書く醍醐味なんだ。同じ人でも、相手によっていい人に見えたり悪い人に見えたりするんだよ」
モコりんはひなを見つめていいました。
「それが、視点の大切さなんだよ。視点はブレてはいけないんだ。作者の視点か、誰が主役として視点を受け持つか。それを決めるのが大事なのさ。今日食べたカレーは、
ひなは、ますます悩みが深くなったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます