処罰

 いつも屋外食堂として使っているハーベスト村の町長宅前の広場ではリヒト村の男たちを地面に座らせて村長が処罰の申し渡しをしていた。


 どう見ても野盗のボスにしか見えない村長を目の前にして、ゴーレムに取り囲まれた男たちは不安な顔を浮かべる。


「俺らたちはどうなるんだ?」


「村長は悪いことにはしないと言ってたのに話が違うじゃねーか!」


 ざわめくリヒト村の男たちにブランが一喝する。


「うるせぇ! ガタガタ騒ぐんじゃねぇ!」


 村長に怒鳴られるとざわめきが収まった。


「お前たちは本意で無いにしろウッドストックの住民を混乱におとしめようとしたのは間違いねぇ。そこで村長の俺としてはお前らに罰を与えないといけねぇ」


 うなだれる男たち。


 代表者の長老らしい男が話す。


「どんな罰ですか? わしの命ならいくらでもくれてやるし、男どもを奴隷落ちにするのは構わぬ。ともかく、嫁や子どもだけは助けてくれ」


「そんなことはしねぇ」


 その言葉を聞いて男たちの表情が明るくなった。


「実はな、お前らの村にある食料が運送ギルドの連中に盗られる可能性があったんで、根こそぎウッドストックに運んで売り払ったんだ。だから今からリヒト村に帰っても食物は無えから生活が出来ねぇ」


 それを聞いて男たちは青ざめた。


「食料を奪い取ったのかよ! 食料が無いんじゃ冬を越せないぞ!」


「まあ、そう言うことになる」


「俺たちはどうすればいい?」


「春までこの村で過ごして開拓の手伝いをしてくれ。もちろん、その間の衣食住の保証はする。それがお前たちへの罰だ」


 それを聞いて男たちはほっとした表情を浮かべた。


「それだけでいいのか……。春になったらリヒト村に戻れるんろうな?」


「おう、俺が約束する。そんじゃ、あとは俺の後任の村長のこいつに任せる」


 そう言うとブランはソイルの背中を叩き、皆の前に押し出した。


 ソイルは自己紹介をするなんて聞いていなかったけど、深呼吸をし気を落ち着けると話し始める。


「ハーベスト村の村長をすることになったソイルです。村長みたいな事をするのは初めてなので、至らない所はあると思いますがよろしくお願いします」


 そして頭を下げると拍手が沸き上がった。


 すると、リヒト村の村民の若い男がさらに茶化す。


「若くて少し頼りないけど、あのおっかねぇ前の村長よりはマシだな」


 辺りから笑い声が上がった。


 ソイルは照れ笑いしつつ、話を続ける。


「あ、言い忘れてましたけど、この村から勝手に逃げないで下さいよ。死にます」


「死ぬって……どういうことだよ? 俺たちが逃げたら殺すのか?」


「そんなことはしませんが、勝手に村から出るとグレートボアやら大ムカデがいて絶対に生きてはいられませんから逃げないで下さいね。まあ、天然の刑務所と言った所です。はははは」


 冗談になってない冗談だったのか村人たちは困惑に包まれる。


 ソイルは真顔をして話を続ける。


「僕もこの村に来たときは村の中にいたのに入り込んできた魔獣に襲われて死にそうになりました」


「ちょっ……」


 それを聞いた村人全員が青ざめた。


「そんな危険な村なのかよ……」


「今は防壁があるので村の外に出ない限り安全です」


 それを聞いてホッとするリヒト村の村民たち。


「では、これにて処罰の申し渡しと自己紹介を終えます。2-3日中に歓迎会を開きますからそれまではゆっくり休んでいてください」


 話を終えて帰ろうとするソイルに村民の一人が声を掛ける。


「ボブと言います。僕らは今までこの広場にテントを張って寝床にして生活してたんですが、新たにやって来たおっかちゃんや娘はどこに住めばいいんですか?」


「あっ……」


 やべぇ……家作るの忘れてた。


 セモリナさんとケイトさんを見ると、やれやれと言った感じで肩をすくめていた。


「こんなに沢山の住人を受け入れたのに家を作るの忘れたらダメじゃない」


「今すぐ、家を作るので待っていて下さい」


「今すぐ?」


 ソイルの今すぐ家を作るという話を聞いていまいち理解出来ない感じのリヒト村の住人たちであった。


 *


 ソイルとケイトさんは家を作り始める。


 ちなみにセモリナさんは母親のフラワーさんとリヒト村の女の人たちと一緒に炊き出し中だ。


 リヒト村の男衆たちは家を作るのを手伝うと申し出てくれたんだけど……。


「ちょっと特殊な作り方をするので僕らだけでやらせて下さい」


 もちろんソイルはレンガとセット魔法で家を作るつもりだった。


「ケイトさん、どんな家を建てればいいんでしょう?」


「春までの仮住まいだからテントに毛が生えた程度でいいと思うんだけど……ベッドルームとダイニングキッチンだけでバストイレは共同で無くていいんじゃないかな?」


 すらすらと図面を描くケイトさん。


 流石建築ギルド所属の本職だけはある。


 ケイトさんは描き上げた図面の説明を始める。


「家の中の部屋は2つで、ベッドルームはベッド6台置けるスペースを取ってるわ」


「6人以上の家族の場合は二段ベッドですか?」


「それでいいわね」


 と言う感じで図面通りの家をセット魔法に登録した。


 *


 門に近い場所に空き地を見つけそこに魔法で家を出す。


 ソイルたちには外壁を作った時に見慣れた光景だけど、リヒト村の住民たちには衝撃的だったようだ。


「マジかよ!」


「突然家が湧き出た!」


「しかも何軒も同時に?」


 リヒト村の村民たちは口あんぐり。


 なぜかケイトさんがドヤっている。


「どう? うちの村長のソイルくんの魔法はなかなかのもんでしょ?」


「村長の魔法か! すげーな!」


 リヒト村の村民たちに一目置かれるソイルであった。

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