第3話自覚

日曜日、勇夫は朝から何やら身支度をしていた。

そしてリビングにやって来る。

「おはよう!」

「うわっ!?パパどうしたの?」

勇夫は何故かジャージを着ていた。

「あなた……どうしたのよ朝から」

「いや〜最近運動不足だったからな。健康の為にジョギングでもしようと思って」

そう言いながら勇夫は元気良くストレッチをする。

「また……ジョギングなんて何年か前に張り切って始めるとか言ってたった一日で終わっちゃったじゃない!」

「今度は本気だ!見てろ?ずっと引き締まった体になってやる」

「ねぇ、ママ!じゃあ賭けない?パパがジョギングを一ヶ月続けられるかどうか。私は続けられない方に賭ける」

「ちょっと、それじゃあ賭けにならないわよ」

洋子にも笑い飛ばされた。

「何〜?見てろよ!そうだ!香菜、お父さんが一ヶ月続けられなかったら何か好きな物買ってやる!」

「マジ!?賭ける賭ける!パパ頑張って〜」

「ちょっとあなた……そんな約束して大丈夫なの?」

「大丈夫!続けるよ!じゃ行ってくる!」

勇夫はジョギングに出発。

しかし5分後……。

既に息切れしていた。

「はぁ……はぁ……し、しんどい……でも……ヒーローやり続ける為だ……頑張るぞー!」

「おはようございます!」

後ろから若い男が声を掛けて来た。

彼もジョギング中の様だ。

「お……おはよう……ございます……」

「大丈夫ですか?」

「ええ……何とか……」

「あまり無理はしないで下さいね?じゃ!」

若い男は颯爽と走り抜けて行った。

「や、やっぱり若いと体力あるな……いや、負けてられん!」

勇夫は気合いを取り戻して走り続けた。


それからしばらく走り公園で一休み……。

「はぁ……はぁ……はぁ……も、もうダメ……み、水……」

勇夫は水飲み場で水を飲む。

「はぁ……生き返った……これだけ頑張ったんだ帰ったらビールでも……いやダメダメ!それじゃあ意味がない……」

勇夫は公園のベンチで休憩。

「あれ?お疲れ様です。大丈夫でした?」

声を掛けて来たのはさっきの若い男だった。

「ああ、君か……さっきはありがとう。君が声を掛けてくれたおかげで気合いを取り戻せたよ」

「いえいえ、ジョギングであった人に挨拶するのは最低限のマナーですから」

「しかし、流石に若いと体力あるね。私は健康の為に今日から始めたんだがもう既にフラフラだよ」

「いい事じゃないですか!誰だって初めはそんな感じですよ。大切なのはそれでも続ける事です」

「そうだね、頑張るよ」

その若い男は見るからに好青年だった。

「あっ、俺、三浦慎吾(みうら しんご)って言います」

「私は湯村勇夫です。三浦さんはずっとジョギングしてるんですか?」

「ええ、自分大学で陸上やってて。ジョギングは毎日の日課なんです」

「へぇ〜それは凄いな。それにしてもまだ大学生か〜。若いって良いな〜」

その後も2人は何だかんだ話がはずんだ。

勇夫も三浦に好感を持っていた。


「あっ、じゃあ俺この後練習あるんでこれで」

「ああ、この後もまた走るのか。凄いな〜」

「いえ、そんな事……俺、毎朝同じコースで走ってますからまた会ったらよろしくお願いします!」

「ああ、ありがとう」

三浦はまた走って帰って行った。

「よーし、折角だからもう少し運動して行くか!」

三浦のお陰でやる気を取り戻した勇夫は公園でしばらく筋トレに励んだ。


そしてお昼前、家に帰って来た。

「あ〜疲れた……」

「お帰りなさい。随分遅かったわね」

「うん……公園で少し筋トレをしてたからね……香菜は?」

「今日も友達と遊びに行ったわよ」

「そうか……じゃ、シャワー浴びてくるよ」

シャワーを浴び終えると勇夫はキッチンに向かった。

冷蔵庫を開け缶ビールを1つ取り出す。

「あっ、いかんいかん、つい癖で……」

勇夫は慌ててビールを戻し麦茶を取り出した。

麦茶を一杯飲みリビングへ……。

リビングでは洋子がテレビを見ていた。

そろそろお昼のワイドショーが始まる時間だ。

ワイドショーが始まると司会者のアナウンサーが本日のゲストを紹介する。

出てきたのは現在、子ども達に大人気の特撮ヒーロー番組「仮面ジェッター」の主役を演じるイケメン俳優の早瀬亮(はやせ りょう)だった。

番組でも仮面ジェッターの主演イケメン俳優として紹介される。

「あら、この子イケメンねぇ」

洋子も呟く。

「ふ〜ん今こんなのが人気なんだ……」

早瀬亮は子ども達だけでなくお母さん達にも人気だった。

「やれやれ……ヒーローはイケメンじゃなきゃいけない法律でもあるのかね……」

そう言いながら勇夫はソファーに腰掛ける。

「何言ってるのよ、何でもイケメンの方がいいじゃない!ヒーローだってイケメンの若い子に限るわ〜」

「そんなもんかね……おじさんがヒーローやったって良いと思うがね」

「アハハハッ、や〜ねぇ〜おじさんがヒーローやっても誰も見向きもしないでしょ」

洋子に笑い飛ばされた。

「しかし、アメコミでは結構おじさんのヒーローも居るだろ?」

「アメコミ?あなたそんなのに興味あったっけ?」

「いや、そうじゃ無いが映画とかの宣伝良くやってるし」

そんな会話をしているとワイドショーは途中でニュースに切り替わった。

どうやら殺人事件の容疑者として警察が追っていた人物が逃走中に入った飲食店で人質を取り立て籠もっているらしい。

「あら怖いわねぇ……この犯人まだ捕まって無かったのね……」

「どんな事件だっけ?」

「ほら、女子中学生を殺害して逃げてる男よ」

「ああ、あったなそんな事件」

「そうよ。香菜の学校でも注意喚起が出されたんだから」

「被害者の両親もいたたまれないだろうな……」

勇夫は同じ娘を持つ父親として被害者の遺族の心の痛みが分かる様な気がした。

数日前までは世の中のどこかで起きた事件として自分には関係ないと思っていた。

しかし今の自分には戦える力がある。

せめて被害者遺族の為にも出来る事をしたいと思った。

勇夫は立ち上がった。

「あなたどうしたの?」

「ちょっと出掛けて来る」

そう言って勇夫は出ていった。

「ふ〜ん……」


勇夫は家を出ると車で事件現場に向かった。

現場の近くまで行くと警察による交通規制が行われていてこれ以上近付く事は出来なかった。

「仕方ない、この辺から行くか」

車を近くのパーキングに停め勇夫は物陰に、隠れる。

「よし、今日も頼むぞ!変身!」

勇夫はブレイブ仮面に変身した。

そして俊足を活かし一気に飲食店まで突入した。

突然現れたブレイブ仮面に犯人も客も驚く。

「なっ、何だテメェは!?」

「ブレイブ仮面……正義の味方だ。こんな事は辞めて早く警察に投降しなさい」

「はぁ?何ふざけた事ぬかしてやがんだこよイカれコスプレ野郎!!」

犯人は人質を捨てナイフでブレイブ仮面に攻撃。

しかし、ブレイブ仮面にはその攻撃はスローモーションに見えた。

ブレイブ仮面は犯人の腕を掴み攻撃を止めた。

「何っ!?」

「こんな物人に向けたら危ないじゃないか!!」

まさかの説教混じりで犯人の持っていたナイフを叩き落とすブレイブ仮面。

「えっ!?」

そしてブレイブ仮面は大きく振りかぶる。

「お仕置きだ!!」

ブレイブ仮面のパンチが犯人の顔面にクリーンヒット。

犯人はそのまま壁紙まで殴り飛ばされ気絶。

「あちゃ……やりすぎたかな?」

「あの!ありがとうございます!ありがとうございます!!」

人質にされてた女性や他の客達に感謝されるブレイブ仮面。

「いやぁ、当然の事をしただけですよ。じゃ!」

ブレイブ仮面は去って行った。


その後、警察により犯人は確保され人質も無事救出された。

人質の証言により警察はブレイブ仮面はやはりヒーローと言う認識が強くなった。

この事件はテレビで中継されていた為、ブレイブ仮面の存在は多くの人が知る事となった。


そして勇夫に腕時計を渡したあの男……。

彼もまたテレビ中継を見ていた。

「ブレイブ仮面か……中々良い名前を付けたじゃないか……さて、彼もヒーローとしての自覚が出てきたみたいだし……そろそろ始めるか」


この男の目的は一体?


続く……。







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