大会初日!

ライトは大会まで人型のモンスターと戦うためひたすらダンジョンの1~4階層の敵を倒し続けた。


飽きてくると最下層まで行ってみたりと、ライトにとってこのダンジョンは狭すぎるように感じてきた。


未知を知るためのダンジョン。


もはや完全に攻略しきってしまった今、ライトはモンスターの攻撃パターンや習性を身体で覚えてしまったためあまりにもこのダンジョンはヌル過ぎた。


そのためライトは残りの時間をダンジョンに潜る時間よりも、図書室で勉強する時間に重きを置くことにした。


この期間ライトは1人で努力し続け、目標を達成しきってしまった為に実感が湧いていなかったが確実に成長していた。


そしてついに大会当日。


魔法や武器、なんでもありの勝負と言うより喧嘩大会の方がふさわしい異種格闘技大会が始まった。


村はいつにも増して賑わっており、沢山の並ぶ屋台。


並ぶ観客。そして紛れて並んでいるライ。


「な、なんでお前がここにいるんだよ!?ライ!!」


ライトは思わず指をさして叫ぶように問いただす。


ライは呼ばれても気づいた様子を見せなかった。


ライトはライのもとへ近づき肩をたたいて呼ぶ。


一瞬驚きながらも、ほかの屋台で買った串焼きを口の中にほうばって喋る。


「そんらの、あいらいああるあら……。

に決まってるじゃないか?」


「あいらい?嗚呼、大会か!」


実際大規模な大会らしいためライがここにいるのは不思議なことではなかったが、ライトにとってそれは想定外だった。


ーー既に優勝無理じゃん!ライには勝てないって!


「お、お前も出るのか?」


ライは追加で肉串を口にほうばりながら、「何を言っているんだ?」と言った当たり前のような顔で頷く。


「ライも賞金目当てか?」


横に首を振るライ。


「それじゃ、有名な大会だから腕試しとか?」


ライはしばらく考えた様子を見せるとまた顔を横に振った。


理由はわからなかったがなんだか会話も面倒くさくなってきたライトは「お互い頑張ろうぜ」とだけ言ってその場を離れることにした。



大会は4日間かけての開催だった。


例年大会出場者の母数が多いため初日は朝から日付が変わるまで色んなところで戦いあっていた。


しかし今年の大会スポンサーが例年とは異なるため、今年はバトルロワイヤルの形式での大会となった。


ーーどこがスポンサーだよ。こんな血に飢えたやり方で戦わせるのは!


参加者約100人程度の人達が村の中心に作られたステージに立たされる。


ステージは直径30メートルの円状でそれを囲うように地面に観客席として簡易椅子が置かれていた。


司会のスポンサーの方と思わる40代ほどの高価そうなスーツを着た男性が、舞台に隣接するように作られた壇上に上がりルールを説明する。


その中身は舞台に残った10名でトーナメント形式を行うと言った内容だった。


単純でこれ程までに簡単なルールはないと思う。


つまるところ舞台に残り続けるだけでいいということ。


カノンとライトは2人で同じことを思いつく。


ーーこれ誰も倒さなくて良いんじゃないのか?


たくさん倒した人という順位の出し方じゃない限り、いくら倒そうが関係ないというワケだ。


普通の人間殴られたら殴り返しに行くもんだ。

なら自分から喧嘩を売る必要も無い。


開始の合図としてスポンサーの手から大きな光が発せられた。


「ん・・・。」


一瞬目を細めて再び壇上を見るとそこには誰もいなくなっていた。


場は静まりかえる。


そしてその静寂を切り裂くように一気に悲鳴が聞こえる。


その悲鳴の方向を見ると参加者の5名程が舞台から放り出されていた。


中心にいたのはライ。


場の人間はライから逃げるように移動し、それに押し出されるように人が何人も脱落していく。


残っている何人かは対抗するように戦い始め、ようやく大会が幕を開けた。


ライトは持っていたカノンではない普通の剣を円状の舞台の真ん中に投げる。


するとそれを目印にライがライトに気付き、ライトに目掛けてほかの参加者を突き出していく。


ーーライト、あの時の決着をちゃんとつけよう。


ーーライ一人に100人程度じゃ足りなさそうだな。

アイツは闘牛か!?もうこっちに到着するまでに何十人押し出したんだ!?


ライトをめざして反時計回りに他の参加者をなぎ倒しながら、ライはライトの目の前までやって来た。


左上から右下にかけて叩きつけるように剣を振り下ろすライ。


全力で一歩下がり、ライトはその攻撃を避ける。


右下から打ち上げるように剣が上がってくる。


その攻撃を待っていたかのようにライトはカノンでその攻撃を防いだ。


ライはその剣を振った感覚に違和感を覚えた。


ーー……!?踏ん張っていない!?


力で勝てないライトはそのままライの剣によって打ち上げられる。


「行くぞ!!」

「!?」


「武器寄せ!!」


この掛け声によってライトは円状中央の剣に猛スピードで引き寄せられる。


そしてライトと中央へ投げられた剣の間と延長線上にいたのはライとその他数十名。


掛け声により既にその内容を知っていたライはライトの通路から避けたが、その他すし詰め状態の参加者たちは押し出されるように場外へと脱落していく。


ライの中で何かが切れた。


「ライトォ"ォ"ォ"オ"オ"オ"!」


ライは大きながなり声でライトの名前を叫ぶ。


声音から怒っていることが伝わって来た。


「……え。」


ライトは訳も分からず返事ができないでいた。


ライは剣を鞘から抜き、約20m先のライトへ突撃する。


ライの剣は青く光っていた。


「あいつ、剣抜いてるじゃん!?」


ライトは訳も分からず立ち尽くすしか出来なかった。


「おい!ライト!お前このまま剣を身体で受け止めたら…!!」


カノンは心配になってライトに声をかけるも、ライトは動く気配を見せなかった。


ライはお構い無しに青く光る剣を振り上げるも、壇上から警報音のような凄まじく大きな音が鳴る。


「ブウォーーーーン!!!」


この音の方向である壇上の上に目をやると司会をしていた男性が立っていた。


「あーい。そこまででーす。熱くなってきましたが、ステージ上の人数が10人になりましたので今日のバトルロワイヤルはおしまいです。

明日からはトーナメントで戦うので遅れないようにー。」


なんとか時間に救われた。


およそ直径30mほどのステージに無理やり入れられていた100名はいつの間にか一割にまで減っていた。


ライは剣を腰の左側につけた鞘にしまう。


剣の色はいつもの青黒い色に戻っていた。


「なんでいつも逃げるんだよライト・・・。」


哀しそうな声をして下を向きながら話すライの顔はライトからは見えなかった。


ライはライトに背中を向けて歩いて行ってしまった。


そうしてその時になり初めて気が付いた。


ーー俺はライからずっと逃げていた。勝てないとあきらめて、でも負けないように、いつもまっすぐで俺にでも真剣なアイツを利用してたんだ。


それに気が付き不甲斐なさから下唇を切れるほど強く噛むライト。


その様子を見て心配するカノン。


ライトはライを追い越すように早歩きで追いかける。

そしてライトはライをすれ違う際に小声で呟いた。


「俺はお前が推薦するほど出来たやつじゃないよ……。」


ライはその声を聞いて顔を上げるが、ライトに声はかけられなかった。


壇上にいた男性がライのもとへ降りていく。


「あの子、お前が推すほどか?頭は良いように見えるが、それだけのようにも思うぞ?」


「……。アイツは僕のライバルになるハズです。僕の剣が……、いや、アイツと過ごした僕がそう思ったんです。」


そう返事をするライの目は相変わらずの無表情だったが、瞳に闘志が宿っていた。


そんなライを横目に男性は小さくため息をついた。


「若いねぇ。」

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天才騎士と白龍の剣士! 伊藤千尋 @Chihiro0322

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