裏 アクアにとってのハッピーエンド

 アクアはユーリの周囲にいる人間を解放してから、ユーリにわだかまりなく接していた。

 何かを隠しているという罪悪感がなくなるだけで、ユーリのそばがさらに楽しくなる。

 ユーリにくっついている時間も、ユーリの感触だけを素直に楽しめるのだ。

 わずかなユーリの暖かさ、柔らかさと硬さが混ざったような触り心地。

 本当はユーリに悪いことをしているのではないか。かつてしていた心配は今しなくて良い。


 そんな時間が素晴らしく思えるアクアは、最高の気分を味わっていた。

 これまで、ユーリの周りを操っていたことが、どれほどアクアにも良くない影響を与えていたか。

 それがよく分かると同時に、今までの時間をとてももったいないと感じた。

 今こんなにも楽しいのなら、皆を支配しなければ、今よりも幸せになれたのかもしれない。

 それでも、今ユーリの隣にいられるという事実をアクアはしっかりと噛み締めていた。


 ノーラとともにユーリに甘える時間は暖かくて、ノーラを生み出してよかったとアクアは喜んだ。

 単なる思いつきで作ったノーラではあったけれど、自分もユーリも大切にしてくれる存在になっている。

 そして、自分にとってもユーリにとってもノーラは幸せの一部なのだから。

 優しくて、可愛くて、頼りにもなるノーラ。そんな存在を作り出せた自分が誇らしかった。


 ユーリはノーラも自分もとても大切にしてくれる。

 だからこそ、2人がかりでユーリの癒しとして可愛がられる時間は幸せだ。

 ノーラの感情はもう読んでいないけれど、それでもノーラの幸福が伝わってくる。

 そんな感覚と、自分自身がユーリに構ってもらう幸せが相乗効果を生んでいた。

 やっぱり、ノーラは自分にとって大切な家族だ。アクアは改めてそれを確認していた。


 アクアとノーラでユーリに好きと伝えると、ユーリからも好きと帰ってくる。

 何度も経験していたようなことでも、自分の心が変わるだけでこんなに嬉しさが違う。

 アクアはその喜びを胸に、ステラへの感謝を深めていた。

 ステラがいたからこそ、皆と和解できた。今の心になることができた。

 その思いがあるから、ユーリをもっと好きになる。

 ずっと心にあったわだかまりが、ユーリを好きという気持ちすらも阻んでいたと分かるのだ。

 それゆえに、アクアは未来への希望をどんどん高めていた。


 それから、ユーリはアクアが解放した皆と接していく。

 だれもがユーリとの時間を楽しんでいた。それを、ユーリの五感を通して感じ取るアクア。

 いつでもどこでもユーリが何をしているかは知っている。


 カタリナはノーラと一緒にユーリとの未来を考えている。

 アクアがカタリナと約束した、ユーリとカタリナの子供にアクアが干渉すること。

 そんな未来をカタリナは待ちわびているようで、だから、アクアもその日が訪れることが待ち遠しかった。


 それに、カタリナはユーリとうまく行っている様子。

 モンスターは子供を生み出せないから、カタリナとユーリの子供はアクアにとっても大切な存在になるだろう。

 もしユーリとアクアの子供を直接つくる手段があったとしても、大切なのは変わらないはずだけれど。

 だって、カタリナのことはアクアにとって本当に大事な家族だと信じているから。

 家族同士の結びつきを喜ばしいと感じるのは当然だろう。アクアはそれを疑っていなかった。


 ステラとサーシャはユーリを誘惑したいようだ。

 それは構わない。もしユーリと2人が結ばれるのだとしても、アクア自身がユーリの一番であることは揺らがない。

 それに、ステラもサーシャもユーリの幸せを尊重してくれるだろうから。

 そう信じることができるくらいには、2人から伝わった思いは確かなものだった。

 アクアは新しい関係性に期待を持ちながら、ゆっくりと落ち着いて過ごしていた。


 ユーリヤとフィーナはユーリが近くにいるだけで幸せなのだろう。

 そんな気持ちはアクアにとってはよく分かるもので、微笑ましいと感じながら眺める。

 ユーリヤは自分の感情を大切にしているようで、ちゃんと心を生み出した甲斐がある。

 その幸せをもっともっと深めてほしい。自分が生み出したこともあり、アクアはユーリヤに相応の愛着を抱いていた。

 フィーナは本物のユーリと接することを楽しんでいる。

 いつかフィーナの記憶を読んだ時、自分が感じた共感は確かなものだった。

 それを理解できて、アクアはフィーナの幸福を素直に喜んでいた。


 アリシアとレティはユーリとの冒険を楽しんでいる。

 いつかのように、危険すぎる依頼を受けるわけでもなく、実力相応のものだ。

 アリシアの夢はアクアも叶ってほしいと願っていた。ユーリの危険を無視できなかっただけで。

 だから、今アリシアたちが楽しんでいることは喜ばしい。

 ユーリがずっと憧れていた2人に、大切な仲間として扱われる。

 それはユーリにとっても素晴らしい時間になるだろう。

 アクアは自分たちの師匠としてアリシアたちが選ばれたことを、改めて感謝していた。


 ミーナとヴァネアはユーリとの戦いに夢中なようだ。

 かつては焦りから暴走してしまったミーナだけれど、今は落ち着いている。

 ミーナとユーリが競い合う姿はアクアも大好きだった。

 だから、今は対等でなかったとしても。いずれはまた互角の戦いを見せてほしい。

 そこにヴァネアも混ざるのならば、きっと以前よりも楽しいだろう。

 何度も偶然が重なったミーナたちとの出会いは最高だ。アクアはそう信じていた。


 メルセデスとメーテルは冒険者として大きく成長している。

 アクアにとっても大切な弟子である2人だけれど、やはり感慨深い。

 そんな2人とこれからもオーバースカイの仲間として一緒にいられるのは素晴らしいことだ。

 アクアだって、共に隣で冒険する日を夢見ていたのだから。

 そんな日々が現実になりそうなこと。アクアは楽しくその日を待つつもりだった。


 オリヴィエとリディとイーリスは、ユーリたちと同じ家に住みたいらしい。

 アクアにとっては歓迎すべきことだ。それならば、以前のようにユーリと分断されずに済む。

 オリヴィエやリディがユーリを心から信じていること。その想いは大好きで。

 だからこそ、今は反目しあわないで済むことがアクアには喜ばしい。

 オリヴィエの孤独は、きっとアクアにも理解できる感覚だから。

 そんな感情が癒されることを祈りながら、アクアはオリヴィエたちのことを歓迎しようとしていた。


 そんな風にユーリと皆の日々を楽しんでいる中、運命の日が訪れる。

 はじまりは、ユーリがステラに相談しようとしたことだった。

 ユーリが皆の姿に違和感を覚えていることに、アクアは気がつかなかった。

 だから、ユーリが相談している内容は、アクアにとっては苦しみとなる。

 ユーリを自分は理解できていないのではないか。そんな不安とともに。


 そして、ステラがユーリに真実を伝えようとしていることに気づく。

 アクアはやめてほしいと叫びだしたいくらいの思いでいた。

 それでも何もしなかったのは、ステラのことを信じていたから。

 ステラは本気でユーリとアクアの関係を好ましいと感じている。それをアクアは知っていた。

 だから、きっとユーリとアクアの関係を引き裂かないでいてくれるはず。

 そう思いながらも、心がちぎれそうだとアクアは感じていた。


 アクアの真実がユーリに伝わって、ユーリはショックを受けているようで。

 それがアクアに不安と罪悪感を生んでいた。

 ユーリを傷つけるものを憎悪していたはずなのに、自分がそうなっている。

 その事実がとてもつらくて、悲しくて。アクアは1人で震え続けていた。


 ユーリは間違いなく混乱している。自分が何を言っているのか理解しているかすら怪しい。

 それでも、ユーリがアクアのいない人生に意味なんて無いと言っていたこと。

 その事実が、アクアに大きな安心感を与えていた。

 ユーリを傷つけてしまったかもしれないけれど、それでもユーリに嫌われることだけはない。

 そう信じることができたから。たとえ、ユーリがアクアのことを悪と認識しているとしても。


 それから、ユーリはカタリナに相談する。

 やはり、カタリナはユーリにとってとても大きな存在なんだ。

 そう感じたアクアには、カタリナを操っていたことが罪悪感としてのしかかってきた。

 ユーリがカタリナをどれほど大切に想っていたのかなど、初めからわかっていたのに。

 そう知りながらユーリの大切を奪ったことがどれほど罪深かったのか。アクアは改めて自らの罪を実感した。


 それでも、カタリナはアクアのことを大事にしてくれている。

 その事実が、アクアにとって大きな救いとなっていた。

 カタリナを大切に感じていた自分は間違っていなかった。カタリナを信じきれなかったことが間違いだった。

 そんな実感とともに、改めて自分にとってカタリナがどれほど大事かを確認していた。


 そして、シィの言葉がユーリになにかの覚悟を決めさせたようだ。

 初めて敵対した時、アクアはシィを殺そうとしていて、殺せなくて。

 シィがその時死ななかったことを、アクアはとても喜んでいた。

 やはりシィはユーリの家族として大切な存在だと、アクアははっきりと信じることができた。


 それから、アクアとユーリが2人で話す日がやってくる。

 アクアはユーリから己の罪を問われているときでも、落ち着いた心持ちでいた。

 ユーリは何があっても自分から離れることはない。そう確信していたから。

 ゆっくりとアクアは自分の行動について話していく。

 ユーリはその度に自分を責めているようで、それがアクアには最もつらいことだった。


 一つ一つアクアは己の罪を話していき、そしてユーリはそれを受け入れる。

 ユーリはとても苦しんでいたようだった。それでも、アクアを大好きでいるという。

 そしてアクアはついユーリを抱きしめてしまう。ほとんど何も考えず衝動的に。

 ユーリはすぐに幸せそうになって、アクアを抱き返す。

 だから、アクアはもっと強くユーリを抱きしめていた。自らの幸福を伝えるように。


 ユーリがアクアのすべてを受け入れて、アクアは大きく満足していた。

 これからは、ユーリとアクアと、たくさんの仲間達。皆で永遠に過ごす。

 アクアの力ならば、簡単に実現できることだから。

 ユーリとの2人の世界を思い描いていたこともあったけど、それよりもずっとずっと幸せだ。


 そんな事を考えながら、アクアはほぼすべての人とモンスターを乗っ取っていた。

 事実上世界のすべてを支配したアクアは、それでも一部の存在だけは見逃す。

 そして、今アクアに操られていない者は、いずれユーリと出会う運命にある。

 幸せな未来をはっかりと想像しながら、アクアは笑った。

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