浦島っちといっしょ!

天伊あめ

浦島っちといっしょ!

 一匹の亀さんがたくさんの悪餓鬼に虐められていました。亀さんは世の中に絶望していました。


 でもそんなときに現れるのが浦島っち。



「やめなさい、きみたっち。亀さんが嫌がっているだろうっち?」



 無駄にキラキラを放つ若い男――亀さんがひそかに恋する男、浦島っちがそう言いました。


 気障なセリフに気分を悪くした悪餓鬼たちは逃げ、亀さんは恋する乙女のひとみで浦島っちを見上げます。



 亀さんは日本語を喋ることができません。先程の悪餓鬼たちに舌を抜かれてしまったからです。


 だから亀さんは、自分のこの淡い想いを目で伝えようと必死でした。


 しばしの両者睨み合いの末、浦島っちは亀さんの甲羅に座りました。

 何か恩返しを期待されてるような気がします。



 亀さんは考えます。この人を失望させたくない。この人の気持ちに応えたい。だったらアタクシがすべきことは……?



『カメカメ葉ー!』



 一枚の葉が、どこからともなく風に吹かれて、亀さんの頭の上に舞い降りました。 

 亀さんは、頭の上の葉が落ちないよう注意しつつ、勢いよく地面に頭突きし始めました。



 浦島っちはとてもびっくりしました。何をし始めたんだこいつ、と思いました。

 浦島っちは、わけのわからない行動をする亀さんと一刻も早くさよならしたいと思いました。


 しかし、それは叶わぬ夢だったのです。



 浦島っちは亀さんの甲羅から降りようとします。しかし、


「甲羅から離れることができないっち?!」



 説明しましょう。先程の餓鬼たちが亀さんの甲羅に瞬間接着剤をべったり塗りつけたのです。


 怒った浦島っちは、あの悪餓鬼たちを皆殺しにすることを誓いました。




 そうしているうちに、砂浜から箱っぽい大きな何かが現れました。

 扉っぽい部分がぱかっと開いたので、亀さんはとてとてとそれに向かって歩き出します。


 悪餓鬼を皆殺しにする覚悟を決めた浦島っちは、キリリと前を見据えます。  



 亀さんと浦島っちが箱の中に入ると、箱がゆっくりと下に向かって動き出しました。


 浦島っちが目をぱちくりさせています。







 亀さんは恩返しとして、浦島っちを龍宮城に連れて行くことにしたのです。しかし、海には危険がいっぱい。

 リスクを嫌う亀さんは、たとえ幻想的だろうが何だろうが、わざわざ危険を冒すようなことはできません。


 ですから、少々優雅さは足りませんが、エレベーターを使うことにしたのでした。





 ポーンポーンポーン……。


 チリンと音が鳴りました。どうやら到着したようです。



 浦島っちon亀さんは、竜宮城の厨房に行って希少な食材を手に入れました。

 金庫の鍵をこじ開けて玉手箱を手に入れました。

 洗濯物カゴから美しい羽衣(未洗濯)を手に入れました。


 最短ルートを使った、無駄のない、美しい動きでした。



 そうして、浦島っちはいかなる寄り道も許されず、竜宮城へ来たときと同じように、地上へ帰ることになりました。   





 無事地上に戻って来ることができた浦島っちは、婆さんと爺さんが待つ家に帰ります。

 浦島っちと接着剤でがっちがちにくっついている亀さんも、彼らのおうちにお邪魔することになりました。



 大量のお土産はとても喜ばれ、亀さんは、婆さんと爺さんに「ずっとここで暮らしていいからね」と言われました。

 これぞ亀さんが望んでいた未来でありました。













 これは余談ですか、二人と一匹に見守られながら玉手箱を開封した浦島っち。髪の毛がちょっと減ってて、一人隠れて泣いたらしいです。



 めでたしめでたし。

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