裏 カタリナの望む未来
カタリナはアクアに解放されてから、人生の絶頂のような心地を得ていた。
ずっと思い描いていたユーリとの時間を過ごせること。
そして、アクアと3人で良い生活を送っていけそうだという実感があること。
だから、カタリナはこれからのために、ユーリとの距離を近づけると決意した。
ユーリとアクアと一緒ならば、どんな試練も乗り越えられる。そう信じて。
そんなカタリナにとって、ユーリが自らの変化に気がついたことは好都合であった。
それを受けて、すぐさまユーリに対して積極的な行動に移るほどに。
ユーリは自分が操られていたことになどまるで気がついていない。
それこそが、カタリナがユーリと一緒にいなければならないと感じる最大の理由だった。
なにせ、ユーリは簡単に他者に騙されるであろうから。そんなユーリを支えたいと想って。
これからユーリに想いを伝えて、まずは新しい関係を始める。
ユーリが自分を見る目が変わるように。ただの幼馴染から、恋人になれる相手に変化してほしくて。カタリナは前進する覚悟を決める。
そのために、カタリナはユーリにキスをすることを先に決めていた。
ユーリの話を聞きながら、会話の流れを誘導していく。
情けなくて頼りなくて、それでも、いざという時は誰よりも信じられるユーリ。
その想いを回りくどい言葉で伝えながら時を見計らう。
そして、タイミングを待って実際にキスをする。
ユーリの唇はカタリナにとって心地よくて、もっと激しいことすらも求めていた。
相手はそうでもない様子だったからこそ抑えていたのだが。
とはいえ、ユーリは照れくささと喜びのようなものを同時に感じている様子。
そんな反応を見て手応えを得たカタリナは、これから関係を進められると確信した。
アクアがユーリの一番かもしれないけれど、間違いなくユーリの心の奥深くに入り込める。それを強く信じられた。
ユーリは自分が大好きだということは間違いない。それは今の反応からも明らか。
そして、アクアも自分を大切に感じてくれている。さらに、自分も両者をかけがえのない存在だと疑わない。
それらがはっきりした。つまり、アクアと約束した3人の子供を作る未来。それに向けて一歩前進できた。
その実感がカタリナに大きな達成感を与えて、つい笑顔を浮かべてしまう。
それが、ユーリとカタリナの関係を変えていく始まりだと、カタリナは強く信じていた。
それから、アクアとユーリとの3人で過ごす日が来る。
アクアからカタリナに持ちかけられた、ユーリとアクアとカタリナの3人で同じ部屋で過ごすという提案。それを実行する日がやってきていた。
アクアがカタリナの知らないところでユーリに話していたことがきっかけである。
とはいえ、事態が進行していくことは望むところ。自分を蚊帳の外に置きたいなんて、この2人ならばありえない。
カタリナは喜びを強く感じていたが、意地のようなものがそれを態度に出させないでいた。
カタリナにとって幸いな事に、ユーリはカタリナと共にいること自体は受け入れている様子。
しかし、大きく照れているようで、反対とも取れる言葉を投げかける。
そんなユーリには不満も納得も感じるが、それでもユーリを理解できているという自負がある。
カタリナにとって、ユーリの態度は押せば押し切れるように見えていた。
カタリナには急ぎすぎて失敗する懸念もあったが、それでも、ユーリたちと共に生活したいという思いが強い。
それ故に、ユーリの欲望を何でも受け入れるという態度を示してみせた。
実際にユーリが欲求に根ざした行動をおこしたとして、望みどおりでしかない。
そう考えていたカタリナは、ユーリが自分に向ける情欲の目が心地よいとすら感じた。
ユーリはアクアとカタリナが敵対すれば、それは戸惑うだろう。
それでも、最終的にはカタリナよりもアクアを選ぶ。カタリナにはその未来がはっきりと見えている。
だとしても、ユーリやアクアとともに過ごす時間は、カタリナにとって大切なもの。
これからはその大切な時間が増えるのだから、ユーリが自分と今は結ばれていないことは、何の問題もない。
アクアとユーリでは子供を作ることができない。そうである以上、自分の存在は必ず必要になる。
カタリナは何があってもユーリとアクアのそばにいる理由を手に入れていた。
だから、落ち着いた心持ちでユーリとの距離を徐々に詰めていくと決意したのだ。
そして、ユーリからはっきりと大好きだと言われた瞬間。
カタリナは表情を変えないようにすることで精一杯だった。
分かりきったことだとしても、ユーリからの好意は心地いい。
その時だけは、未来のことなどまるで考えずにユーリと向き合えたカタリナだった。
その後、次はユーリとノーラとカタリナで過ごす日。
以前にユーリと日中を過ごしてから期間が離れていたが、同じ部屋で暮らしているという事実がカタリナに余裕をもたらしていた。
ユーリとノーラがキスをしたという事実も、軽く流せるくらいに。
カタリナにとって、自分をユーリが意識しているということは動くことのない真実だったから。
それに、ノーラはカタリナにとって大切な家族になろうとしていた。
カタリナの契約モンスターであるし、ノーラはカタリナが大好きな様子。
それだけでなく、ノーラの外見がカタリナの好みということもある。
アクアに囚われていたつらい時間。その時の癒しになってくれた存在でもあったから。
だから、カタリナはノーラを受け入れることができていた。
カタリナは強がりでユーリが女を侍らせても良いと言ったわけではない。
アクアがユーリの一番であるのなら、カタリナ自身はユーリの二番。
それが揺らぐことはないと強く信じていたからこそ、カタリナの心は落ち着いていた。
ミストの街で自分が危機に陥った時、ユーリがどれだけ必死に助けようとしたか。
冒険者としての日々で、ユーリがどれだけカタリナを頼っていたか。
それらを考えれば、自然とカタリナは自分が大切にされていると信じることができた。
いつか自分とユーリは結ばれる運命にある。
そう考えているカタリナは、ユーリが自分の感情を整理するまで待つ事を決めた。
ユーリは恋愛感情がどんなものかを分かっていない。
それでも、その感情を知った時に思い浮かべる顔はカタリナに決まっている。
アクアが大切なユーリだけれど、それは家族として、あるいは運命共同体としての想いだから。
さらに理想の未来に近づくために、カタリナは自分の想いをはっきりとユーリに告げる。
自分はユーリと恋人になりたいのだと。その先の未来を共に見たいのだという気持ちを込めて。
好きだと言うだけで胸が爆発しそうだと感じて、すべてを言葉にできなかったけれど。
それでも、ユーリは自分の想いを真摯に受け止めてくれている。
カタリナはそう信じて、明るい未来を夢見ていた。
いつかは自分の態度が原因でユーリに嫌われることを恐れたけれど。
今のカタリナは、ユーリがそんな自分も受け止めてくれると疑わなかった。
たとえ他の女がユーリを誘惑したとしても、ユーリが一番に思い浮かべるのは自分だ。
カタリナはそれを確信していた。
だから、ノーラが改めてユーリとキスをしようと、他の女と何をするのだとしても。
心の奥深くで余裕を持って生きることができた。
それからしばらくの時が過ぎ、ユーリにアクアの真実が伝わる。
アクアが今までユーリの周囲にいる人物を操っていたことが。
ユーリがそれについて相談する相手にカタリナを選んだこと、カタリナをユーリが必要としていること。
2つの事実がカタリナに大きな満足感をもたらしていた。
アクアが自分の体を乗っ取っていたことはもう許している。
これからの幸せな日々を思えば、アクアに支配されていた期間の苦痛は十分にやわらぐから。
ユーリは苦しんでいるようだが、すぐに解決する問題だとカタリナは考えた。
どうせ、ユーリにアクアと敵対する判断などできやしないのだから。
だから、アクアが何をしていようとユーリは受け入れるしか無いのだ。
ユーリに問われるアクアの心情は、カタリナには手に取る様にわかった。
アクアの言葉、態度、それらからおのずと答えにはたどり着く。
何故カタリナをアクアが支配したのか。それはユーリをカタリナに奪われたくなかったから。
いつか、カタリナ自身もユーリの一番になれないことに悩んでいた。
だからこそ、その苦しみにカタリナはとても強く共感するのだ。
それからも、ユーリはカタリナに悩みを相談していく。
カタリナ以外にユーリの周囲はどうなっているのか。
その問いに対する答えは、カタリナにとっては自明に等しかった。
たとえアクアに操られていたことがあったとしても、ユーリと離れたくない。
自分がユーリに向けている想いと同質のものを、周囲の人間も持ち合わせているだけだろう。
それをユーリに直接告げるのは、カタリナにとって腹立たしくもあったが。
それでも、ユーリはカタリナを強く求めているという実感。それがカタリナに強く襲いかかった。
思わず震えてしまいそうになるほどで、意識が遠のく感覚すらあった。
カタリナについた心の傷が、ユーリにより深く刻まれる。そんな感触までも。
だから、カタリナはこれからユーリと過ごす日々が、今までよりも幸せになると確信できた。
ユーリがカタリナのもとを去ったあと、カタリナはこれからの未来について想像していた。
たとえアクアが世界を滅ぼすのだとしても、自分とユーリとアクアだけは絶対に幸せでいられる。
そしておそらく、オーバースカイを始めとした人間たちも。
だからこそ、カタリナはずっと幸福でいられるのだと強く信じていた。
「アクアのことだから、ユーリにとって都合の悪い人間は絶対に支配しているでしょうね。何なら、ユーリが知らない人間なら全部なのかも。でも、どうだっていいわ、そんなこと。ユーリ、アクア。あたしたちの子供、いっぱい作りましょうね」
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