救いの手

katsumi

前編

ドスッ

そこはとある部屋のソファーに俺は座っていた。

俺の正面にいるのは若い男。だけど何か見覚えがある男だ。

年齢はそうだな、俺と同じ21歳くらいと言っておこう。

男はソファーに座っており、下を向いている。


しかし机の上にはナイフとタバコとライターが置いてある。タバコとライターはセットで置いてある。だが男の目線はナイフをじっと見つめている。

俺が声をかける。


「おい、何してるんだよ」

男は俺を無視し何も答えない。

続けて俺は男に話しかける。


「おい、無視するなよ俺のこと見えてるんだろ?」

だが男は何も言葉を発しない。ナイフから目線をらさない。

俺は男に顔を近づけこう言った。

「これ以上無視するならこっちにも考えがあるぞ」


男は顔色変えず、黙って下を向いている。よく見ると、とても自分自身を思い詰めている様子にも見える。


俺は1つアクションを起こしてみる。

「よしわかった火を付けてやる」

俺はライターに火をつけ、男の顔に近づけてみた。


「うわっ、あっちー!」

ようやく男が声を発した。男は顔を上げ俺の顔を見る。

「なんだ、見えてるじゃねーか」

俺がそう言うと男は焦った表情で俺にこう言った。 

「関わりたくないから無視してるんだよ察しろよ!」

「寂しいこと言うなよ」

「てか、お前誰?なんでここにいるんだよ」

男は眉をひそめ、俺に強い口調でそう言った。


「わからん。気づいたらここにいた」

「そう?じゃあとりあえず帰って」

男はそう言い、手を玄関ドアの方向に向ける。

「お前が質問に答えたら帰ってやるよ」

「何だよ質問って?」

「聞いてなかったのか?おい、何してるんだよ、と言ったはずだ」


男は無言のまま机の上にあるナイフを手に取る。

「何そのナイフ?それで死ぬのか?」

「だったら何?お前に関係ないだろ?」

男は俺にそう吐き捨てるかのように言う。

「その通り関係ないな。だがそれは本当に死なないと解決できない問題なのか?」

俺がそう言うと男は下を向きナイフを触る。

「俺はグズだし、友達もいない、趣味もない、会社では怒られてばかり、彼女には逃げられる、俺なんかいないほうがいい」


それを聞いて俺は思い出した。そしてやはり俺はこの男を知っている。誰なのかもようやく解った。

そして俺は男に話しかける。

「あるじゃんお前の誇れるところ」

「何?」

先程まで下を向いてた男は俺に振り向きそう言う。

「優しいところだよ。俺みたいな見ず知らずの人間にこうやって会話して自分の事を打ち明けてくれた。俺の事をここにいるんだよここに存在してるんだって感じさせてくれた」

そう俺が言うと男から笑みが出る。


そして俺は男が握ってたナイフを静かに手に取る。

「だからさ、手伝ってほしいんだよ。俺がここにいる理由と俺の名前」

「えっ?俺が?」

「そうだよ。これはお前にしか頼めない事なんだよ」

「俺にしか頼めない?」

「そう、それでさ頼みを聞いてそれでも死にたかったら、また考えような。だからまだ生きていれば?」

と、俺が言うと男は死ぬ事を辞めた。


「フッ、そうだなまたお前に火をつけられちゃあたまったもんじゃない。ところでお前の胸ポケットにあるタバコの銘柄俺と一緒だな」

そう男が言い、俺も男もここで初めて笑みが出た。


「タバコやっと気づいてくれたか?」

そう言って俺の口にタバコを加えさせ火を付けてくれた。

「お前はやっぱり優しい奴だよ」


ー続くー











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