フローラルブーケ
高岩 沙由
匂いの正体
「ああ、この匂い……」
彼女が腹に顔をうずめながらうっとりと呟く。
「からっと晴れた日に干した布団のようなお日様の匂いが……」
彼女が鼻をすんすんと鳴らしながら匂いをかいでいる。
「おい、まて」
俺はたまらず彼女に声をかけるが、さらにすんすんと匂いをかぎ続ける。
「ん!?」
「どうした!?」
突然、ぴたっと止まり、さらに激しく匂いをかぎ始める。
「なに、この匂い……!」
「おい」
「甘い匂い…これは、何かの花の匂いね……いろいろな花の匂いが混じっているわ。これは、ジャスミン? これはユリ?」
彼女は更に鼻をすんすんすんしながら匂いを確かめる。
「はっ、この匂いは……! レノアのアロマリッチ……!」
彼女はそこでがばっと顔をあげるとにらみつける。
「ちょっと、これ、誰につけられたの!? 今までその柔軟剤は使っていなかったじゃない!」
彼女はそれだけ言うと突然泣き始めた。
「……いい加減にしろ!」
俺は堪えきれず、大きな声を出して、彼女の頭を鷲掴みにして腹から離した。
「猫が驚いているだろ!」
俺の声に我にかえった彼女。
「あ〜グレちゃん、ごめんね〜」
部屋の隅に逃げて、耳を横に倒しながら一生懸命、腹のあたりを毛づくろいしている猫に彼女は猫なで声で話しかける。
「まったく」
俺の呆れたような声に彼女は照れたように笑う。
「ちなみにそれは、お前の使ってる柔軟剤な」
「なんでそんなことわかるの?」
「いや、だって、ここにきてから、ずっとグレを抱っこしていたろ? 長い時間抱っこしていると匂いがうつることあるんだ」
「へぇー」
彼女が感嘆声を上げている。
「ったく。急にグレの腹に顔をうずめたから俺も驚いたぞ」
彼女はてへへ、と笑う。
「なんか、猫吸いしたくなっちゃって……」
「猫吸いするのはいいけど、グレのことも考えてくれ……」
俺は部屋の隅で尻尾をバタバタと打ち付けている猫を横目に見ながら言うが彼女はニコッと笑っただけだった。
フローラルブーケ 高岩 沙由 @umitonya
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