後編

そう、俺はこの男の事を知っている。

俺はこの男に会ってみたいという強い思いから、布団の上で深い眠りに入り突然ソファーの上に座っている。

でも一瞬記憶が曖昧になってしまい、目の前の男が誰だが最初は分からなかった。

見た目も確かに若かった。そう21歳くらいかと。


机の上にタバコとライター。だがナイフがある。そうこれでこの男は死んだ気がする。止めに入りたいがどうやって?それを先に考えた。


そして俺は男に何してるんだと声をかけたのだった。黙り続ける男にだんだんと苛立ちを覚えた。顔に火を近づけてみるとやっと反応があった。

関わりたくないから無視するって情けなく感じる。


ナイフを見ると死ぬ気でいる。死なないと解決出来ない問題なのかと問いただすと男の答えが自分の事を卑下ひげするような答えだった。俺なんかいないほうがいいって

なんて事言うんだと思った。


だけどその言葉を聞いてから俺はその曖昧な記憶からこの男が誰なのかが分かった。

そうこの男は若い頃の俺の親父だ。


だけど母親からは心優しい人と聞いている。だから俺は優しいところと答えた。

俺が息子だっていうのを言うのを我慢し、必死で親父が自殺を止める方法を考えた。

結果的に自殺を諦めさせる事が出来た。


俺が親父に優しい奴だよと言ったら突然空間が歪み、布団の上で目を覚ます。



夢?俺はリビングにかけよるとそこには親父の姿があった。少し老いた感じはあるが間違いなく死んだはずの親父だった。


「親父?死んだんじゃないの?」

「馬鹿かお前俺は最初から生きてるぞ寝ぼけているのか?」

「親父ー」

「うわっ!お前は何をやってるいい年こいて!」

俺は泣いた。嬉しかった。思わず抱きついた。

それと、あの時逃げた彼女というのは母親で、実はその時俺のことをすでに身ごもっていた事実を知らず親父が自殺した。俺は写真で見たことがあるのでなんとなく覚えていた。


過去に行けた?などと細かい話が出てきそうだが、俺はそんな話を抜きして今ここに親父が生きているという事がとても嬉しい。母親もまるで親父が死んでいたという事実がなかったように思えた。


それから親父は俺に話してくれた。

「確かに若い時、俺は死のうと考えた事はあった。だけど俺と同じくらいの若い奴に助けてもらってな。口は悪かったが、まぁ命の恩人ってところだな」

そう親父が言いお茶を飲む。続けて親父は俺にこう告げた。


「そういえば今のお前と似てるな。それでそいつがここにいる理由は俺に救いの手を差し伸べに来たっていうんだ。


あとそいつは俺と同じ苗字を名乗ったが名前はそのうちわかるって言ってきたな。案外お前だったりしてな」


そう言って親父は笑ったので俺は流す涙を堪えた。

「何泣きそうになってんだお前。しけた顔しやがって、男らしくほらタバコでも吸え」

そう言って親父は俺にタバコをくわえさせ火をつけてくれた。


「親父やっぱり優しいな」



この日を堺に俺は二度と若い頃の親父と接触することは無かった。


ー完ー



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救いの手 katsumi @katsumi2003

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