2.娯楽の消えた世界で
少子高齢化が最初に社会問題として上がったのがいつだったのか、その時代の人々が何の対策もしなかったのかは定かでは無い。
この国の人口は減りに減り、全盛期の半分以下となった。
人々の最低限の生活水準を保つためには、第一次・第二次産業やライフライン、医療・行政サービスを中心に人材を投じる他なかった。
当然、あらゆる産業が廃業に追い込まれ、その憂き目に遭うのは優先度の低い娯楽産業。追い討ちをかけるように、『娯楽産業規制法』なるものが制定・施行された。その法律はゲーム・アニメのようなライトなものから伝統芸能等の文化的なものまで、関わることが出来る人間を人口の数パーセント未満に抑えるという恐ろしいものだった。
新規の娯楽はこの国から生まれなくなり、全てVR技術等での追体験のみが許された。映画やアニメはそれでも魅力は失われないかもしれないが――
「やっぱ花火は臨場感だよな」
人も
90分間座り続ける授業は退屈過ぎて、いつもの様にこうして授業をサボっていた。打ち上げの次の日は特に真面目に学生をやる気がせず、SNSをダラダラ見ながら過ごすのがお決まりだ。単位?多分ギリギリだ。
「でさー、昨日生で花火見れたのー!」
「何それすっごい奇跡じゃーん」
後方の席で弁当を広げている女子達の会話に耳を
『ゲリラ
打ち上げ直前にSNSで予告し、ゲリラで打ち上げて去るスタイルで活動しているため、ネット上では都市伝説的な扱いを受けている。慎重派のリリイは当初予告する事すら
「ジェットは将来があるんだから、警察に特定されるような真似は反対」
母親みたいなこと言うなあ、とその時思ったが、結局押し切って
誰かが、じゃなくて俺が打ち上げたんだって、ちゃんと分かるようにしたかったからだ。自己満?そうかもしれない。
そこまで考えた所で、携帯が鳴った。相手はリリイだ。珍しいな、普段はメッセージのやり取りだけなのに。通話ボタンを押しながら立ち上がり、教室の出口へと向かう。
「ちょっと待ってろ、今教室出るから……」
「……何?ジェット、学生なの?授業中だった?」
「現役大学生だよ。まあ授業中だが、サボってるから平気だ」
大きな溜息を吐くリリイ。
「大学生って暇なの?学校行ってんのに授業サボるの?何で?」
嫌味ったらしく言うなよ、腹立つな。
「何の用だよ」
ムッとして問うと、
「……別に。学生なら学生らしく真面目に授業受けてれば」
電話の向こうも不機嫌そうに返事する。何だよそれ。
「花火になんか
「将来将来ってうるせーな!どうもしねーよ。今飛べれば俺はそれで」
完全に売り言葉に買い言葉だ。お互い、勢いに乗った怒りは収まらない。
「今飛べれば?ばっかみたい。大体そんなんで――」
「馬鹿だと?お前に言われる筋合いはねえぞ!」
「だから私はちゃんと将来を考えてって」
そこまで言ったところで、リリイは激しく咳き込んだ。気管に何か詰まらせでもしたのか、ゼイゼイと苦しそうな呼吸が聞こえる。
「手伝うの嫌ならそう言えよ。もう俺ひとりでやるから」
電話口から何か言っているのが聞こえたが、俺は返事を聞く前に電話を切った。
全く、わざわざ悪態を吐くために電話かけることも無いだろ。良いんだよ、俺は今楽しければ――
ふと、携帯のメッセージ履歴に目がいった。未読4件、全部リリイからだ。受信時間は電話が来る少し前だった。気になって開いてみる。
『ニトロシューズ』
『昨日スイッチ切ってないでしょ』
『ねってば』
『おーい』
昨夜の帰宅後を思い返す。確かに切り忘れてたかも。俺が使う打ち上げ道具類は、全てリリイの方からも遠隔で使用状況を把握できるのだ。
「………………」
もしかしてこれを伝えるために電話を?と思ったが、時既に遅し。今からでも謝るか?
「……もういいや」
喧嘩吹っかけてきたのはあっちだしな。携帯を仕舞い、頭を搔く。
このまま授業に出る気は余計せず、俺はそのまま家に帰ることにした。
リリイからの連絡は、それからぷつりと途絶えてしまった。
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