It's my job! 冷酷皇帝とツンデレヒロインをくっつけるだけの簡単なお仕事です!

木村

プロローグ

 私のご主人さまの表の二つ名は『決して燃え尽きることのない太陽皇帝たいようこうてい』だけど、裏の二つ名は『決して許すことのない冷酷皇帝れいこくこうてい』である。

 表の理由は、『一代にしてこのアルブァンデラ王国の領土を三倍にしたから』で、裏の理由は『一代にしてこのアルブァンデラ王国周辺の国を植民地とし、ナヴァリア大陸を制圧したから』だ。要するに表にしろ、裏にしろ、私のご主人さまは戦上手で、とても有能な君主くんしゅであることを示している。

 と、綺麗きれいにまとめてもいいのだけど、戦場に立つご主人さまを見た者はすべからく裏の二つ名を叫ぶそうだ。そう叫ぶ気持ちは、戦場に立ったことがないわたしでも、なんとなく予想はできる。

 だって、ご主人さまは戦場に行くとき角の生えた真っ黒な仮面をつけて、真っ黒なよろいを身につけて、真っ黒で大きいやりを持っていくし、一番大きくて一番速く走る真っ黒な馬に乗っていく。そんな怖い格好をしたご主人さまは他の兵士の方々より三倍ぐらい大きく見える。その上、兵士の方々から聞いたところによると、ご主人さまのやり方は徹底的てっていてき過ぎて救いがないらしい。

 つまり戦場で遭遇そうぐうしたら、『冷酷皇帝!』と叫びたくなるぐらい、ご主人さまは怖いだろう。それは認める。ご主人さまは戦場でたくさんのうらみを買っているから、その内に暗殺あんさつされる可能性がある。だからそばにいると危ない。ということも、まあ、百歩譲って認めよう。


 でも、私はご主人さまが冷酷だとは思わないし、ご主人さまのメイドという、この仕事をやめようとなんて全く思わない。

 だって、ご主人さまのお屋敷のメイドはとっても待遇たいぐうが良いのだ。


 だから私は今日も『暗殺者に会いませんように!』と祈りながらメイド業務に勤しんでいる。ちなみに私の名前はパルだけど、この物語においてはまったく重要ではないから覚えなくてもいい。

 この物語の主人公は私のご主人さまである『太陽皇帝』ことルヴァリァル•イグ•アルブァンデラさまと、その奥さまでおられるミッシェル•カノン•アルブァンデラさまであり、そして私のこの物語における役割はこのすれ違いまくりのご夫婦の仲を取り持つ、それだけなのだから。


 この物語の始まりは今から十年前。

 このお屋敷の使用人が全員ご主人さまによって惨殺ざんさつされ、新しく使用人候補となったのが私だけだったので、とりあえず使用人長しようにんちょうに任命された、通称『とりあえず使用人長』事件まで遡る。

 今思い返しても、あれはひどい事件であった。

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