第44話異種族との接近

筋骨隆々の男に、細身の謎の男、その二人に同行する幼女といういささか謎のパーティーが目指す地――――――エルフが隠れ住んでいるという森へと向かう道中。




「神々もうかばれないな。同じ種族同士で殺し合うとは……。」




 少女が唐突に言葉を漏らす。




「ん?同じ種族同士とはどういうことだ?お主、何か知っとるか?」




 それに反応したアルベールはそのまま細身の男にパスを出すと。




「あぁ、多分三大種族理論のことだろ?」




 と、何やら聞き慣れない言葉をいとも簡単に返す。




「そう。三大種族理論、元々この世界には3種族しかいなかったという理論のことだ。どこぞの魔法使いが勝手に喚き出した話だな。」




 少女が気まぐれに話した話ではあったが、細身の男もその話を切り出した少女さえも、さほど興味なさそげに会話が淡々と流れる中で。 




「ほう、つまりまだ証明できていない仮説ということか。ハッハッハ!これは楽しみだわい」




 アルベールただ一人その話に興味を示した。




「楽しみ?わからないことが楽しみなのか?」




 少女は不思議そうに尋ねる。


 少女からしてみれば未知は未知以外の何物でもない。真偽がわからないものに探究を傾ける意味すら分からなかった。


 そもそも彼女があの書庫で熟読していたのは魔術に関することばかりで、彼女にとって魔術あるいは魔法は戦闘に関する技術に過ぎなかった。




「当然だろ?未知を開拓できるのは先人の特権。開拓され尽くした狩り場にいる者が、新たな先駆者になることはないのだから」 




「旅とはそういうものなのか」




 少女は久しぶりに出た外の景色を見渡し、アルベールへと視線を向ける。


 彼女からすれば全てが新鮮だった。


 他者の思わぬ思考を知ることもそうだが、今までは他者の技術や戦術を見てその中でどうやって生き残るか?などという思考だったが、自らで編み出した。あるいは、自らで切り開くという未知しかない世界に踏み出そうという姿勢そのものが。




「コレコレ。何を悠長なことを言っとるんだお主は。我々の旅もそうであろうが、未知の種族との接触になるのだぞ。我々が生きて帰れば、それは新しい人類の一歩になるというもの。故に存分に楽しむと仕様ではないか」




 アルベールは笑顔でそう言いながら足を止める。


 すると、彼らが目指した森がアルベール達の前に広がっていた。




「どうやら着いたようだな」




 アルベールの声色が若干低くなり、覚悟のようなものを一瞬感じる。


 




「つっても、この森のどこにいるかもわからない奴らを探すなんてそう簡単じゃないぞ。どうする?火でも放って炙り出すか?」




 一方細身の男はいつもと変わらずといった感じで、のらりくらりと言葉を投げる。






「そんなことしたら、彼らは私達の交渉にはおうじないでしょうね。」




「じゃあ見つかるまで探索するか?ぜってぇ見つからないと思うけど」




「そうか?ワシには奴らと接触するのがそう難しいこととは思わないが?」




「何だよ。茶菓子でも差し出すのか?お茶くらいは出すかもしれないし」




「そんな回りくどい事をしなくても、案外簡単に出てくるかもしれんぞ」




 アルベールはコホンと咳払いをすると、背中に携えた大剣を抜き出し宣言した。




「ワシの名はアルベール!訳あってベルモンド領領主レイモンドに遣わされたものだ!貴様らと交渉がしたい!」




 


「……。」




「ほれ、この通り茶菓子を持参した。茶くらいは出してくれると助かるのだが」




 宣言したアルベールの言葉に反応はなく、何もいないがらんどうの空間にでも話しかけたような虚しさが襲う。






「何だ。ここまでしても反応なしとは、流石に森に引き籠もっておるだけあるわい。ハッハッハ!」




 アルベールはそう言うと、小さく漏らすように一言。




「じゃが、ワシは忠告をしたぞ」




 そういったアルベールの空気は一瞬で変わる。  


 剥き身にした大剣をゆっくりと森に目掛け、一刀を振るう。




 「ズドーン!」




 という効果音とともに森にできた一筋の線が、アルベールという人類最強の男からの宣戦布告を意味していた。


 細身の男はエルフの次の行動に神経を尖らせていた。


 自然を重んじる彼らにこれだけの事をしでかせば、彼らとてもう潜伏などしてられない。


 だが、今のアルベールの一刀はエルフからしても脅威であったことも事実。


 エルフが行う次の行動次第で、ベルモンド領をはじめあらゆる領土の運命が変わる。


 


「やってくれましたな家畜がぁ!」




 そう言って森の奥から出てきたのは、長老らしきエルフだった。威厳と貫録を纏ませ、上位種族の格の違いを知らしめるように出てきた。  


 アルベール達一行は長老に意識を一瞬取られた刹那の一瞬、その間に森から向けられる殺意の槍がアルベールに集中した。


 アルベールは少し楽しげに笑みを浮かべ、顎を引きながらアルベールからも歩み寄った。




「ただで帰れるとは思われていないでしょうな?」




 エルフとアルベールとの間には約一メートル前後の空間が空き、その僅かの空間に凄まじい殺意が集中する。




「何、心配は不要。帰路の案内は結構だ。」




「世迷い言を。」




 長老がそう言い終えた直後、木の上から警戒していたエルフがアルベール目掛け弓を放つ。


 それをアルベールが大剣で器用に弾き、エルフが木から落下した。




「バカが……」


  


 長老がそう言うと。


 アルベールの後ろで、細身の男は血の匂いを嗅ぎつけた。


 今アルベールが討ち取ったエルフではなく、もっと大量の血の匂いを。


 細身の男の距離からは、森から香ったその匂いの元凶を目視できなかったが、おそらくアルベールが振った一刀で百人近いエルフの命を奪ったのだと理解した。


 そんなエルフ達の心中が穏やかであるはずもない。


 先走ってアルベール目掛けて矢を放ったのも頷けるが、そのエルフの死を皮切りに事態は動き出す。


 アルベールは勿論、その後ろにいる二人にまで攻撃が飛んできた。


 しかも弓矢だけではなく、明確な殺意を込めた上位種族の本気の魔法が。


 アルベールは魔法を全て大剣で打ち消し、細身の男はミラを抱えて間一髪で何とか避けきった。


 そこに――――




「やめろぉぉぉぉ!」




 と長老が喝を入れたが、数秒遅く。


 アルベールの一刀は再び爆音と共に放たれていた。


 その威力は先程より凄まじく、この場にいるエルフの大半が弾け飛んだ。




「相手が悪すぎるだろうが……」




 と血に染まった周囲と、見事に刈り取られた無惨な森の姿を寂しげに思いながら漏らした。


 










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