第一章 子供時代
第1話 とりあえず使用人長事件
目を覚ましたら
私の場合はこのときが初めてだった。この後、八回も経験することになるが、このときは初めてだった。ちなみに当時の私の年齢は八歳で、身長は今の半分ぐらいで、体重は四分の一以下であった。
そんな
前日にアルブァンデラ宮殿付きの使用人たちが宮殿の予算を
そのことを知ったご主人さまは
さらにもっと簡単にこの状況を説明するならば、寝ている間にご主人さまによる怒りの首チョンパ待ちの列に並ばされていた、である。
というわけで、私が目を覚ましたときには地下牢獄は
が、当時の私にはその辺の事情はさっぱり分からなかった。義理の両親は
なので私は目を覚ましたあとは、普段通り
「あの、こちらでの私のお勤めはなんでしょうか? 飼い主さまのおっしゃるとおりにいたします。泣いたほうがよろしいですか? 叫びましょうか? それとも声を出さずに殴られるのがよろしいでしょうか? あ! 私、ようやく足の骨はつながりましたので、お好きな方から折っていただいて構いませんよ。お待たせして申し訳ございませんでした!」
そして私は、阿鼻叫喚をおいて真っ先にご主人さまの元に連れて行かれたわけである。
ちなみにご主人さまと奥さまにもほぼ同じ
「ミッシェル、いい加減に少しは疑いの心を……」
「あんなっ! 小さい子どもが! あんなに痩せて! ルヴァリァル! この、無能! 平民出の無知なる男! 恥を知りなさい! これは、あなたの
「暴れるな。君が
「
ちなみにこの、混乱の中に発した奥さまの
とにかく私は目の前でワチャワチャしているお二人を見上げて、なんだか怒ったり泣いたりしていて大変そうだと思い、とりあえず私のできることをしようと思った。
なので立ち上がり、彼らの足元に駆け寄り、まず泣いて怒っている奥さまの足首を掴んで、自分の頭の上に乗せた。
「どうぞ! ねじねじしてください!」
しかし、彼らはその瞬間に、言葉と動きを止めた。
私は『あれ、おかしいなあ、全然痛くないなあ』と思いながら、ご主人さまの足首も
「なにをするつもりだ、やめろ」
そしたらその前にご主人さまに怒られ、しかもご主人さまは奥さまを抱きあげてしまった。『おかしいなあ』と思いつつ、私は仕方なく頭をあげた。
「心が乱れていらっしゃるようでしたので、私の頭をふみふみ、ねじねじされれば、お
「何故そう思う」
「私、頭が踏みやすい形をしていると皆さまから好評を頂いております。骨が折れれば良い音も鳴ります。頭を踏みつけられるのは痛いですから、私もつい叫んでしまいます。皆さん、楽しいでしょう? どうぞ、お使いください」
ちなみに奥さまはここで意識を失われた。
ご主人さまは無表情で――どことなく顔色は悪かったが――私を見下ろしていた。
「皆さま、というのは、……誰のことを指している……」
「飼い主さまとその御友人の方々です」
「具体的に誰だ」
「私の飼い主さまはヤンギュード
「もういい。
そして、彼は私にこういったのだ。
「
私はよくわからなかった。
「故に汝を我が屋敷付きの使用人とする。他の使用人はおらぬ故、……汝を使用人長とする」
私は彼を見上げて、正座をした。
「つまり、あなたさまが、私の新しい飼い主さまですか?」
彼は私の目を見下ろしてから「立て」と言ったので、立ち上がる。彼は奥さまを抱きかかえて歩き出した。
「……最初の仕事だ、ついてこい」
「はい! どこまでもついてまいります! 飼い主さま!」
彼は歩き出した足を止めて、うんざりしたように振り向いた。
「
「ご主人さま!」
「この、我の妻のことは奥さまと……」
「奥さま! 奥さまは、お休みになられたんですか?」
彼はゆっくりと歩き出した。私は早足でついていった。
「……汝の仕事は、奥さまを命をかけて幸福にすることである」
「はい! わかりました! 奥さまに殺していただければ、よろしいのでしょ? ご
「全く違う……汝、年は」
「わかりません! あ。でも以前、飼い主さまから、八歳になったのに
ちなみにこのときご主人さまは意識を失った奥さまを玉座の間から奥さまの寝室まで運ばれた。今考えると、ご主人さまが人前で奥さまに触れていた最長時間である。が、そのときのご主人さまの顔色はどう考えても
「……名前は何だ」
「パルと申します。普段はゴミと呼ばれておりました! お好きにお呼びください、ご主人さま! ……ご主人さま、顔色が悪くございます。どうか私をいたぶってくださいませ。顔色が良くなります」
「なぜそう思う」
「運動は血行をよくいたします!」
「汝……賢いのに、なぜそうなった……我の統治のせいなのか……?」
「飼い主さまの
「もういい、黙れ、話すな……息をするなとは申しておらぬ。息はしろ。黙ってついてこい」
とにかく、この時から、私の仕事は始まったのである。
本当に、ご主人さまとしては珍しく、追いこまれていたなあ、と私個人としては懐かしく思い返せるのだが、ご主人さまと奥さまは未だに思い出したくないとおっしゃる、それはそれは、ひどい事件であった。
It's my job! 冷酷皇帝とツンデレヒロインをくっつけるだけの簡単なお仕事です! 木村 @2335085kimula
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