Ⅴ 兄弟の死闘

「──さあさあ紳士淑女の皆さま! この第13回帝国一武闘会もついに決勝です! 私達の予想を大きく裏切り、優勝候補二人がまさかの準優勝で敗退すると、前代未聞の双子の兄弟での王者争奪戦だあぁぁぁーっ!」


 再びのインターバルの後、ようやく歓声が落ち着きを見せ始めると、レフリーがそのよく通る声を円形闘技場コロッセオに響かせる。


「いずれも長き伝統を誇る古代イスカンドリア拳闘術の遣い手! 兄カリスト・デ・オスクロイとお! 弟ポルフィリオ・デ・オスクロぉーイ!」


 レフリーの呼び出しに、脇で待機していた兄弟二人が熱い歓声に見送られながら、それぞれ反対の側からリングの中央へと進み出る。


「思った通り、けっきょくは俺とおまえの勝負になったな、ポルフィリオ」


「ま、いつもと変わり映えしねえけど、俺達の実力を考えれば当然そうなるだろうさ、兄貴」


 円形闘技場コロッセオを埋め尽くす聴衆の視線を一身に受けつつも、決勝戦とは思えぬ緊張感の欠けらもない暢気な様子で、愉しげな笑みを浮かべながらオスクロイ兄弟は語り合う。


 普段からお互いを相手に稽古をつけている者同士、こんな大舞台でも日常とあまり変わらないのであろう。


「双子の兄弟、同じ流派といえど、各々そのファイティングスタイルは違います! 脚技のカリストが勝つのか? はたまた拳打のポルフィリオが一矢報いるのか? これ以上、皆様を待たせるのも酷というものでしょう……では、いっちゃいましょう! 第13回帝国一武闘会決勝戦! レディぃぃぃ〜GOおおおおっ!」


 そんな二人の心情を他所よそに、勝手に大盛りあがりを見せるレフリーがいよいよ決勝の開始を宣言する。


「さあ、いくぜ兄貴! 聴衆に俺達の真の力を見せてやろうじゃねえか!」


「ああ、ポルフィリオ! 古代イスカンドリア拳闘術のなんたるかを知らしめてやるぜ!」


 レフリーのかけ声に、嬉々とした顔の兄弟はお互いへ向けて勢いよく突進してゆく……そして、帝国一武闘会史上初となる、双子の兄弟による熾烈な決勝戦の幕が切って落とされた──。




「──ハァ…ハァ……参った……降参だポルフィリオ……」


「…ハァ…ハァ……やりぃ……でも……俺ももう限界……」


 荒い息遣いで先に倒れ伏した兄カリストを見下ろしながら、弟ポルフィリオもそう口にするや尻餅を搗く。


 激しい殴打の応酬の末、わずかの差で敗れたのはカリストの方だった。二人の実力はほぼ互角ながら、ポルフィリオの方が打たれ強かったのである。


「しょ、勝者が決まりました! 第13回帝国一武闘会優勝者は、ポルフィリオ・デ・オスクロぉぉぉ〜イっ!」


 その状況から判定を下し、終始興奮気味のレフリーが勝者の名を高らかに叫ぶと、円形闘技場コロッセオを震わす聴衆達の歓声も最高潮に達する……。


 こうして、蓋を開けてみれば今回の帝国一武闘会、誰もが予想だにしなかった無名の格闘家兄弟の独壇場と化して終わったのであった──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る