王珣3  逝去

安帝あんていが即位して間もなくのころ、王国宝おうこくほうが実権を握ると、孝武帝こうぶていと繋がりのあった臣下らを排除しようと目論み、王珣おうしゅんを尚書令とした。この人事に怒った王恭おうきょうは、王国宝を殺害せん、と山陵さんりょうまでやってくる。


それを王珣が制止して、言う。


「やつが最終的に災いを引き起こそうというのならば、まずは悪事を明らかとさせるべきだ。今動けば、朝野の支持を失うぞ。まして強兵を率い建康に睨みをきかせでもすれば、むしろ皆はそなたを賊と見なそう! やつを放置しておいて、その行状が改まらず、悪を天下にむき出しとし始めたところで、初めて世論に乗って討伐すれば良い。それならば失敗もなかろう」


それを聞き、王恭も一度は踏みとどまった。そして王珣に言う。

「そなたの振る舞い、さながら胡廣ここうよな」


王珣は答える。

呂后りょこうに対し、王陵おうりょうは争わんとし、陳平ちんぺいは沈黙を貫いた。では、どちらが終わりを良くしたかね?」


その後結局王恭は挙兵した。王珣は王国宝に殺されかけたが、すんでのところで逃れた。このあたりは王国宝伝に詳しい。


398 年、王恭は再び挙兵。王珣には假節が与えられ、衞將軍、都督琅邪ろうや水陸軍事が任じられた。王国宝が処刑されると假節は返却した。散騎常侍が加えられた。


400 年、病を理由に引退、それから一年ほどで死亡した。52 歳だった。車騎將軍、開府儀同三司が追贈され、獻穆けんぼくと諡された。




隆安初,國寶用事,謀黜舊臣,遷珣尚書令。王恭赴山陵,欲殺國寶,珣止之曰:「國寶雖終爲禍亂,要罪逆未彰,今便先事而發,必大失朝野之望。況擁強兵,竊發於京輦,誰謂非逆!國寶若遂不改,惡布天下,然後順時望除之,亦無尤不濟也。」恭乃止。既而謂珣曰:「比來視君,一似胡廣。」旬曰:「王陵廷爭,陳平慎默,但問歳終何如耳。」恭尋起兵,國寶將殺珣等,僅而得免,語在國寶傳。二年,恭復舉兵,假珣節,進衞將軍、都督琅邪水陸軍事。事平,上所假節,加散騎常侍。四年,以疾解職。歳餘,卒,時年五十二。追贈車騎將軍、開府,諡曰獻穆。 


(晋書65-3)



胡広

かんの時代のひと。皇帝に落ち度があってもそれを直接指摘することはなく、こっそりフォローに回った。「直接対峙しない奥ゆかしさ」という感じだろう。ついでに言えば佞臣っぽい扱いでもある。こちら参照。

https://kakuyomu.jp/works/16816700428584992583/episodes/16817330650201802862


呂太后、王陵、陳平

劉邦死後無法を働き始めた呂太后に対して直接争って王陵は失脚し、陳平は呂太后健在中は黙り込んでおり、死後にその一族を滅ぼした。ここでもすぐには争わないことを良しとする姿勢が見える。この二話参照。

https://kakuyomu.jp/works/16816700428584992583/episodes/16816927861067504193

https://kakuyomu.jp/my/works/16816700428584992583/episodes/16816927861122670484

つまり王恭が王珣を小賢しい知恵の回る佞臣的に評価したのに対し、王珣は「ばっかじゃねえの、これぞ陳平の策だわ」と返したわけですね。



■斠注


太平御覽の人事部「憂下」は『俗說』にあるエピソードを引いています。

王孝伯起事王東亭,殊憂懼。時住在募士橋下,持藥酒置左側,詣其所念小人俞翼,令在門前:「若見人騎儐從來,汝便可取藥酒與我。」

俄有行人乘馬過,翼便進酒。

王語翼:「汝更看,定非官人。」

王語翼:「汝幾誤殺我。」

なんだこれ? 王恭が王珣に従って起兵したときにしたときに不安になって毒薬を持っていた、と言う感じ? で、俞翼という配下に、敵軍が迫ってきたら毒藥を俺に渡せ、と言ったけど、敵でもなんでもないやつが近付いてきたところで俞翼が毒藥を渡してきたから「ふざけんな、勘違いで俺を殺す気か!」と怒った、かなあ。面白いエピソードな気配はするけど、正直よくわかりません。

憂悶に関する内容、とまではわかるんですけどねえ。

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