第2話 異世界提供師_旅立ち

 ファルトは地図を開いてカルトに見せる。カルトに地図で現在地を説明する。ファルトは自分がいる場所に指を指す。現在ファルトたちがいるのは小さな孤島にいた。こひなたの森から橋を渡って現在いる場所にいるのだ。カルトは地図をまじまじと見てこひなたの森と現在いる場所が断然小さいことを知り驚いた。

 「いいかいカルト。僕らがいるのここなんだ」

 「こんな端っこの小さい場所なのか!」

 「驚いたでしょ?それだけ世界は広いんだよ」

 「そうか!想像以上だ。世界はこんなに広いんだな。俺はもっと知りたい。この世界のことを..」

 「なら、何年かかるか分からないけど一緒に知っていこうか」

 「うん!」

 「それじゃあ...次の場所はここから近いここにしよう」

ファルトはそう言うとカルト連れて歩きだした。

 「そうだな...少し待ってくれ」

 「カルト、何してるの?」

 「この旅の記録だよ」

 「記録?」

 「残しておこうと思ったんだ。ファルトと旅してこの世界と奇跡を知る旅を」

 「面白そうだね。世界と奇跡を知る旅かー」

 「なら、名前は彼と旅する異世界奇譚だ」

 「異世界奇譚っていい名前だね。少し見せてー」

 「ダメだ!これは俺だけの記録なんだからな。旅が終わった時に見せてやるよ!」

 「なら楽しみだ」

カルトとファルトは互いに顔を見合わせ笑った。カルトは記録を読みながら昨日のことを思いだした。


 「改めて...僕の名前はファルト。大地の力を与えられた異世界提供師だ。カルト、僕は君の願いを叶えに来た。君の願いはなんだい?」

 「ファルト...本当に俺の願いを叶えてくれるのか?」

 「もちろんだよカルト」

 「なら、俺の願いは...」

 「俺の願いはこの世界と奇跡について知りたいんだ」

 「この世界と奇跡について?カルト、君は異世界提供師になりたいのかい?」

 「分からない。俺は異世界提供師になりたいわけじゃない...ただ知りたいんだ。この世界には俺の知らないことがたくさんある。俺はそれを知りたい!それに異世界提供師やファルト...あんたのことを知りたい。全てを知った上で俺は...この世界の奇跡や異世界提供師のことを理解したいんだ」

 カルトは願いを言うとファルトの手を掴んだ。ファルトは願いに驚いた顔をしていた。

 「なんだよその顔!悪いか?」

 「いいや、まさかそう来るとは思わなかったから驚いただけ。でも本当にそれでいいの?」

 「いいに決まってるだろ...俺は知りたいんだ」

 「そっか...その言葉を聞いて安心したよ。これからよろしくねカルト」

 「よろしく...ファルト」

そう言うと二人は顔を見合わせて笑った。


 記録を見終わったカルトにファルトは声を掛けた。目的地は南にあるがファルトが向かう場所は川だった。カルトは近くに橋を探したが橋は無い。

 「ここから南に行けばの目的地につけるよ」

 「この先に行くのか?でもファルト、この先は川で橋もないし行き止まりだぞ」

 「そうだね。行き止まりだね」

 「じゃあどうするんだ?本で読んだけどここら辺の川には肉食の魚がいるんだぞ」

カルトは不安そうに持ってきた世界の生物の本を見せた。カルトが持っている世界の生物の本には小さな生き物から凶暴な生き物までが記載されているものだった。カルトは本を開きながらファルトと確認した地図からこの川に生息している生き物たちを確認する。本には人も食べる肉食の魚が生息していた。川など歩けばカルトもファルトも一瞬で魚の餌だ。

 「本には一匹じゃなくてこの川に数百匹いるらしいんだ。川なんて歩いたら俺もファルトも一瞬で魚の餌だよ」

 「確かにそうだね。この川は危険な魚フィープがいるって聞いたことがあったよ」

 「だろう?さっそくこの本が役に立った」

 「その本...確か孤児院にあった気がする。カルト持ってきたんだ」

 「役に立つと思ったから持ってきた。何かあるか分からないし、シスターが少しでも役に立ちそうなら持って言われたんだ。それに知っておいて損はないしな」

 「偉いねカルト!その意気だよ。何かを知ろうとするのはいいことだよ。これからはカルトに生物について頼もうかなー」

 「俺はファルトと比べたら本の知識だし役に立つかな?」

 「役に立つさ。足りない知識は補えばいいし、こういうのは知っているだけじゃいけないから経験あるのみさ!」

 「そう言うもんかー?」

 「そう言うものだよ!そして今もそうさ!普通はこんな危険な川は渡ることはできない。でも..知識が分かれば渡れるのさ。じゃーん!これなーんだ!」

ファルトは懐からオレンジの絨毯を見せた。カルトはファルトが見せた絨毯を見た。以前シスターが絵本で読んでくれたものに似ていた。

 「これは絨毯?」

 「そうだよ正解!これは異世界提供師だけが所有する神器の一つ【聖なる絨毯】だよ」

 「魔法じゃないんだ」

 「細かいことはいいのー。この絨毯は空を飛べる特別な絨毯なんだ。しかも寒熱耐性がついているし重量は関係なしの優れものだよ。凄いでしょ!大きさも変えられるから何人乗ってる平気なんだ」

 「凄い!こんなものが存在したんだ」

 「凄いでしょ?今回はこの聖なる絨毯に乗ります」

ファルトが地面に聖なる絨毯を引くとカルトは直ぐに乗った。その速さにファルトは驚き思わずつっこんだ。

 「早い!そんなに乗りたかったの」

 「...だって聖なる絨毯に乗れるなんて滅多にないから」

カルトは恥ずかしかったり照れたるするとそっぽを向くので少しからかう。ファルトはカルトにじーと見つめられその視線におれた。

 「もしかして照れてる?」

 「照れてない!ファルト早く乗れよ」

 「ごめんごめん!そんな目で見ないで行くよ」

 「うわ!動き出した」

 「それじゃあカルト行くよ!」

 「うん!」

聖なる絨毯にファルトが乗ると少しずつ動き出した。聖なる絨毯は動き川の上を飛んだ。

 「どうだい聖なる絨毯の乗り心地は?」

 「最高だ!風が気持ち良い!」

 「それは良かった!もう少しで目的地だよ」

 「あの森だよな!」

 「そうだよ!捕まって降りるよ」

 「分かったってうわああああああああああ!」

 「あははははははは~楽しいねカルト!」

 「ファルトおおおおおおおおお!」

カルトはいきなり落下した聖なる絨毯に驚きファルトの腕にしがみ付いた。ファルトは笑っていたがカルトは叫んだ。聖なる絨毯が地面にぶつかる寸前で止まりカルトは気が気ではなかった。

 「楽しかったねカルト!」

 「はあはあ...ファルト!どこが楽しんだ!ぶつかるかと思ったんだぞ!」

 「ごめんごめん!反応が面白くて」

 「二度とすんな...はあはあ...死ぬかと思っただろ。一瞬走馬灯でシスターが見えたぞ」

 「いや走馬灯って...カルトもシスターも死んでないだろう」

ファルトはツッコミをした後、聖なる絨毯を下りた。ファルトに続いてカルトが聖なる絨毯を下りると聖なる絨毯は自動的に小さくなる。小さくなった聖なる絨毯をファルトは懐にしまった。

 「やっとついたねカルト!ここが今回の目的地、森林の町_オリン」

 「この町で俺たちは何をするんだ?」

 「異世界提供師の依頼の手紙には町で行われる森林祭に参加して欲しいんだって」

 「森林祭?」

 「そう、300年に一度に開かれる自然を祝う祭りなんだ。この祭りには僕の他にもう一人の異世界提供師が毎年参加するんだ」

 「そう言えば孤児院でファルトが言っていた自然の力を与えられた異世界提供師だよな?」

 「そうだよ。彼女とも300年ぶりに会うんだ!元気だといいな」

そう言うファルトは森林祭のことを説明した。森林祭は300年に一度開かれる自然を祝う祭りである。自然を祝いその平穏が長続きするように大地の力を与えられたファルトと自然の力を与えられらた異世界提供師が祈りを捧げるのだ。

 「カルトはこの祭りが初めてだよね」

 「基本みんな長生きじゃないか?」

 「確かに!まあそこは気にしないでーこれも勉強だよー」

 「それもそうだな」


 カルトは頷くとファルトに続いて町へ向かった。町は自然に囲まれており空気が綺麗で関心しているとファルトに村長が話しかけてきた。

 「よくぞお越しくださいました。異世界提供師様」

 「ご招待いただきありがとうございます」

 「いえいえ、こちらこそお越しくださって感謝しています」

村長はファルトにお辞儀をするとカルト見て驚いた。

 「おや?後ろにいる可愛らしい少年はどなたですかな?」

 「ああ、彼は異世界提供師ではありませんが訳あって一緒に旅をしている者です」

 「そうなんですか。ではお連れの方もご一緒にどうぞ」

 「ありがとうございます」

カルトは村長にお辞儀をした。村長はファルトに一声かけると祭りの準備に取り掛かった。ファルトとカルトも手伝い祭りが始まった。

 「いいかいカルト。このスズとこの風鈴はこの多くな神木の所に付けるんだよ」

 「分かった。これでいいか?」

 「そうそうそんな感じで!よし早く終わらせよう」

二人で協力して祭りの準備を終わらせた二人は一息つきと町に立派に生えている神木を見上げた。

 「この木は大きくて立派だな」

 「そうだね。300年前に来たよりも成長した気がするよ。この神木はいつ見ても立派でいいものだね」

 「なあファルト」

 「どうしたのカルト?」

 「俺、ずっとファルトに聞きたかったんだけど。ファルト...お前歳幾つだ?」

 「え?」

 「だって普通にサラっと言ってたけどよく考えたらおかしくないか?」

カルトは先ほどのファルトのセリフを思いだす。

 「300年前って言ったけど異世界の戦争が起きたのはもっと前だろ?お前本当は何歳だよ?」

 「ギクッ!カ、カルトど、どうしてそんなこと聞くの?」

 「だってずっと気になってたんだ。ファルトって本当は何千歳のおじいちゃんとかじゃないよな?本で読んだんだよ。魔法使いは魔法で年を誤魔化す事あるだろ?実は異世界提供師もみんなよぼよぼの老人じゃないのか...」

 「魔法で誤魔化すって本の読みすぎだよ!なんでそんな疑いの目を向けるんだい?」

 「気になるからだよ」

カルトの疑いの目に思わずファルトは目を反らした。そんなファルトをカルトが逃がすことはない。

 「...でどうなんだよ?」

 「ほら...人に年齢を聞くのはよくないよ」

 「ファルトは人じゃなくて異世界提供師だろ?それに年齢を聞いちゃいけないのは女性の方だけど?」

 「いや...その...確かに何万年も生きてるけど...姿は変わらないし...でも誤魔化しては無いです...はい」

 「それ...本当?」

 「本当だよカルト」

カルトはずっとファルトを見つめる。ファルトは冷汗が止まらない。

 「ならそう言うことにしとく」

 「信じてくれるの?」

 「だってファルトは俺に嘘つかないし」

 「...そっか。信じてくれてありがとう」

ファルトはそう言うとカルトは再び町を見回した。すると町に立てかけられた看板が落ちそうになる。ファルトは落ちる前に掴むと元ある場所に立てかけた。すると一瞬だけ看板にノイズが入ったように見えた。

 「なんだ?ノイズが...なあファルト、ここにノイズが」

と言いながらカルトはファルトを呼ぼうとしたがファルトは誰かと通信していた。

 「うんうん。そうか、気をつけてね。祭りのことは僕に任せて...それじゃあ...」

ファルトはそう言うと通信を切る。顔を上げたファルトに先ほどの通信のことを聞く。相手は自然の力を与えられた異世界提供師のようで、残念ながら自然の力を与えられた異世界提供師は来られなかった。

 「異世界提供師様、すみません」

 「いえ、彼女の方からも連絡が来てこの祭りに参加できず済まないと伝えて欲しいと伝言を貰いました」

 「でもこの場合はどうしたらいいんだ?ファ..いや異世界提供師が二人分祈るのか?」

 「その場合もあるけど本人から祈りが捧げられた小瓶を転送してもらったからそれを使うよ」

 ファルトはカルトや村長に小瓶を見せると村長は喜び、ファルトはその小瓶を持ち祭りの祭壇で祈りを捧げた。小瓶を捧げると精霊たちが飛び出し祝福の歌を歌った。歌を歌い終えた後に消えた。次にファルトが祈ると町に温かい風が包み込んだ。その風に吹かれた植物たちは喜んでいるように見える。枯れた花は元気を取り戻し綺麗な花を咲かせた。

 「綺麗だ。これが森林祭」

 「楽しんでいただけましたか?」

 「はい!」

 「お連れ様にこれを贈呈しましょう。これは命の種と言います。この花は幸せを運ぶと言われている貴重な花です。是非咲かせてみてください」

 「ありがとうございます」

 「いえいえ...では私は行きます。異世界提供師様によろしくお願いいたします」

そう言うと村長は宴に戻り祈りを終えたファルトが戻ってきた。

 「お疲れ様」

 「ありがとう。さっきは真名を言いそうになってたから気を付けてね」

 「悪かった。咄嗟に誤魔化したけど大丈夫か?」

 「うん。平気だよ。真名は大事だからね。僕も君自信を守るために必要な事だから」

 「でも変な感じだ。名前で呼ばないのは」

 「直ぐに慣れるよ。それに僕と二人の時は名前を呼んでも平気だからね」

 「そうだな、気をつける」

異世界提供師は真名を知られてはいけない。知られてしまえば利用され最悪殺される危険性があるからだ。誰かといるときは許可を貰わない限りはファルトは異世界提供師、カルトを付き添い人と呼ぶことになった。これはお互いを守るためだ。異世界提供師が真名を隠すのは以前、それが引き金で異世界提供師が死ぬ事件が起きたからだ。

 「でもこの町は大丈夫。そんな人はいないよ」

 「どうしてそう言えるんだ?」

 「この場所は僕が提供した異世界なんだ」

 「え?」

 「この場所は戦争で消えてしまったんだ。それを村長の願いで町を復活させたんだ」

 「それがこの町...異世界なんて思えない」

カルトは町を見回すが異世界で作られたように思えなかった。しかし先ほどのノイズを思いだしあれは見間違いではないことを知る。

 「じゃあ俺が見たノイズは...」

 「僕らは300年ごとに祈るのはこの場所を守るためなんだ。僕らが祈りを支えることで今まで繋いできたんだ。でも...もう終わりだ」

 「どうしてなんだ?」

 「村長は病気でもう長くない。この町は村長が死ぬまでの物なんだ。今回の祭りの時、村長に言われたんだ。この祭りを最後に終わらせたいって」

 「じゃあ村長が死んだらこの町は..」

  「滅ぶよ。元の荒れ果てた大地に戻るんだ」

 「そんな...何とかできないのか!」

 「残念だけどそれはできないよ。僕は神様じゃないんだ。病気を治すことも死者を生き返らせることはできない。それができたらそうしてる。本当はこの祭りじゃなくて村長の死と共にこの町の最後を見守って欲しい。それが村長の願いだったんだ」

 「そんなの...あれ?」

 「カルト、ポケットに入っているのは何?」

 「これは命の種で村長に貰って」

 「命の種は誰かが死んだ時に輝きその命を養分に咲く古の花だ。光ったってことは村長は...」

 「!!」

カルトは村長の家に向かうドアを開けると村長が幸せそうに眼を瞑り亡くなっていた。カルトは呼びかけたが村長は既に亡くなっていて目を覚まさない。ファルトは何度も呼び掛けるカルトの肩を掴み止めた。

 「村長起きてくれ!なあ!起きてくれよ!」

 「カルト、村長はもう...」

 「ファルト...俺...何もできなかった。あの時、村長が俺にこの種を渡した理由が分からなくて...う、ううう」

 「泣かないでカルト。村長は喜んでいたよ。この祭りができたことも、僕や村長だけじゃなくカルトもこの祭りに参加してくれたことを。自分は死んでしまうからこの祭りを知ってくれる人がいてくれたって言ってたんだ。だから何もできなかった訳じゃないよ。だって幸せそうに笑ってるから、ちゃんと意味があったんだよ」

 「意味が...ファルト?」

 「どうやら始まるみたいだ。よく見ててね」


 ファルトがそう言うとこの町は光輝き星となって少しづつ消えて無くなってしまった。町が消える..それは悲しい事のはずなのにとても綺麗だった。

 「綺麗だよね」

 「ああ、とっても綺麗だ」

 「そうでしょう。提供した異世界は役目を終えると星になるんだ」

 「悲しいはずなのに...綺麗で美しい」

 「...そうだね」

ファルトはカルトと同じように空を見上げた。空は満開の星に流れ星も流れ綺麗だった。星々を見ていたカルトはいつの間にか寝てしまった。

 「おはよう。よく眠れたみたいでよかった」

 「おはよう。気づいたら寝てて自分でも驚いた。星が綺麗なんて知らなかった」

 「そうだね。星を見るたびにあの星はどこかの町や村だったのかなってときどき思うんだ」

 「綺麗だけどなんか寂しいな」

カルトは悲しそうな顔をして町だった場所を見つめた。 消えしまった町と比べたら廃れてしまったが完全に荒れ果てたわけではなかった。

 「この土地は枯れ果てたって聞いてたけどそうじゃなかった。少しづつ成長してたんだね」

 「土が生きてる。これならこの種を植えても育つ!奇跡は起きたんだ!」

ファルトは試しに確認すると土は確かに生きておりこれなら植物たちも生きることが出来るだろう。カルトは村長を埋葬し命の種を植えて手を合わせた。

「いつかこの種が綺麗な花を咲かせるといいね」

「そうだな」

「それじゃあ行こうかカルト。奇跡を探す旅に」

「行こう!ファルト。今度は安全運転で頼むぞ」

「了解!行くよ!全速力!」

「おい!ファルト!」

聖なる絨毯に乗った2人は奇跡を探し旅立った。これは世界と奇跡について記され、この記録は後に5人目の異世界提供師の記録である。

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異世界提供師_彼と旅する異世界奇譚 時雨白黒 @siguresiguro

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