謝安5 小僧の賊退治
この時にもなれば、いよいよ
しびれを切らした苻堅、ついに百万の軍と称し、
出征前、謝玄が謝安に詣で、どのように展開すべきかを問う。すると謝安はまるで動揺の気配もなしに「それはもう、とある所に伝えたよ」と答えた。そのあまりにも落ち着き払った様子に謝玄もそれ以上のことは言わず、自分のかわりに
「その別荘を君にあげよう。その代わり、私とともに来ないかね?」
謝安はこうして羊曇を連れだってぶらりと散歩に出向き、夜になって戻ってきた。そして將帥らに戦略を授け、それぞれの任に当たらせた。
やがて
謝安のもとに一通の手紙が送り届けられる。このとき謝安は客と囲碁を打っていた。もたらされた手紙を一瞥すると、適当な棚の上に放り出し、さして動じたそぶりも見せない。いったいなんの手紙だったのか、と客が問うと、ふ、と答える。
「小僧どもが賊をようやくしばいたそうで」
客が謝安の邸宅から帰るのを見送った謝安、門から玄関に戻り、戸を閉めると、そこではじめて喜びを爆発さそた。あまりの喜びように下駄の歯が折れたのにも気付かないほどだった。
謝安の感情コントロールの凄まじさは、この一件が語っている。前秦撃退の諸功績を総合し、ついにその官位は
時苻堅強盛,疆場多虞,諸將敗退相繼。安遣弟石及兄子玄等應機征討,所在克捷。拜衛將軍、開府儀同三司,封建昌縣公。堅後率眾,號百萬,次於淮肥,京師震恐。加安征討大都督。玄入問計,安夷然無懼色,答曰:「已別有旨。」既而寂然。玄不敢復言,乃令張玄重請。安遂命駕出山墅,親朋畢集,方與玄圍棋賭別墅。安常棋劣于于玄,是日懼,便為敵手而又不勝。安顧謂其甥羊曇曰:「以墅乞汝。」安遂遊涉,至夜乃還,指授將帥,各當其任。玄等既破堅,有驛書至,安方對客圍棋,看書既竟,便攝放床上,了無喜色,棋如故。客問之,徐答云:「小兒輩遂已破賊。」既罷,還內,過戶限,心喜甚,不覺屐齒之折,其矯情鎮物如此。以總統功,進拜太保。
(晋書79-5)
■世説新語
小兒輩遂已破賊。
雅量 35。https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054886787463
世説新語をはじめて読んだとき盛大に肩透かしを食らった案件。いや謝安様のハイライトはその狂喜乱舞ぶりを隠していたことでしょ!? まぁ確かに「それを隠す」方向で従ったとは言えますけど!
前の話で謝安イケメンバフって言葉を使ったのは、まさにこのエピソードのためなんですよね。あまりにもこの隠しかたは謝安を美しく演出しすぎです。やりすぎです。それだけ謝安さまを全人士の頂点に君臨させたかったんだよね(世説新語中エピソード収録数第一位、ついでに言うと劉宋を立てた劉裕は謝安が組織した府の人員を継承しており、ある意味で謝安の後継者的な立場)。
いやー、このエピソードは単品でも好きでしたが、世説新語くんのメンタリティを踏まえると二倍、三倍でおいしいですね。
■斠注
與玄圍棊賭別墅。
『
謝安が甥の羊曇から囲碁でたかった庵というのが古檀城で、金華橋の東にあるとのいこと。ちなみに宋に仕えた檀氏の姓は、この城に由来しているとのことです。えっ高平出身じゃなかったっけ? ほんとでござるかぁ〜?
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