6-5話

「あれから3年にもなるのね」


 無意識のうちに声が漏れた。


「え?」


 晴海がカレーを食べる手を止めていた。


「パパが亡くなってからよ。ハルちゃんにも寂しい思いをさせちゃったわね」


「私なら平気よ。ママもお兄さんも、……比呂君だっているし。私、思うの。比呂君はパパの生まれ変わりだって。……パパが、自分の代わりに比呂君を、私たちのところに送ってくれたんだって。……だから、早く比呂君を見つけてね」


 そう語る彼女の目は、恋をする乙女のものだった。


「ええ、わかったわ」


 倫子は娘の成長を実感した。今は神宮皇后から人類を守るためではなく、彼女のために、比呂彦を見つけようと決意した。


 翌日、東都大学に足を運び、原子力規制委員長を務める福井ふくい茂雄しげお教授の研究室を訪ねた。彼は東都大学院の原子物理学の教授でもあり、学会等、顔を合わせる機会も多かった。アポなしだったが、書物の隙間に申し訳なさそうに鎮座する応接椅子に座るように勧められた。


「宗像博士、先日は情報提供ありがとう。助かりましたよ。まさかあんな場所に未知の原子力機関が埋もれているとは。……宇宙人のものですかな? 大発見です」


 彼は上機嫌だった。


「その意見には私も半分同意です」


「半分?」


「手放しで喜べないのは……」


 神宮皇后の名前を思い出し、一瞬、言葉に詰まった。それを言ったところで笑われるだけだろう。


「……喜べないのは、情報提供者が警察を名乗る何者かに連れ去られたからです」


「連れ去られた?」


「誰が連れ去ったか、ご存じありませんか? 拘束されたのは住吉比呂彦という大学生です。東都大学の」


「東都……」


 彼の眉間にしわが寄った。


「……残念ながら、私は何も知らない」


「福井さん。彼の拉致があなたの差し金だとは思っていません。ただ、あなたから情報を受け取った誰かが、あるいは、その先の誰かが公安機関を動かしたのでしょう。あなたが情報を伝えた相手を教えてください」


 そう問い詰めると、福井は内閣官房の海野うんのという職員の名前をあげた。


「おそらく……」彼が付け加える。「……国家安全保障会議の指示のもと自衛隊が動いているのではないだろうか」


 国家安全保障会議、聞きなれない組織だった。倫子は、忘れないように記憶に刻んだ。


「福井さんは、現場に出向くよう、依頼はされなかったのですか?」


「必要になれば要請するということでした。今のところ、その段階ではないということでしょう。しかし、一刻も早く古代の原子力機関を見てみたいものですな。胸が躍ります」


 彼が子供のように笑った。

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