6-4話
「出現って、どこから現れるの?」
アインシュタインが告げに来たということは、時空を超えてくるのかもしれない。……倫子はそんな期待をしていた。
「彼女は今、カガミノ船の中で眠っているのです。そうして傷んだ身体を治癒している」
どうやらこの世界のどこかに、すでに存在しているらしい。推理が外れたことに、わずかばかり失望を覚えた。そして自分が間違っていたことを理解した。アインシュタインが導き出した相対性理論では、この世の物質が時空を超えることは難しいからだ。その可能性を導くワームホール理論が確立したのは彼の死後だ。あくまでも理論レベルだが。
「良かった。傷むということは、不死身ではないということね」
思わず皮肉めいた言い方をした。
「信じられないようですね?」
比呂彦の顔に失望が浮かぶ。
「どうして信じられるというの。突然現れ、神宮皇后だの世紀末だの……。下手な宗教の勧誘と同じじゃない。私に信者になれというの?」
売り言葉に買い言葉、詐欺師に対するように話すと、比呂彦が首を振った。
「懐疑的なのは科学者として重要な資質です。しかし今は信じてほしい。神宮皇后の復活は遠くない。それによって数万人が亡くなるかもしれないのです……」
彼は考える仕草をし、改めて口を開いた。
「……仕方がありません。取引しましょう」
「取引?」
「僕がご主人の遺体を見つけます。その代わりに、神宮皇后復活の時まで、僕をお宅に住まわせてください。そのくらいなら良いでしょう?」
「遺体を見つけられるというの?」
まさかと思った。しかし、できるものならそうしてほしい。……うなずくと、彼は向きを変え、闇の中へスーっと消えていった。
倫子はしばらく闇を見ていた。それから本堂を出て星明りの境内を見渡した。が、そこに彼の気配はなかった。
祭壇の前に戻り遺影に声をかけた。
「あなた、帰って来てね」
胸の中に比呂彦に対する期待が芽生えていた。彼が夫の遺体を見つけ出してくるのは明日だろうか? 明後日だろうか? いや、半月か数か月はかかるだろう。どれだけかかってもいい。夫を暗い海の中で一人にしておきたくなかった。どれだけ彼が海を愛していたとしても。
比呂彦が約束を守ったとわかったのは、彼が闇の中に消えたわずか10時間後のことだった。外務省から電話があった。夫の遺体がマーシャル諸島の港に流れ着いたという知らせだった。
その日の夕方、比呂彦が現れた。どうやって遺体を見つけたのか問うと、アインシュタイン博士が見つけたのだ、と彼は答えた。
倫子は、彼を親戚ということにして自宅に住まわせ、彼の希望を受けて大学入学を助けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます