Episode.Dreiundzwanzig.狂宴ver.1.1
「──ところでアルメリア。今日はなんの用事があってきたんだ」
「あぁ、
「……
それは絵に描いたようなモノでした。アルメリア様曰く、非合法な手段で集められたモノを競売にかける場なのだとか。
出品物の例としては──表では紛失したことになっている有名画家の絵から始まり、兵器の類まで。実に様々な品物が競売に掛けられるのだそうです。また
そしてなにより凄いのが、一度の開催で数千億という単位の金が動くという点です。出品物も然ることながら、それらを購入する人達も並大抵の人ではありません。財政界の大物や、有名企業の社長は勿論のこと。マフィアといったの裏社会のボスも多数出席しているのだとか。
「ってか、ちょいまち。
「うん? つい十六日前に開かれたばかりだね」
トートの反応を見るに、この競売はそう簡単に開かれるものではないのでしょう。
ただそれもなんとなく理解出来ます。先程彼が述べたようなモノを集めるとなれば、どうしたってそれなりの時間が必要になる事は想像に難くありません。
「まぁいいか……そんで、次の開催は何時だ?」
「四ヶ月後、腐龍の腸で行われる」
「まってくれ、あまりにも早すぎないか? 今までなら一年に一度のペースだったじゃねぇか」
彼の言葉が余程意外だったのでしょうか? 彼女は席を立ち彼へと詰め寄ります。そんな彼女に対し、彼は一枚のチラシを手渡しました。そこには『
「──とまぁ、こんな具合で大体的に告知してるんだ。ソナガリアンの親父が嘘を吐くと思うか?」
「ソナガリアンって、あのソナガリアンか?」
「あぁ。あのサルキス・ソナガリアンだ」
──サルキス・ソナガリアン──その名を聞いた途端に彼女は小さな舌打ちをして、そのチラシを突き返しました。彼はソレを受取ると、私へと手渡してきます。
「──今回の目玉は
目玉出品物のみを掲示した簡単な目録へ目を通すと、彼はそんな事を口にしたのです。
ただそれは変な話である。ゴッホの星月夜はたしか1941年にリリー・P・ブリスという方によってNY近代美術館に遺贈されています。それに加えて多数の鑑定士が本物だと認めていました。
「……それが本命とは思えねぇ。他にもあるんだろう?」
「まぁね。今回の大本命はロッキード SR-71、それも
「ブラックバードだぁ? んなもん誰が欲しがるんだよ」
相変わらずの調子で続ける彼に対する苛つきもあったのでしょう。彼女は大きなため息を着いて、ぐだぐだと文句を言っています。
ちなみにブラックバードこと、ロッキードSR-71は数々の記録を打ち立てた伝説的機体として有名です。私も以前、マスターと共に航空機博物館で現物を見ました。他の機体とは一線を画すデザインは、一度見たら忘れられないことでしょう。そして当然、いち個人が購入出来るような代物でもありません。
「……規約により詳細を教える事は出来ないがとんでもない代物だよ。あれなら地球上どこへでも一飛びだろう」
「そりゃすげぇモノを仕入れたもんだ」
「おや、興味無さ気だね?」
「当たり前だ! 個人で持つには規格外過ぎるんだよ。それにお前、ソナガリアンの野郎が
……彼女はさらに不機嫌になっていました。また彼女を見ていて思ったのですが、ソナガリアンという人物に対して何か思うところがあるのでしょうか?
「まぁ君の想像通りだと思っていい。完全非武装の偵察機では無くなっているからね」
「クソが……何でもかんでも兵器にしやがって」
「それが彼なんだから仕方ないだろう? 彼曰く、戦争も芸術の一つだということらしいからね。兵器は命を刈り取ってこそ輝くものだそうだ」
「んなもん一ミクロンたりとも理解できねーわ」
「まぁ、そこは同意するよ。破壊と再生の美学は理解できるが、彼のように徹底的な破滅と死の中に美は感じられない」
二人の話しぶりを見るに、ソナガリアンと言う人物は関わってはいけない類の人種のようです。いつかの日に触れた、滅びの美学とはまた異なる価値観をお持ちなのかも知れません。そこから幾つか彼にまつわる話を聞きましたが──一つ、興味を惹かれた話があったのです。
それはいつかの日、彼が口にしたという『人は争い、闘うためにデザインされている』という考えでした。彼が何故にこのような思想に至ったのかは不明ですが、とても斬新な思想だと感じたのです。
「……というか、さっさと本題に行こうぜアルメリア」
彼女が呆れ果てた声音でそう言うと、彼は「それもそうだね」なんて軽い調子で応えます。
「今回の
「なんだそりゃ。勿体ぶった言い回ししやがって」
「まぁまぁそう言うなよ。それにソナガリアンがここまで言うんだ。今回のソレは並大抵のものじゃない」
そこから暫し天使の四肢についての話を聞かされました。詳細が語られるに連れて、彼女の表情はどんどんと険しい物になっていきます。
……それは無理のない話でしょう。なにせ出品される予定の四肢が私のものである可能性が高いのですから。その旨を伝えようとした矢先、彼女から尋常ではない圧を感じました。まるで余計なことを喋るな、とでも言っているかのような視線です。
「──随分とまた凄いモノを手に入れたもんだな?」
「なんでも客引き兎ちゃんが大当たりを引いたらしい」
となれば、件の四肢は私のもので確定でしょう。所有権を主張すれば取り返せたりはしないのでしょうか?
「なぁアルメリア。そいつは──
そんな事を考えていた矢先、彼女は聞き慣れない単語を口にしました。オルギェなるものがなんなのかは皆目検討もつきませんが──優勝があるあたり、何かしらの競技ないしコンテストなのでしょう。
幾つか疑問点はありますが、何より気になるのは彼女の表情です。誰もが一目でわかるくらいの嫌悪感を漂わせながら口にしました。なのでそれは、恐らくロクでも無いものなのでしょう。
「──おっと、君は知らないよね……
それを察してか、彼がオルギェの説明をしてくれました。想像通り、ロクなものではありません。また「対戦カードは人造人間も人間も関係なし」で「性別で分けたり階級制を設けることもしない」という異常なルールだったのです。
「だからその凄惨さは
彼女は嫌悪感たっぷり含めつつ、吐き捨てるように付け加えました。
「うん。彼女の言う通り──あれは
そんな彼女とは真逆の調子で、彼が言葉を続けます。当然彼女は良い顔をしていません。怒りと呆れの入り混じった顔で彼を見ていました。
「中でも有名な試合があってね?」
その視線を受けて尚、彼は話を続けたのです。しかし、彼の話が続く事はありませんでした。彼女がたった一言──やめろ。と口にしたからです。その声は決して大きくはありませんでしたが、背筋が凍るようなゾッとする声でした。
「──アルメリア様。この話は……止めて、ください」
彼女の顔が、目つきが酷く恐ろしいモノに見えました。それなのに、彼の表情に変化は見られなかったのです。出会った時と同じ飄々とした雰囲気のまま、私と彼女を交互に見比べてきました。
「オーケー、君が望むなら止めようか」
暫しの間を挟み、彼は両手を軽く上げ──軽い調子で返し、そのまま挨拶もなしに去ってしまいました。
「……ねぇ、トート。あの人は……何をしに、来たの?」
「ただのセールストークだろ。アレもソナガリアンの飼い犬だからな」
後ろ姿が見えなくなった後も、彼女は不機嫌なままです。聞きたいことは沢山あるけれど、今の彼女に聞くような話ではありません。
「──……あと、お前の手脚はなんとかしてやるから」
そんなことを考えていたら、突然トートが私の頭に手を置き──まるで親が子供の頭をぽんと軽く叩くような、優しい撫で方をしてきました。
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