第354話 ご主人様ショッピング その四

(プロモーションを含みます)


「あ、はい、始まりました。あ、はい、始まりました。始まりましてございました、どうも。あ、ご主人様ショッピング、司会の黒男くろおです」


 画面に白ティー黒髪おさげののっぽの女性が現れた。丸メガネの上からグラサンをかけている。


「みなさん、こんばんは! 助手のメル蔵めるぞーです!」


 画面に赤い和風メイド服の巨乳メイドロボが現れた。頭には紙袋をかぶっている。


『始まったw』

『ひさしぶりwww』

『メル蔵ー!』

『なにこの配信www』


「あ、まだまだあつあつさん、よろしくお願いします。あ、飛んで平八郎さん、今日もね、楽しんでいってくださいね。あ、マリ助やないかいさん、甲冑で町中を歩かないでね、くださいね」

「ご主人様! ゲストの紹介をお願いします!」

「あ、はいはい、ゲストね。あ、じゃあ今日のゲストはこいつら!」

「でゅるるるるるるるる、ででん!」

フォト三郎ふぉとざぶろーちゃんと、FORT蘭丸子ふぉーとらんまるこちゃーん!」

「ぱふぱふぱふ!」


 画面に紙袋をかぶった子供型ロボットと、紙袋をかぶった男性型ロボットが登場した。


「……す」

「なんて?」

「……フォト三郎です。フォト三郎ちゃんって呼んでください」


『声ちっさww』

『ひさしぶりじゃんww』

『めちゃかわでワロたwww』

『¥4000。フォト三郎に乾杯』


「ミナサン、コンバンハ! FORT蘭丸子デス!」


『だれだお前w』

『紙袋の中がめっちゃ発光しとるwww』

『女の子要素ゼロだろwww』


「さあ、では本日はね、あの。あ、総裁ということは総理ということなんですさん、ロボチャットね、ありがとうございますよ」

「ご主人様! 商品の紹介をお願いします! でゅるるるるるるる、ででん!」

「新作ゲーム『めいどろぼっち』〜!」

「ぱふぱふぱふ!」


 一行は一斉に手を叩いた。


『めいどろぼっち?』

『なにそれwww』

『ロボ通に載ってたあれかw』


「あ、はい、あの、めいどろぼっちはですね、現在ゲームスタジオ・クロノスという会社と八又はちまた産業がね、あ、共同開発をしている新作ゲームでございますよ」

「今日はみなさんに、開発中のものをお見せしようと思います!」


 FORT蘭丸子はカメラの前に小さな箱を置いた。


「あ、はい、この中にですね。あの、この箱の中にですね、めいどろぼっちの試作機がね、入っておりますよ」

「今からお見せします! でゅるるるるる、ででん!」

「はい!」


 箱を開けると中から出てきたのは手のひらサイズのメイドロボであった。


「みなさん! どうですか!? これがめいどろぼっちですよ!」


 黒男は手のひらの上で横たわる小さなメイドロボをカメラに近づけて見せた。


『ちっちぇえ!』

『かわいいwww』

『寝とるw』

『これがゲームなの?』


「あ、はい、この子はね、まだ起動しておりませんから。今から起動させますよ。FORT蘭丸子!」

「ハイィ!?」

「起動準備!」

「お任せくだサイ!」


 FORT蘭丸子がデバイスを操作すると、めいどろぼっちの目が光った。


「タダイマ、タイトバースにアクセスをして、グレムリンのAIをインストール中デス!」


『タイトバース!?』

『どういうこと?』

『なんでグレムリンなんだよw』


 しばらくすると、めいどろぼっちの目が消灯した。


「あ、はい。あ、これでですね、あの、AIのインストールが完了しました。あの、グレムリンの機嫌が悪いとですね、きてくれないこともありますのでね、ご注意ください」


『なにそれwww』

『運任せなのw』


「あ、ではですね、早速起動をしたいと思います。あ、起動の仕方はですね、付属のスティックをですね、めいどろぼっちの耳の穴に差し込みまして、あの、TM NETWORKのGet Wildを歌うと起動しますよ」


 黒男は突如としてGet Wildを熱唱し始めた。それに続いてメル蔵、フォト三郎、FORT蘭丸子も合唱した。


「さあ、みんなも歌って!」


『ポポポポ(著作権保護のため、AIが自動でフィルタリングをしています)』

『ポポポ、ポポポポ(著作権保護のため、AIが自動でフィルタリングをしています)』

『ポポポ、ポポ(著作権保護のため、AIが自動でフィルタリングをしています)』


 Get Wildを歌い切ると、めいどろぼっちがむくりと起き上がった。自分の体を確かめるように飛んだり跳ねたりしている。


「起きた! みなさん! タイトバースからAIがやってきてくれましたよ!」

「やりました! 動いています!」

「……これ、ボクがデザインしたの。すごいでしょ」


『すげぇ!』

『かわいい!』

『欲しいwww』


 めいどろぼっちは突如としてカメラに踊りかかると、そのままカメラを引き倒してしまった。


「うわっ! なにしてるの!」

「暴走しています!」

「……うふふ、かわいい」

「イヤァー! ネジをとらナイで!」


 めいどろぼっちはFORT蘭丸子の頭に飛び乗ると、ネジを一本抜き取ってしまった。そのまま床を走り、物陰に消えた。


『こぇぇぇぇ!』

『やばいメイドさんやんけw』

『どこがかわいいんだよwww』


「あ、えーと、こんなかんじでね、あの、AIはグレムリンですのでね。あ、グレムリンと言えば、イタズラ好きの妖精ですから。あ、暴走することもあります」

「ご主人様! そちらにいきました!」


 めいどろぼっちは黒男のおさげにしがみつくと、振り子のようにして左右に揺れ始めた。


「イデデデデデ! オサゲカリバーがもげる!」

「ご主人様ー!」

「……うふふ、もいじゃえ」


 全員で必死にめいどろぼっちを捕まえると、箱の中に押し込めた。


「ハァハァ、どうですかみなさん。欲しくなったでしょう?」


『ならねーよw』

『結局どういうゲームなのw』

『害獣だろww』


「ハァハァ、あ、なすびちゃんのセーラー服さん、今からね、めいどろぼっちのね、ゲームシステムについて紹介していきますよ」


 黒男は息を整え直すと、カメラに向き直った。


「あ、えーとですね、あ、めいどろぼっちの基本的なゲーム性はですね、『めいどろぼっちを立派なメイドさんに育てよう』というものですね。あの、今見たとおり、最初は暴れ回ってまったくメイドさんらしくないですから。一緒に暮らして、ご飯をあげて、お風呂に入って、一緒に寝たり、お出かけすることで、ちょっとずつね、あの、仲良くなっていきますよ」

「うんこをしたら片付けてあげてください!」


『なるほど、育成ゲームか』

『これほんとに育つか?』

『うんこすんのかよwww』


「あ、毎日ね、システム側からクエストが発行されるのでね、それをこなすと成長しますから。プレイヤーとめいどろぼっちが一緒に楽しめるクエストですよ」

「例を挙げます! 『めいどろぼっちにご飯を食べさせよう』、『めいどろぼっちと公園にいこう』、『めいどろぼっちに算数を教えよう』、『めいどろぼっちとお宝を探そう』などがあります!」

「あ、各種情報はですね、お手持ちのデバイスにアプリをインストールしてもらうと見られますからね。あ、現実とゲームの世界をまたいで楽しめますよ」

「アプリはボクが作りまシタ!」


『FORT蘭丸子www』

『なんか楽しそう!』

『一緒に遊べるのはいいなw』


「あ、クエストをこなすとですね、めいどろぼっちポイントが貯まりますので。あ、カスタマイズパーツをポイントでね、購入できますよ。そうしたら、八又産業からパーツが自宅に届きますのでね、あ、めいどろぼっちに装着して遊んでみてください。公式サイトでは現金で着せ替え衣装も販売する予定ですからね。みなさん、待っていてくださいね」

「ご主人様! そろそろ早期予約キャンペーンにいきましょう!」

「あ、そうそう。そんじゃらね、只今からね、このめいどろぼっちの早期予約を承りたいと思いますよ」

「予約していただいた方には特典としまして、FORT蘭丸子の頭の発光素子と、めいどろぼっちポイントを五千ポイントおつけします!」


『もう予約できるのかよ!』

『発光素子いらねえwww』

『やべぇ! 予約しなきゃ!』


「あ、今回は特別にですね、あの、めいどろぼっちの他にも、ろぼねこっちとですね、まるめがねっちの予約も承りますよ」

「……えへへ、どっちもボクがデザインしたの」

「めいどろぼっち、ろぼねこっち、まるめがねっち、どれもおひとり様一体限定、八万円でのご提供となります!」


『八万www』

『クソたけえwww』

『ゲームなのに高すぎだろwww』


「あ、これはですね、ゲームハードとソフトが一緒になったものとお考えください。デバイスにインストールするアプリは無料となっていますよ」

「さあ、みなさん! 今だけの特別価格ですよ!」


『いや、でも高いってwww』

『¥140000。めいどろぼっちと、ろぼねこっちをください』

『売れたw』

『猛者現るww』


「あ、ニコラ・テス乱太郎さん、ご購入ありがとうございます。でもおひとり様一体だけって言ってるでしょ」

「しかも博士のくせして計算もできていません!」


『¥80000。めいどろぼっち買った!』

『¥80000。ろぼねこっちくれ!』

『¥80000。こいつぁ、買わずにいられねえ!』


 その後も何人かの購入者もさが現れ、無事商品は売り切れた。


「……」

「ご主人様? どうかなされましたか?」

「……クロ社長、プルプル震えてるけど」

「シャチョー! 売れてよかったデスね!」

「売れてない……」

「え? いや売れましたよ」

「まるめがねっちだけ、一体も売れてない……」

「あ……」


『やべ……』

『あーあ』

『どうすんのこれ……』


「どうしてお前ら、まるめがねっちを買わないの……」


『どうしてって言われても……』

『欲しくないし……』

『メイド、ネコときて、丸メガネはおかしいでしょ』


「貴様らー!」

「シャチョー! 落ち着イテ!」


 カメラに向かって踊りかかろうとする黒男と、それを止めようとするFORT蘭丸子。二人は揉み合いになった。


『黒男、キレた!』

『落ち着けwww』

『やべえw』


 黒男はFORT蘭丸子を無造作に床に投げ捨てると、そのツルツル頭の上に巨大なケツを乗せた。


「イダダダダダダ! シャチョー! ヤメテ! 頭が潰レル! シャチョー!」


『ケツでけぇw』

『FORT蘭丸子、哀れwww』

『¥3000。けつでかっちwww』


 画面の真ん中に紙袋をかぶったメイドロボが現れた。


「ええ、みなさん、めいどろぼっちのお買い上げ、誠にありがとうございます。めいどろぼっちは現在鋭意製作中です。発売を是非楽しみにお待ちいただければと思います。あ、40—40さん、お楽しみいただけたでしょうか? あ、チーパオさん、ロボチャットありがとうございます。それでは今回はこれで失礼します」


(軽快なBGM)

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