異世界提供師_彼と旅する異世界奇譚

時雨白黒

第1話 異世界提供師_はじまり

 この世界には人々の願いを叶え、ときに異世界を提供する異世界提供師が存在する。彼らはこの世に四人しか存在せずその存在は隠されていた。異世界提供師の噂は絶えず生きているのか本当に存在するのかすら定かではない。


 孤児院の前に一人組な男女が立っていた。顔は見えないが赤子を抱えていた。

 「約束があるの...この子が大きくなった時、きっとあなたの力が必要になる。その時はこの子をお願い...」

 「分かった任してくれ...この子は必ず俺が守る」

 「ありがとう...本当ならあなたとこれからも一緒にいたい」

 「...」

 「分かってるわ、ファルト。ごめんね...一緒に居られなくて...時が来たらあなたを必ず迎えに行くわ...だから待っててね...カルト」

女性はそういうと赤子を孤児院の前にそっと置いた。青年の方は何か言いたそうだったが何も言わずしゃがみこむと赤子の頭を撫でた。

 「そういうことだ。今は一緒に居られないけど必ず迎えに行くからな。待っててくれ」

頭を撫でられた赤子は笑った。青年は赤子が笑った姿を見て笑うと立ち上がった。

 「元気そうだし行こうか」

 「...そうですね」

女性は振り返って赤子を見た後、青年と共に歩き出した。異変に気付いた孤児院のシスターが外に出るとそこには誰もいなかった。

 「あら?誰かいた気がしたのだけれど...赤ちゃんの泣き声?」

シスターは泣き声に気づき声のする方へ行くと階段の下に置かれていた赤子を見つけた。

 「こんなところに...寒かったでしょう?中に入りましょう。あなたは...」

毛布に包まっている赤子に名前と生年月日が書かれた紙を見つけたシスターは赤子を抱き上げて名前を呼んだ。

 「...カルト」

シスターは赤子・カルトの名前を呼ぶと孤児院の中へ入った。


 _異世界提供師_

 中央都市ファナリスから遥か遠くの郊外。地図にも乗っておらず人々から忘れられた森に一通の手紙が届く。その手紙を受け取った青年は中身を確認した。

 「フムフム...なるほど~。孤児院の電気の力が無くなりそうだから補充して欲しいのか。...よし!行くか!」

青年は鞄を肩にかけると森を出る際に魔法をかけた。

 「これでよし!さて、こひなた森の孤児院まで行きますか!」

青年は地図を出しこひなた森に指を指し呪文を唱える。

 「目標地、こひなた森へ転移」

すると青年は消え、こひなた森へ瞬間移動した。こひなた森の孤児院につくと入り口のドアをノックした。するとシスターが現れた。

 「はい。こんにちは...あのご用件は?」

 「急に来てすみません。例の件で来ました」

 「それではあなたが!」

 「はい。異世界提供師です」

シスターはお辞儀をすると中へ青年を案内した。孤児院の中は綺麗で雰囲気もとてもよさそうに感じる。

 「先程はすみません。私たちからお願いする立場なのに」

 「いえいえ。僕の方こそすみません。孤児院に来る前に手紙を送るべきでしたね」

 「そのような気遣いは...ここです」

シスターに案内されたのは消えかかったランプやライトだった。

 「これを直してもらいたいのですが...」

 「分かりました。念のためこのランプたちが使えるか確認もかねて補充しますね」

 「ありがとうございます」

 「少し時間がかかるのでその間ゆっくりしていて下さい。何かあれば声を掛けます」

 「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます」

シスターは再びお辞儀をすると一階へ降りて行った。ここは二階。子供たちの部屋として掴まれていた。青年は作業を終えて一呼吸してシスターを呼んだ。

 「これで大丈夫です」

 「ありがとうございます。お代は..」

 「いらないです」

 「ですが...異世界提供師様に助けてもらって何もしないと言うのは...」

 「全然きにしないでください。俺は別にお金が欲しくてやっているわけじゃないんです。そりゃー他の異世界提供師は金をぼったくる奴もいれば高い料理を求めてくる奴もいますけど..俺が要求するのは違うものです」

 「その要求というのは何ですか?」

 「俺が要求するのは..「あんた、ここで何してるの?」え?」

青年が話している時に後ろから声がして振り向くと青年を睨む少年が立っていた。

 「えっと君は?」

 「まず、俺が話してるんだけど」

 「ごめんねー俺は仕事来てるんだ」

 「仕事って?」

 「僕の仕事は異世界提供師だよ」

 「異世界...提供師...」

 「そう!よろしくね。君は...」

 「あんたに名乗る名前なんかない。異世界提供師だからなんて知らないけど仕事が終わったら帰れよ」

青年は少年に手を差し出したが少年は手を叩いた。シスターは非難な声を上げたが少年は気にせずどこかへ行ってしまった。

 「すみません。あの子が...」

 「いえいえ。子供は元気があっていいですから。仕事は終わりましたが他に困っていることはありますか?」

 「いいんですか?その...」

 「遠慮しないでください!何でもいいですよ」

 「いいんですか。ならお願いしたいことがあります」


 シスターに言われたのは孤児院の子供たちのお世話だった。読み聞かせや昼食のカレーライスを作る手伝いをした青年は子供たちの紛れて食べることになった。手を合わせて食べていると後ろから先ほどの少年に話しかけられた。

 「おい。お前」

 「うん?ああー君か」

 「何でここにいんの?仕事は?」

 「終わったよー」

 「ならなんでのんきにカレー食ってんだよ」

 「それはね..」

青年が答えようとした時にシスターがやってきた。シスターは少年の頭を叩くと腰に手を当てて怒る。

 「私が異世界提供師様にお願いしました。それに...」

 「いで!」

 「お前ではありません!あなたも異世界提供師様と呼びなさい」

 「何すんだよシスター!」

 「もう!少しは反省しなさい。最近反抗ばっかりして」

 「してない!だいたいなんで異世界提供師がここにいるんだよ。そんな本当にいる訳ないだろ」

 「いや...現にここにいるんだけどなー」

 「お前は黙ってろ!」

 「こら!またそんなことを言って」

 「フンだ!カレー食ってやる」

シスターも呆れた顔で席に座り青年を挟んで左側に少年、右側にシスターが座った。

 「このカレーおいしいです。そうは思いませんか?」

 「...そうだな。悪くないと思う」

 「あの...僕退こうか?」

 「好きにしろ」

 「退かなくて大丈夫です」

 「...でも僕を挟んで話しないでよ。食べずらい」

 「気にすんな...カレーがまずくなる」

 「そんなにそのカレー美味しい?」

 「悪いかよ」

 「そのカレー作ったの僕なんだよねー」

 「え...」

 「どう?どのくらい美味しい?嬉しいなー僕料理作るの得意だから」

少年はカレーがシスターが作ってないと知ると蒸せて青年とカレーを何度も見た。少年は信じられないと言う顔をしていたがカレーを黙って食べた。

 「どう?おいしい?」

 「...悔しいけどうまい」

 「本当!どのくらい?」

 「...うるさい!ご飯くらい黙って食べろ!」

 「素直じゃないなー」

青年は少年の頬をつっつき少年は怒りいじる青年は笑った。そのやり取りを見ていたシスターは青年に一声かけると食堂を後にした。

 「では、私は仕事がありますのでお先に失礼します」

 「分かりました。僕はこれを食べたら行きます」

 「そうですか。では、お祈りをしていかれてはどうですか?」

 「お祈り?いいんですか?」

 「はい。せめてものお礼です。後で皆でするのでよかったら」

 「ありがとうございます。是非参加させてください」

 「ではそのように...いい?異世界提供師様をきちんとご案内するのよ」

 「分かったよシスター!」

 「本当ですからね!では...」

 「シスター!」

 「なあに?」

 「仕事...頑張って...」

 「ありがとう!」

シスターは少年の頭を撫でて青年にお辞儀をした。少年はシスターの後ろ姿を黙って見届けまた席に着いた。

 「シスターのこと好きなの?」

 「な!す、好きじゃねえよ!シスターは!」

 「照れちゃってー」

 「うるさい!そんなんじゃ...ない。シスターは俺を育ててくれた人で俺の母親だ。血のつながらない俺を今日まで育ててくれた。確かに好きだけどそんなんじゃない...」

 「そうなんだ。シスターに感謝してるんだね」

 「当たり前だろ!シスターが俺を拾ってくれなかったら俺は死んでたと思うから...シスターには感謝してるんだ...って何言わせてんだ!」

 「言わせたも何も君から話したのに?」

 「悪かったな。俺のことはいいんだよ!あんたはどうなんだ?異世界提供師さん」

 「どうって?」

 「あんた本物か?異世界提供師は誰もが知ってる職業だ。本当にそうならあんたはこの世に四人しかいない異世界提供師の一人ってことになる。その証拠はあるのか?」

 「証拠を見せたら信じてくれる?」

 「物によると思うけど信じない。異世界提供師と名乗る偽物がこの世に何人いると思ってるんだ」

 「そりゃーそうだね。この世界は異世界提供師がいないと成り立たない。異世界提供師はこの世界を支える大事な職業だ。でも異世界提供師は使い方を間違えると大きな脅威になる。君も知ってるでしょう?異世界提供師の起こした論争を」

 「聞いたことがある。かつて異世界提供師を恐れた多くの者たちが異世界提供師を抹殺するために起こした戦争だって。この戦争で多くの生き物と異世界提供師が死んだ。その戦争で生き残った異世界提供師はたったの四人。四人の異世界提供師はこの戦争を終わらせるため、自らの力を破壊や支配など己の欲望や願いで行使しないことを誓い代わりにこの世の全ての者たちのためにその力を使うことを約束した。これによって異世界提供師を脅威として抹殺しようとした者たちは納得し、彼の力を頼り二度と彼らを殺さないことを約束した」

 「へーよく知ってるね」

 「本で読んだんだ。異世界提供師はそれから多くの人の願いを叶えてきたと言われてる。けど...その戦争はもう何1000年も前の話だ」

 「そっか...その戦争からもうそんなに経ったんだね」

 「あんた本当にそうなのか?」

青年は下を向いて微笑んだ。少年は青年を見た時ただならぬ雰囲気に圧倒された。

 「そうだとしたらどうする?」

 「...どうもしない」

 「そっか...」

 「行くのか?」

 「うん。食器を洗わないと。お代わりする?」

 「いや...いい」

 「ゆっくり食べてね」

 「ああ...」

 「..僕はある人を探してるんだ。僕はその人の願いをかなえに来た」

 「願いって...あ!」

青年は立ち上がると食堂を後にした。少年は聞く前に青年が行ってしまった。

 「なんだよ。あいつ...探してるって言ったか?確か、異世界提供師は人の願いを叶えたり時に異世界を提供する仕事だって聞いた。もう一度本を読んで調べてみるか」


 少年はカレーを食べ終えて食堂を後にした。小さな図書室にいくと青年が分厚い本を読んでいた。

 「あんたここにいたのか?」

 「うん。お祈りをするまで時間があるから本を読んでおこうと思って」

 「ふーん。ここにある本は小さいけど勉強になるぞ」

 「そうみたいだね。君は異世界提供師のことをこの本で知ったの?」

 「そうだ。俺は文字が読めたりかけたりしたから小さい頃から読んでたんだ」

 「それで詳しかったんだね」

 「うん。異世界提供師のことはみんな嫌いみたいで聞いても答えてくれない。嫌な顔をしてはぐらかされる。なんでだ?」

 「それが普通なんだよ。だって自分たちより脅威な力を持ってる人間がいたら怖いでしょう?いつ殺されるかもしれない恐怖に襲われているのかもしれない」

 「でも...もともとあんたらのおかげでこの世界は成り立ってるのに?あんたらが居なかったらこの世界は成り立たないなのに?そんなの理不尽じゃね?あんたらだって何も悪いことはしてないんだろ?急に襲われて殺されかけたらそりゃーあんたらだって」

 「そうだね。そのおかげで多くの命が失われた。僕たち異世界提供師も、人類も。僕らは彼らのために全力を尽くしていたつもりだった。でもそれが彼らを追い詰めていたのかもしれないね。基本僕らは誰かを傷つけることは禁止されているんだ。でも、命の危機やそうしないいけない時は別だよ。そんなこともあって僕らは次第に迫害されていった。街に行けば捕らえられて見世物として殺される」

 「ひどい...」

 「確かに...君みたいに僕らに味方をしてくれる人たちも大勢いたんだ。でもそんな彼らも同罪にされて殺された。僕らはその悲劇を見て約束する形で交渉した。そして世界は平和になった。決して争わない世界にね。でも、彼らは僕らを撲滅することはできなかった。僕らが居なければその世界は成り立たないことを知っていたからだ。だから生き残った僕らに全てを託した」

 「そんなの...飼い殺しみたいじゃないか。殺して役に立つから生かすって...」

 「本当だよね。僕らもそう思う時期があったよ。本当のことを言えば僕ら四人が力を使えばこの世界を消し去ることも簡単なんだ。でもそうしないのは戦争の約束ともう一つ彼女の願いがあるからね」

 「彼女の願い?」

 「そう。この世界は平和になる。この世界を人類を私達を信じて欲しい...だからどうか見守っててほしいという願いだよ。彼女の願いがあるから僕らはこの世界を守ることにした」

 「...」

 

 青年の話を聞いた少年は暗い顔をして下を向いた。少年を励ますように肩に手を置く。

 「そんな悲しい顔しないでよ!実は異世界提供師のことが認められてきているのも事実!異世界提供師になるための試験もあるんだよ」

 「え?そんな試験あるのか?」

 「うん。でも筆記試験で受かっても査定で見定められるんだけどーそれがとても難しいんだ。だからみーんなその査定で落とされるんだ。異世界提供師の試験が始まって早100年たったけど未だに合格者0!」

 「え!誰も合格してないのか?」

 「そう!皆、我こそはって挑むけどみんな落とされてるんだ。査定は内容が変わらないんだけど皆受からないんだよねー」

 「そんな難しいのか?」

 「難しくはないんだけど...皆知らないだけ。問題は皆が知ってるから教えても何も問題はないんだ。問題はね『この世界の奇跡について』だよ」

 「この世界の奇跡について?」

 「そう。だからみんな珍解答連発してね。奇跡なんか起きないとか、分からないとかいろんな事言ってさ。中には無言で答えない人もいたかな。なかなか面白かったけどそんなんじゃ受かんない。だって彼らはこの世界のことも何も知らないから...」

 「この世界のことを?」

 「うん。なのに試験に受けに来て受かる気でいるのは馬鹿にしてるよ。そんなことが続いて査定を審査してるのは僕と同じ異世界提供師なんだ。自然の力を与えられている彼女はとてもおっかなくてね。試験を落ちた者は二度と試験が受けられなくなったんだ」

青年がいうには、自然をつかさどる異世界提供師によって試験資格を剝奪され異世界提供師についての全ての知識や記憶を奪われるらしい。また、筆記試験は重要ではなく白紙で出しても受かるのだ。

 「だって筆記試験は異世界提供師について答える問題だよ。僕らの過去のことだ。この筆記試験は僕ら決めたことでなくこの世界が決めたことだ。この試験は僕らは見ない。だから白紙で書いても受かるんだ」

 「なんで見ないんだ?一応試験じゃないのか?」

 「だって...そんなの僕らへの侮辱だから。問題を見たら君も分かると思う。僕らを蔑むことしか書いていない。そんな試験を僕らが採点すると思う?正直言うとそれを書いた人は全員その場で落としたい所だよ。それをすると色々問題になるから僕らも黙っているけど...いい気分はしないかな。まだ、白紙で出してくれた方が気分がいいよ」

 「...」

 「でも、僕らも異世界提供師が誕生するのを待っているんだ」

 「受かるといいな...」

 「そうだね...僕もそう願いたいよ」

 「そうだな。なあ?聞きたいことがあったんだけど...あんたが探している人って?」

 「それは...」

青年が何かを言おうとした時に入り口に付けられたベルが鳴る。青年と少年はベルを見た。

 「ベル?」

 「時間か...祈る時間だ」

 「もうそんな時間なんだ。早いな」

青年は読んでいた本を片付け始め少年も同様に片付けるとドアのノックされシスターが顔を出した。

 「お時間になりましたのでお知らせにベルを鳴らしました。ここにいらしたのですね」

 「はい。この図書室で本を読んでいました。ここにある本はどれも魅力的で大変勉強になりました」

 「そうですか。それは良かったです。ではお祈りをしますのでご案内しますね」

 「お願いします」

 「はい。あら?あなたもここにいたのね。てっきり異世界提供師様を置いて先に行ってしまったかと心配してたのよ」

 「たまたまここに来ただけだよ」

 「そう?この子の事面倒見ていただいてありがとうございます」

 「いえいえ...」

 「では行きましょうか」

 シスターに案内された青年は少年と共に小さな聖堂で手を合わて祈った。お祈りが終わった青年はシスターに挨拶し孤児院を去ることにした。

 「外は夕焼けが登っていますから気を付けてくださいね」

 「心配していただきありがとうございます。シスターたちも気をつけてください」

 「はい。今日は本当にありがとうございました」

 「それじゃあ行きます。彼によろしくお願いします」

 「伝えておきます」

シスターはお辞儀をして青年に手を振り青年も振り替えした。

 「行ってしまった。あの子も見送ればいいのに」

シスターはそう言うと孤児院のドアを閉めた。夕食の準備をしていた時に孤児院のドアがノックされシスターがドアを開けた。

 「はい。今開けま...え?」


 青年は背伸びをして深呼吸をした。孤児院を振り返ると薄く煙が出ているように見えた。青年は目を摩ったが煙は出ておらず気のせいと思い森を下りるため歩き出した。

 「さーて!仕事が終わったしそろそろ...あれ?孤児院から煙があがってる。気のせいか?」

青年が歩き出した時、後ろから激しい風が吹きある写真が青年の足元に落ちる。青年がその写真を拾うと写真は孤児院を背に笑うシスターと恥ずかしそうにポーズを取る少年が映っていた。写真はシスターの顔が燃えて焼けていた。

 「これは...」

青年は嫌な予感がして孤児院の方を見ると大きな爆発音が森に響いた。


 「う、うう...」

 少年は目を覚ました。辺りを見ると瓦礫や木々が散乱していた。少年は何故こうなってしまったのかを思いだす。

 「確か...シスターの手伝いをしていたら孤児院のドアがノックされて...シスターが出て..シスターの叫び声が聞こえて爆発が起きてそれから...そうだ!シスター!」

少年は周りを見回すと吹き飛ばされて片腕を怪我した子供や瓦礫に挟まれて身動きが取れない子供が大勢いた。少年は子供たちに声を声を掛けた。

 「みんな、大丈夫か!」

 「お、お兄ちゃん...」

 「足が挟まって痛いよー」

 「助けてー」

 「うわーん!」

 「待ってろ!今助ける!」

少年は子供たちを助け出すと歩ける子供を連れて外へ出る。外を出た少年は孤児院の変わりように衝撃を受けた。

 「そんな...孤児院が...」

子供たちを安全な場所に避難させた少年はシスターを探した。

 「俺がシスターを探しに行く。皆はここにいてくれ」

 「わかった!気をつけて」

 「必ずシスターを連れて戻ってくる。待っててくれ」

 「うん!」

 「お兄ちゃんお願い!」

 「ありがとう!」

少年は子供たちの頭を撫でた後、シスターを探しに行った。

 「シスター!シスター!どこだ!いたら返事をしてくれ!」

少年は叫びシスターに呼びかけた。すると微かにシスターの声が聞こえた。少年は声のする方へ行くとシスターを見つけた。顔と両手以外は瓦礫に押しつぶされ血が流れていた。

 「シスター!待ってろ。今、助ける!」

シスターは少年に気づき声を掛けた。

 「その声は...」

 「待ってろシスター!今出してやる」

 「私のことはいいんです。皆は?」

 「皆は怪我してるみたいだけど大丈夫。みんな無事だ。俺が安全なところに避難させたから」

 「そう、ならよかった。ならあなたも早く逃げなさい」

 「シスターを置いていけない!」

 「聞きなさい!人さらいがきたの。子供たちを攫いに来て売りさばこうとしてるの」

 「なんだって!」

 「先程の爆発は人さらいが起こしたものです。彼らが子供たちを攫う前に早く逃げなさい!」

 「でもシスターは」

 「...私は大丈夫。だから早く!」

その時子供たちの悲鳴が聞こえてきた。

 「きゃあああああああ」

 「「!!」」

 「この声...まさか!」

 少年は振り向くと足音が聞こえてくる。少年とシスターは身構えていると子供たちを抱えた人さらいだった。


 「お兄ちゃん!」

 「助けて...」

 「お前ら!皆を離せ」

 「君は馬鹿なのかな?離せと言われて話す奴がいるのかな?」

 「ったくお前らが悪いんだぜ?おいガキ。恨むならそこの死にかけのシスターを恨めよ。ガキを寄こせと言ったのに抵抗したせいでこの爆薬を使っちまったじゃねーか」

 「この爆発はお前らが!」

 「ダメ!人さらいに近づいたら!」

 「ふざけるなーー!」

 「君は馬鹿だね」

 「え...」

少年が人さらいに飛びかかり子供たちを助けようとしたが助けられなかった。グサッと何かが刺さる音が聞こえた。少年は何が起きたのか分からなかった。腹に強烈な痛みが襲い恐る恐る自身の腹を見るとナイフが腹に刺さっていた。人さらいに刺されたのだ。少年を刺した人さらいは笑うとナイフを抜いた。少年は痛みに耐えられずその場で倒れ腹から血が流れた。

 「ごめんごめん。つい隙だらけだったから差しちゃった」

 「お兄ちゃん!」

 「そんな!なんてことを!」

 「いいんですか兄貴ー。このガキ殺して?ガキは売りさばくんじゃないんすか?」

 「いいや、こいつはいい。年齢的に売れないし金にならない。ここでシスター同様に殺す。まあ爆発した時は焦ったがそのおかげでシスターはあのざまだしほっといても死ぬ」

 「そうすね。兄貴が持ってるナイフには大人が即死する猛毒が塗ってありますしこのガキはもう死んでるでしょう?誰かが嗅ぎつける前にずらかりましょう!」

 「そんな...いやあああ...」

 「お兄ちゃん!嫌だあああ」

 「離せ!」

 「おいこら!お前らも抵抗すると殺すぞ」

 「ひぃ!」

人さらいは立ち上がり子供たちを連れて行こうとする。抵抗した子供たちは猛毒のナイフを突き付けられ抵抗できなくなってしまう。人さらいはシスターを嘲笑うとその場から立ち去ろうとした。

 「それじゃあなーシスター」

 「うう...許さない!あなたたちは絶対に!子供たちを離せ」

 「おいおい。やめた方がいいぜ。どうせお前もガキも死ぬ。じゃあなシスター、ガキ」

 「...誰か...あの子たちを...助けて...誰か助けて!」

シスターは泣き叫びながら助けを呼び、子供たちは泣きながらシスターに助けを求めた。人さらいは鼻で笑い歩き出す。シスターと助けを求める子供たちの悲惨な声が聞こえる。


 「助けなきゃ...皆の声が聞こえる...」

人さらいが少年の傍を通りすぎた時、少年は立ち上がった。人さらいもシスターも子供たちもその場にいた誰もが驚いた。人さらいは信じられないものを見るような顔をして少年を見た。

 「な、なぜだ。大人が即死する猛毒だぞ!もう死んでるはずだ。生きてたとしても虫の息のはずだ..ましてや立つなんてできるわけないだろ」

 「兄貴...こいつバケモンですよ!どうします?」

 「そんなの決まってるだろう?殺す!」

人さらいは拳銃を取り出して少年に発砲した。少年は撃たれ倒れたがまた立ち上がった。

 「な、おかしいだろこいつ!なんで起き上がってるんだよ!」

 「なら...死ね!」

 「やめて!」

少年に10数発の弾丸を発砲した人さらいは一息ついた。少年は全ての銃弾を受け衝撃で倒れた。

 「いやああああ...」

 「お兄ちゃん!」

 「ひどい!お兄ちゃんを殺した!」

 「黙れ!こいつが悪いんだ。さっさと死なないからだ!だから..」

 「兄貴!」

 「え?」

人さらいは吹き飛ばされ孤児院の壁に背中を打ち付けた。人さらいが吹き束されたことで子供たちは解放された。

 「兄貴!大丈夫ですか?」

 「俺たちは吹き飛ばされたのか?」

 「あのガキですよ。あいつが俺たちを吹き飛ばしてきて」

 「!!」

人さらいの前には血だらけの少年が立ち人さらいは戦慄した。

 「な!なんで立ってるんだよ!」

 「助けなきゃ...皆を助けなきゃ...」

 「兄貴!こいつ意識飛んでます」

 「はあ!バケモンかよこいつ!」

少年は人さらいを殴ろうとしたが人さらいは避けた。避けた際に少年が無意識でいることに気づいた人さらいは少年を殺すため闇魔法を発動した。

 「ならしかたない!ガキどもはもういい!この森ごと消してやる」

 「兄貴!それは闇魔法ですよ。こんなところで発動させたら俺らも無事じゃ済まないすよ!」

 「それでもいい。こいつを殺せるなら!死ねーーーーーー!」

人さらいは闇魔法を発動させると闇に包まれた炎が現れ不死鳥の姿になり森に降り注いだ。

 「闇魔法_火炎鳥」

人さらいがそう叫ぶと少年を目がけて炎が迫ろうとしていた。子供たちやシスターが少年の名前を呼かける。

 「逃げてーーカルトーー!!」

 「...」

少年・カルトは動けず炎がカルトに触れる瞬間炎はかき消された。


 「遅くなってごめんね。シスター、カルト」

 「あなたは...来てくれたんですか?」

 「嫌な予感がしたから。間に合ってよかった」

青年は力を使い孤児院を元に戻しシスターとカルトの傷を治した。

 「凄い..これが異世界提供師の力...」

 「な、なに!俺の闇魔法が!」

 「あんた何者だ!」

 「僕の名前はファルト。大地の力を与えられたこの世に四人しかいない異世界提供師だ」

青年・ファルトはそう言うと人さらいは混乱し、さらに闇魔法を打ち込むがかき消される。

 「くそなんで当たんないんだよ!」

 「そんな低級魔法が異世界提供師に通じると思う?」

 「低級魔法ってこの魔法は闇魔法の中でも最高位の魔法だぞ!」

 「はあ...確かに闇魔法の中ではそうかも知れないけど...魔法を作った本人に向けて撃つなんて馬鹿だよ」

 「何言ってんだ!これは異世界提供師が人類のために伝承した...」

人さらいはあることに気づき冷汗が堪らなかった。

 「気づいた?君たちが使う全ての魔法は僕が善意で人類に提供したものだよ。それを...誰かを傷つけるために使うなんて...ふざけるのも大概にしろよ」

ファルトは冷めた塵を見る目で人さらいを見た。人さらいは恐怖で動けない。

 「だ、だとしても異世界提供師は俺たちに危害を加えってはいけない約束だ。それを破ったってことはどうなるのか分かるよな!戦争だ!お前のせいで人が死ぬ!お前は処刑だ。約束を破ったお前は処罰..」

 「言いたいことはそれだけか?」

人さらいはファルトを煽るがそれがファルトの逆鱗に触れた。ファルトはナイフを突きつけて笑う。だがその顔は蔑むような顔をしていた。

 「君たちは何か勘違いをしているみたいだけど..別に僕たち異世界提供師はいつでも君たちを殺すことだって存在自体を抹消したりこの世界自体を消滅させることだってできるんだよ?それに約束っていうけど君たちほど醜くて愚かな生き物はそういない。僕らは君たち生き物に散々裏切られてきたよ。都合のいい時は縋るのに...悪い時は責め立てる。正直飽き飽きしたんだ。約束なんてなんてなければ君たちはその場で死んでいるよ」

 「そんなことできるわけないだろ!」

 「出来るよ..ただ彼女との約束がある。僕はその約束を破るわけにはいかないから今回は生かしてあげるけど次はない」

ファルトは無言で闇魔法を発動させると人さらいの頭上に火炎鳥が現れた。

 「ま、待て待て!悪かった俺たちが悪かったって!」

 「もう遅いよ。謝るくらいなら初めからするべきじゃなかったな」

 「っっ...たとえ俺たちを殺してもお前に未来はない!手をだしたら!」

 「確かに人類に手を出してはいけない約束だけど...誰かが危害にあったり危険な目にあったり自分自身が死にかける事態になる時のみ異世界提供師が手を出すことが出来る。つまり...今この場で君たちに手を掛けて殺すことも出来るんだよ。君たちはこれらを傷つけて殺そうとした。十分すぎる理由だよね」

 「ま、待てくれ頼む!」

 「死にたくない!やめろーーーーー!」

ファルトは笑うと火炎鳥は人さらいに落ち人さらいの醜い叫び声が響いた。


 「これでよし!皆大丈夫?」

 「私たちは大丈夫です。でもカルトが...」

 「俺は...平...気だよ」

 ふらついたカルトをファルトは支えた。カルトは疲れ切り息を吐きながらはがらファルトを見上げた。

 「あの、人さらいたちは?」

 「大丈夫生きてるよ。彼らには幻を見せて火炎鳥に襲わせるように見せたんだ。中央都市に飛ばしておいたから今頃は逮捕されている頃じゃないかな」

ファルトがそう言った通り人さらいは柱に縛り付けられ私たちが人さらいをしましたという張り紙を張られていた。人さらいを見つけた親子によって逮捕された。

 「そうですか..よかったです」

 「間に合って本当によかった。これでもう安心です。俺の魔法をかけておきました」

 「ありがとうございます。本当に...本当に無事でよかった」

 「ありがとう...ファルト。あんたは本当に異世界提供師だったんだな..」

 「分かって貰えてよかったよ。それに君がカルトだったんだね」

 「え?俺がどうしたって?」

 「僕は君を探していたんだ」

 「俺をどうして...?」

 「僕は君の願いを叶えるために君を探してたんだ」

 「俺の願いを...」

 「そうなんだ。君と初めて出会った時にどこか懐かしさを感じていて、もしかしたらと思ったんだ。間に合って本当によかったよ。もし、間に合わなかったら彼女との約束を破る所だった」

ファルトはそう言うとカルトと向き合い手を差し伸べる。


 「改めて...僕の名前はファルト。大地の力を与えられた異世界提供師だ。カルト、僕は君の願いを叶えに来た。君の願いはなんだい?」

 「ファルト...本当に俺の願いを叶えてくれるのか?」」

 「もちろんだよカルト」

 「なら、俺の願いは...」

カルトは願いを言うとファルトの手を掴んだ。ファルトは願いに驚いた顔をしていた。

 「なんだよその顔!悪いか?」

 「いいや、まさかそう来るとは思わなかったから驚いただけ。でも本当にそれでいいの?」

 「いいに決まってるだろ...俺は知りたいんだ」

 「そっか...その言葉を聞いて安心したよ。これからよろしくねカルト」

 「よろしく...ファルト」

そう言うと二人は顔を見合わせて笑った。その後、ファルトは孤児院で泊まることになりやがて夜が明けた。


 翌日の早朝、シスターは支度を済ませ孤児院を出ると旅立とうとしているファルトと共にカルトがいた。シスターは少し寂しそうにファルト達に話しかけた。

 「もう行ってしまうのですか?」

 「はい。子供たちも起きてしまうし、カルトが皆の顔を見たら泣きそうだと言っていたので」

 「言ってない!」

 「ふふふ...カルトらしいわね」

 「シスターも笑うなよ!」

 「ごめんなさい。ついね」

 「もう!」

 「カルトのことお願いします」

 「任せてください。必ず守りますから」

シスターはカルトに笑いながらファルトに言う。ファルトは頷きシスターに言うとシスターは安心したように笑った。

 「その言葉を聞いて安心しました。気をつけてね、カルト」

 「う、ううん...あの...シスター!」

カルトは下を向いてシスターを呼ぶとシスターはカルトを見た。カルトは遠慮していたがファルトに背中を押され、カルトはシスターに抱き着いた。シスターは驚いていたがカルトを受け止めた。カルトは泣きながらシスターに礼を言う。

 「カルト!大きくなったのね」

 「シスター...今まで迷惑もかけたし困らせたて...ごめんなさい...俺...シスターに育ててもらって嬉しかったし今まで楽しかった...」

 「カルト...私もよ。あなたと出会えてよかった。あなたは私の宝よ。辛くなったらいつでも帰って来ていいのよ。ここはあなたの家なんだから...異世界提供師様のいう事をよく聞いて...あなたの願いを叶えなさい。私も皆も無事に願いが叶うことを祈っているわ...」

 「ありがとう...シスター。俺が頑張る。願いを叶えたら必ず帰ってくるよ。ここに...俺の家に...」

 「待ってるわ...カルト。さあ、異世界提供師様が待ってるわ。行きなさい」

 「ああ、行ってくる!」

カルトはファルトの所まで走り、シスターはその背中を見送った。

 「もういいのかい?」

 「うん!」

 「じゃあ行こうかカルト」

カルトは頷くとファルトと並んで歩き出した。少し離れた所で振り返るとカルトは手を振る。シスターも気づいたのかカルトの姿が見えなくなるまで手を振った。

 「いってらっしゃい。カルト」

シスターはそう言うとカルトの無事を祈った。


 

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