Ⅵ 立身の道
しかし、何処の馬の骨ともわからぬ若僧の勝利を、素直に良しとしない者達もいる……。
それは、月桂樹の冠と副賞の賞金を授ける優勝・準優勝の授賞式を終え(第三位は両者とも戦闘不能だったため空位)、いまだ熱気冷めやまぬ
「おい! ちょっと待ちな!」
今夜泊るための宿を探し、下町の裏通りへさしかかったその時、二人は十数名の荒くれ者どもに周りを囲まれた。気づけば逃げ場がないよう、狭い道の前後を屈強な船乗り風の男達が塞いでいる。
「うちの親分をよくもやってくれたな! リュックスの野郎ならともかく、てめらのような若僧が優勝なんて許せねえ!」
その中のリーダーと思しき人相の悪い男が、血走った眼で兄弟を睨みつけながら言う。
その柄の悪い集団は、アミーゴスの下で働く人足達だった。卑劣にも、自分達のボスを倒したことへの意趣返しに大勢でやって来たのである。
「ハン! 上等じゃあねえか。まとめて返り討ちにしてやるぜ……と言いてえところだが、少々マジぃな……」
「ああ。こんなことならもっと手を抜いとくんだったぜ……」
不敵な笑みを浮かべ、威勢よく啖呵を切るポルフィリオだったが、途中からトーンダウンすると、カリストもそれに頷く。
多勢といえど、普段ならこんな相手、屁とも思わない二人であるが、先刻、お互いに本気でやり合ったために今は満身創痍であり、ろくに闘えるような状況ではないのだ。
「かまわねえ! 親分の仇だ! 袋叩きにしてやれえっ!」
それも見越しての襲撃か? そんな包帯ぐるぐる巻きの二人に対して、リーダーの合図で人足達が一斉に襲いかかる。
「チッ…ぬかったぜ……」
痛む身体に鞭を打ち、やむなく二人が身構えたその時。
「フラガラッハっ!」
そんな声がどこからともなく響いたかと思うと……。
「うぎゃっ…!」
「ぐあっ…!」
何やら高速で飛翔する物体が人足達の間をかすめ、野郎どもの悲鳴とともに赤い血飛沫が舞いあがる。
「おとなしく退くなら見逃してやる。今のはかすり傷に留めておいたが、今度は命をもらうぞ?」
苦悶の表情で地べたに転がる人足達の背後には、純白の
その物体は純白の
「まったく卑劣な連中だの。斬りますか?」
「せっかくですし始末してしまいましょう」
また、青年の左右では、同じく白い
「ひ、ひえぇぇぇーっ…!」
「に、逃げろぉーっ…!」
圧倒的なその戦力差に、アミーゴスの手下達は真っ青い顔をすると、
「あ、あんた…い、いや、あなたさまは……?」
「な、なんで俺達を助けて……」
一方、危機を逃れたオスクロイ兄弟は、見るからに騎士階級以上と思われるその闖入者に、口の利き方を改めながら、目をまん丸くして尋ねる。
「なに、君達の熱烈なファンさ。先程の試合を見させてもらってね。一目で君達の古代イスカンドリア拳闘術に惚れ込んだ」
すると、青年は魔法剣を腰の鞘へ戻しつつ、冗談めかした口調で二人にそう答える。
「俺は白金の羊角騎士団・団長、ドン・ハーソン・デ・テッサリオだ。君達を我らが騎士団へ迎え入れたい。どうだね? 羊角騎士団の団員になる気はないかね?」
続けて青年は、銀色の籠手を嵌めた手を兄弟の方へと差し出しつつ、そんな思いもしなかった勧誘の言葉をその口にする。
「き、騎士団? ……この俺達が?」
「つ、つまり、俺達が騎士になるっていう……そういうことっすか?」
突然のその誘いに、よく状況を飲み込めぬままながらも兄弟は思わず尋ね返す。
「ああ、そうだ。たかが騎士階級ごときでは、君達の理想とする高みには低すぎるかな? 嫌ならば無理強いはしないが……」
「と、とんでもねえ! 騎士になれるなんて願ってもねえことでさあ!」
「羊だか山羊だか知りませんが、喜んで入らせていただきやす!」
一介の漁師から騎士に取り立てられるなど滅多にない空前の大チャンス……まさに彼らが帝国一武闘会に出た真の目的、〝立身出世〟そのものである。
二人は一もニもなく首を縦に振り、こうしてオスクロイ兄弟は、訳がわからないまま白金の羊角騎士団の一員となったのだった。
(El Hermano Marciales 〜武闘兄弟〜 了)
El Hermano Marciales 〜武闘兄弟〜 平中なごん @HiranakaNagon
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