歓迎会

 ハーベスト村ではリヒト村の住人を集めて歓迎会をすることになった。


 各種ボア料理をふるまったらリヒト村ではかなり珍しいというか高価で今まで食べられなかったらしくかなり評判がいい。


 ただし高齢者には圧倒的にシェイマスさんの野菜の方が好評だ。


 リヒト村から来た住人の人数はおよそ100人程。


 ハーベスト村の住人の数と比べると圧倒的に多いけど、若手が意外と少ない。


 若手と言っても殆どが未成年で働き盛りは両手で数えられる程しかいなかった。


 若手の代表と言っても30代のボブさんが事情を説明した。


「リヒト村では若手が成人するとほとんどがウッドストックか王都へ旅立ってしまうから、残るのは畑を継げる長男だけであとは年寄りばかりなんです」


 畑を持てなければ農業をして生活できないので仕方なし。


 残る住民は高齢者と子どもばかりという理由もわかった。


 子どもや高齢者には力仕事以外の事を割り振ることにする。


 今回は歓迎会なので村の倉庫にあるワインをすべて掃き出して夜通し宴が催された。


 *


 二日酔いでまともに動けなかった翌日は休業日として、翌々日からハーベスト村の開拓作業が始まった。


 リヒト村の住人には畑の開墾を任せて、ソイルはゴーレム軍団を率いて森の伐採を始める。


 ゴーレムがメタルゴーレムとなったので伐採速度は大幅向上だ。


 伐採とウッドストック迄の街道整備、どちらを優先するかケイトさんと相談して散々悩んだ結果だ。


 ケイトさんは語る。


「街道整備も必要だけど、まずは街の整備が最優先よ」


「街道よりも街の整備なのですか? その理由はどういうことなんでしょうか?」


「街道の整備も大切だけど、今のハーベスト村だと取引できるような物ってボア肉と薪ぐらいしか無いじゃない。少なくとも村の外から長い時間を掛けてわざわざ買い出しに来る物はこの村にないわ」


 ギルドも出来てない状況だし、地場産業が育成できてない状況だと確かにそうなるな。


「それに第三防壁になる外街壁を作らないと、いつ魔獣が第二や第一の内街壁を越えて村の中にやってくるかわからなくて危険よ」


 ハーベスト村の住人ならボアが村の中に侵入してくることはご飯が向こうからわざわざやって来る程度の感覚だけど、リヒト村の住民にとったら凶暴な魔獣でしか無くて危険極まりない。


 やはり住民の安全を第一に考えた方がいい。


 と言うことでソイルは外街壁の建築、リヒト村の住人には畑の開墾を任せることにした。


 *


 それから1ヶ月。


 地道に切り株を取り除いて、畑を耕して、ソイルの魔法を使って肥料代わりに『ソイル』を蒔き、種芋や野菜の種を植えて畑の収穫を迎えたんだけど……問題が起きた。


「不味いですのじゃ!」


 あれほどハーベスト村の野菜を美味しいと言ってくれた老人たちだったが、新しい畑で作った野菜はどれも美味しくないと言われたのである。


 トマトの栽培担当の老人は困り果てた顔をする。


「実がカッスカスで、ジューシーじゃないのじゃ」


 ソイルがトマトを食べてみると実のサイズは大きくて立派なのに瑞々しさは殆どなくて食べた食感もゴリゴリした感じであまりおいしくない。


 とは言ってもシェーマスさんのトマトが美味しすぎるだけで普通のトマトぐらいの出来ではある。


「なんと言うか普通のトマトって感じですね」


「そうじゃろ。この村で普段食べているトマトより美味しくないんじゃ」


 そこに手提げ籠にトマトを入れてセモリナさんが走って来た。


「シェーマスの畑からトマトを貰って来たわよ」


 セモリナさんがシェーマスさんの畑から貰って来たトマトはジューシーでお菓子のように甘くておいしい。


「ジューシーで甘くて全然違いますね」


「そうね。栽培方法はシェーマスに教えて貰った通りやってるのに全然出来が違うわね」


 仕方ないのでシェーマスさんを呼んできた。


「どうした? トマトが美味しくないって?」


 シェーマスさんはやって来たなりいきなりガッツポーズをする。


「ソイルの坊ちゃんに勝った!」


 未だにシェーマスさんにライバル視されているソイルだった。


 シェーマスさんはトマトを手に取る。


「見た目はそれほど悪くないべ」


 そう言ってトマトかじるとすぐに原因が分かったようだ。


「このトマト、水はどうしてるべ?」


 老人が答える。


「ちゃんと毎日午前中に根腐れしない程度あげています」


「そっか……。このトマトは種植から何日ぐらいで実がなるんだべ?」


「だいたい一週間です」


 シェーマスさんは深くうなずいた。


「おらの畑では2日で収穫できるから種蒔きから一切水やりをしないんだが、じゃあこうしてみるべ。これからは種蒔きとその翌日に水やりしたら、もう収穫まで水やりはしないようにするべ」


 それを聞いた老人は眉をしかめる。


「ジューシーじゃないのに水やりを禁止にするのですじゃ?」


 それを聞いてシェーマスさんは得意気な顔をした。


「水を全くやらないのはまずいけど、水のやり過ぎは根腐れを起こすからあまり良くないべ」


 シェーマスの指摘通り、水やりを減らしたら確かに根腐れは起こさなくなったけど今度は苗が枯れ気味で実が上手く育たない。


 シェーマスさんは首を傾げる。


「もう少し水を増やさないとダメなんべかな? 同じ作り方をしてるはずなんだけど、おらの畑との差がわからないべ」


 そこにやって来たケイトさん。


 興味があったのか首を突っ込んできた。


「シェーマスさんと新しく作った畑の差? そんなこと簡単にわかるわよ」


 魔力測定具を取り出す。


「これで測定すればいいのよ」


 以前ウッドストックで修理依頼を出して魔石が無いといった理由で修理を断られた魔力測定具だったけど、魔石が手に入るようにようになったので修理が済んだようだ。


 なお、測定具自体はおかしなところはなかったらしい。


 ケイトさんはソイルの魔法で出した『ソイル』の魔力を測定する。


「残存魔力は0ね……。至って普通の結果ね」


「土に魔力なんてあるの?」


 セモリナさんは土に魔力があるなんて初耳だったみたいで驚いている。


 ソイルもシェーマスさんもビックリだ。


「魔法で出したソイルだからね。術者の修練度が低かったりすると時たま魔力が乗ってしまうことがあるのよ。対するシェーマスさんの『ソイル』は……」


 ソイルたちは測定結果を見て絶句する。


「残存魔力3000!」


 ケイトさんはこの測定結果に納得したようだ。


「どうりで……この村の野菜は育つのが早すぎるし妙に美味しいと思ったのよ」


「ケイト、これってどういうことなの?」


「シェーマスさんのソイル魔法には多量の魔力が含まれていたから、水代わりに魔力で作物が育っていたのよね」


「ふえー」


 一同感心しまくり。


「坊ちゃんに勝った! おらのソイルは世界一!」


 ソイルに勝ち誇るシェーマスさんであった。

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ハズレ職『土魔法使い』は最強 ~最弱土魔法で街づくり~ かわち乃梵天丸 @apopyon

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