村長の出稼ぎ
「ソイルくん、お父さんから話があるんだって」
セモリナさんにそう言われてダイニング兼リビングの食卓に行くとソイルだけでなく、ケイトさん、ブレイブ、ローズ、ケビン、ジャズの若手四人衆も来ていた。
ソイルは若手四人衆と共に村長宅の食卓に呼ばれボアステーキを食べながらブランさんの話を聞いている。
「ソイル、俺はハーベスト村をハーベスト領として昇格して貰った礼に、これから一年ほど国王のお守りに行かなくてはならなくなった」
たしかウッドストックの事件を解決する為にウッドストックをハーベスト村の領地とする為に、ブランさんが国王に直談判し無理やりハーベスト領に昇格して貰った。
そのことを言っているんだと思う。
ブランさんはいつもは見せないような真剣な表情で話を続ける。
「お前とセモリナ、ケイトとブレイブ、ケビン、ジャズ、ローズの村の若手全員で協力してこの村、いやこの街を守っていけるな?」
「はい!」
ソイルは力ずよく自信満々で返事をする。
そこにはもうマイケルとの試合に負けて、実家であるアンダーソン領を追い出された頃の自信の無さはない。
「うむ、自信に満ちたなかなかいい返事だ。この村に来た頃は自信なさげな返事が多かったがソイルは成長したな」
セモリナさんとケイトさんにも頷かれた。
「ありがとうございます」
「ブレイブたちもソイルに協力してこの街を守ってくれるか?」
当然手伝ってくれると思っていたんだけど……ブレイブの返事は違った。
「それは無理だ」
それを聞いたブランさんは激高しブレイブの胸倉に掴み掛る。
「なんでハーベスト村の仲間として協力できないんだ? ソイルも今は立派な村民だろうが!」
「違うんだ!」
「何が違うんだ! 言ってみろ!」
ブランさんはブレイブをぶっ飛ばす。
部屋中の棚がひっくり返りめちゃくちゃだ。
「村長! 落ち着いて! 話を聞いて!」
ローズが割って入って二人を止める。
「わたしたち、村長に話があるの……」
テーブルに座り直して、ブレイブが話を始めた。
「俺はリヒト村の事件でソイルが居なければローズを失ったかもしれないと、実力不足を痛感したんだ。だから村長、俺を国王のお守りに同行させてくれ。頼む!」
ソイルにはブレイブの真剣な思いが見えた。
ブレイブが頭を下げるとローズも続く。
「お願いします!」
ケビンもジャズも続いた。
「村長頼む!」
「お願いだ!」
それを聞いたブランさんは腕を組み目を閉じ考え込む。
しばらく考え込んだあとに口を開く。
「わかった」
ブレイブの真剣な思いはブランさんに通じたようだ。
「でも一度同行したらケツを割ることは絶対に許さん! それでいいならついて来い!」
それを聞いてブレイブもローズも目に涙を浮かべている。
「村長、すまねぇ!」
「ありがとう」
「あと俺の事を村長と呼ぶのはやめろ。もう俺は村長じゃねぇ」
「じゃあ、何て呼べばいいんだよ?」
「ブランさん、か?」
「ブランさん……、なんかこの呼び方はむず痒いな」
「俺だってむず痒いんだから我慢しろ。がははは!」
皆で大笑いした。
「と言うことで、ソイル! お前はこの村をセモリナとケイトだけで守れるな」
「もちろんです」
ブランさんはソイルの自信に満ちた返事に満足気に頷く。
「いい返事だな。セモリナもケイトもソイルを支えてやってくれ」
「もちろんよ、お父さん」
「ソイルくんが挫折して倒れそうになったらいつでもハグして支えてあげるからね。なんならそれ以上の事もわたし的にはOKよ」
真面目な話をしていてもブレないケイトさんであった。
*
翌朝早く、ブランさんたちは早馬に乗り「新春祭りには戻って来る」との言葉を残して若手四人衆を連れて出て旅立つ。
騒がしいブランさんとブレイブたちがいなくなったので、村が随分と寂しいものになってしまったな、とソイルは思うのであった。
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