第10話 気持ちいいこと

「フゴォ! ……フゴ?」


 診察台の上で目を覚ましたサンゴー。頭の上に疑問符を浮かべながら辺りを見回し、ここが研究所であることを認識する。


「おおおおおおお起きたかサンゴゴゴゴゴゴ」


 博士をみると、彼女はぶるぶると振動する椅子に座っていた。


「フゴー?」


 サンゴーが首を傾げると、博士はひじ掛けのスイッチを押して振動を止めた。


「ふいー、なかなかいい出来だ。すっかり肩が軽くなったぞ!」

「フゴー」

 

 そいつはよかったね、と思っているかどうかは不明だか相槌を打つサンゴー。


「ひとまずご苦労、といったところだな。お前とクリちゃんが持ち帰った資源を使って現在この人工島の床面積を拡大中だ。いまごろロボットどもがせっせと工事をしている」

「フゴォ」

「土地が増えれば人工栽培や漁業システムなど様々な施設を作れるし、もしかしたら漂流者が住人として住みつくかもしん。わたしとしてはいつまでもお前と二人きりの生活なんてゴメンだからな。お前ちょっと生臭いし」

「フゴォー」


 サンゴーは博士が座っている椅子を指さした。


「ん? ああ、これはお前が持ち帰ったバイブレーターで作ったマッサージチェアだ。よくやったサンゴー。これで日々の研究やら開発やらで凝り固まったわたしの肩もすっかり血の巡りがよくなるというものだ」

「……フゴ?」

「いったじゃないか、気持ちいことに使うって。さーて次はなにを持って帰ってきてもらおうかな。そろそろ水浴びだけじゃ辛いし石鹸用のグリセリンとか回収してもらおうかな。ハンモックも体が痛くなるしふかふかのベッドなんてのもいいな。キヒヒ、いやぁ探索は楽しいなぁ!」

「…………フゴー…………」


 楽しそうに笑う博士にじとーっとした視線を投げかけるサンゴー。

 その視線に気づいたのか、博士も鋭い視線を投げ返してくる。


「……なんだその目は。文句でもあるのか?」

「フゴォー」


 サンゴーは診察台から降りてのっしのっしと博士に近づいた。


「な、なんだサンゴー。なにをするつもりだ? お、おい……や、やめて!」


 猫背気味の巨漢に無言で近づかれ、椅子の上で身を縮める博士。

 サンゴーが手を伸ばすと、びくっと体を震わせて目をつむった。

 ところがサンゴーの手は、博士の黒髪を優しく撫でただけだった。


「……は?」

「フゴォー」

「なんだお前、もしかしてわたしが喜んで嬉しいのか?」

「フゴッ」

「……ふん、どこまでも奴隷気質な下僕め。そんなにわたしの喜ぶ顔が見たいのならもっともーっと資源を回収してこーい!」

「フッゴー!」


 よっしゃー、と両腕に力こぶを作ってやる気をアピールするサンゴー。


 夢の中で、彼はかつての自分の記憶を見た。


 けれどもしかし、彼にはその記憶の意味を理解するほどの知能はない。


 それが幸か不幸かはさておき――――この美しくも残酷な水の世界で、二人の生活はまだまだ始まったばかりなのであった。 

 

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ダイバー・ゴーレム 超新星 小石 @koishi10987784

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