第318話 ロボなる宇宙 その十九
夢の中の黒乃はダンジョンを彷徨っていた。
滅びた都市の建物と建物をつなぐ細い橋の上。落ちたら命はないであろう高さ。その深淵から声が聞こえた。
「メル子……メル子なのかい?」
橋を進むにつれ、その声は大きくなった。
「これは……? 赤ちゃん? どうしてこんなところに赤ちゃんが?」
地の底から湧き上がってくるかのような赤子の鳴き声。その異様さに黒乃は震えた。
黒乃は走った。橋の中ほどに差し掛かった時、なにかが羽ばたく音が聞こえた。黒い影が橋の下を横切ったのが見えた。黒乃は跪いてそれを覗き込んだ。
「なんだ今のは? ハァハァ」
ところが羽ばたきはいつの間にか上から聞こえてきた。音だけではない、その猛烈な風圧で黒乃は橋の上に転がった。
次いで激しい振動によって体が跳ね上げられた。
「ぎゃふん!」
黒乃は顔を上げた。橋の上にいたのは巨大な赤い鱗の竜であった。竜が口を開くと、喉の奥からシューという空気が吹き出す音が聞こえた。
竜は前歯を鳴らした。小さな火花が散ったと思った瞬間、黒乃は業火に包まれていた。
「ぎゅぼわわわわわ! あっちぃー!」
黒乃は地面を転げ回った。その様子に驚き、一行は黒乃に視線を集中させた。
「先輩、どうしました……」
「アネキー! なにが起きたんですブー!?」
豚の獣人ブータンが黒乃の体を揺すって落ち着かせた。桃ノ木はその後ろで歯軋りをした。
「うわわわ! 豚の丸焼き! あ、なんだブータンか」
「アネキ! 悪い夢でも見たんですかいブー」
黒乃は汗を拭って周囲を見渡した。目の前には焚き火。それを囲うように仲間達が輪になっている。
心配そうに彼女を見守っているのは、桃ノ木、FORT蘭丸、フォトン、マリー達パーティメンバー。そしてその奥にいるのは、物資補給のためのシャーデン騎士団の団員達だ。
「いや、なんでもないよ」
ここは
ゴブリンのチンピラ、略してゴブチン達の巣窟だ。奴らは魔法生物モヤイを手下にし、冒険者達の行方を阻んだ。
「ゴブチンはそんなに強くないんだけど、数が多くてなあ」
第三層を探索中、何度もゴブチンに襲われた。体が小さいので物陰に潜むのが得意だ。奇襲をかけられ、ジワジワと体力を削られていった。
モヤイは石のゴーレムで、その硬さはマリーの
「黒乃 おつかれ」
「お、マッチョメイドじゃん!」
黒乃達のキャンプに現れたのはマッチョチームだ。
マッチョマスター、マッチョメイド、その他アキハバランドの筋肉自慢の混成チームだ。
「おでたち さき いく」
「気をつけてな!」
ダンジョン攻略は少人数のチームに分かれて行う。
先行してダンジョンに潜ったチームがルートを開拓する。安全な場所を見つけたら、そこでキャンプを張って休憩する。後続のチームはそのキャンプ地を足がかりに、次なるキャンプ地を探す。
最後にダンジョンに侵入するのは補給部隊だ。各キャンプ地を辿るようにして物資を輸送する。こうして先行探索部隊に物資を届けるのだ。
現在のタイトバースはファストトラベルなどのプレイヤー特権が使えない。ゲームだった頃は、各層の入り口までワープして来られたのだ。
もし罠にかかったり、モンスターにやられたりして
しかも大聖堂での復活は順番待ちが発生するため、即座に復活というわけにもいかない。戦争中などは復活に一週間を要したほどだ。
故に、
補給部隊の騎士数人が進み出てきた。そしてマリーの前に跪いた。
「どうなされましたの?」
「勇者マリー様、申し訳ございません」
騎士の一人が震える声で話し始めた。
「剣聖アンテロッテ様、並びに竜騎士メル子様にお力添えが叶わず……このような事態になってしまいました」
メル子とアンテロッテは、アサクサンドリアの騎士団の後ろ盾を得てダンジョンに挑んでいたのだ。それにも関わらず、二人はそのまま
騎士達は自分達を恥じているのだ。
マリーは愛銃
「アンテロッテは自分の意思で
その言葉に騎士達は顔を赤くして震えた。汗が地面に滴った。
「我々は……ッ! どうすれば……ッ!」
「今のあなた方に与えられた役割を、しっかりとこなすことですわ。その一つ一つがダンジョン攻略に繋がりますのよ。オーホホホホ!」
ダンジョンに
「まったく、アン子がいなくて寂しいくせに、よく言うねえ〜」
黒乃は感心半分、呆れ半分でその様子を見ていた。
「マリーチャン! かっこいいデス!」
「マリーのアネキ! 小さいのにすごいですブー!」
「だれがちびっ子ですの!!」
マリーの迫力にブータンは後ろにひっくり返って悶えた。
黒乃チームは第三層『シブチカ』を探索していた。
ゴブチン達の奇襲に辟易しながらも、順調にルートを切り開いていく。桃ノ木のスキル
戦闘面ではマリーの銃が圧倒的な火力を持つ。
「この、ゴブチンがぁッ!」
黒乃は飛びかかってきたゴブチンの
それを見たゴブチンプリースト、略してゴブチンプリと、ゴブチンシャーマン、略してゴブチンマン、ゴブチンパイレーツ、略してゴブチンパイ、ゴブチンマジシャン、略してゴブチンシャンは一目散に逃げ出していった。
「先輩、今のでゴブチン軍は概ね壊滅できたようです」
「シャチョー! ヤリまシタね!」
FORT蘭丸は
「こら、FORT蘭丸。お前も戦わんかい」
「イヤァー! バトルは苦手デス!」
一行はさらに迷宮の深部を目指した。
——
「ふぅふぅ、ようやっと次のキャンプ地か」
「お疲れ様です、先輩」
激戦を乗り越え、ようやく次の階層にたどり着いた一行。そこには馴染みの顔が待ち構えていた。
「やあ、黒乃山」
「お疲れでしょう、ここでお休みください」
「マヒナ! ノエ子!」
ダンジョン内での仲間との再会は何度でも嬉しいものだ。地中奥深くへ潜れば潜るほど、孤独感が増してくる。世界から隔絶されて、自分達しか生き残りがいないのではないかという錯覚が起きるのだ。
黒乃は二人と抱擁を交わした。その際、しっかりとノエノエのお乳を揉んだ。
「ここはマヒナ達に先を越されちゃったか〜」
「黒乃山達はゴブチンキンと戦っていたんだろ? おかげで後続の補給部隊の安全度が高まったさ。お手柄だよ」
「えへえへ、ありがとう。あれ?」
黒乃はふと、キャンプ地の奥を見た。ここにはもう一組別チームがいるようだ。
「お、チャーリーじゃん!」
壁際で丸まっているグレーの塊はチャ王ことチャーリーだ。彼を抱いているのは白猫の獣人モカとムギ。ウエノピア最強の獣人にして、国のNo.2だ。
二人はソラリスに
その柔らかな短い毛並みの胸に挟まれてご満悦のチャーリー。
「ちぇー、羨ましいやつめ」
黒乃はチャーリーを持ち上げた。ジタバタと手足を動かして抜け出そうとするチャーリー。
「ニャー!」
「チャ王を返すニャー!」
モカとムギに蹴り飛ばされて吹っ飛ぶ黒乃。
「ぎょぶばばばばば!」
「アネキー!」
その時、キャンプ地に黒い巨大な塊が転がりこんできた。
「ウホ!」
「ん? ゴリラロボ!?」
ゴリラロボに続いて入ってきたアムールトラロボ、アナコンダロボ、シロサイロボがほうほうのていで地面に転がった。
「うわ! お前らどうした!?」
浅草動物園のロボットからなるゴリラロボチームである。野生の動物ロボの勘で、他チームに先んじて四層までたどり着いていたようだ。
しかし全員傷だらけで、
黒乃は床にうずくまったゴリラロボの乱れた黒い毛皮を撫でて整えた。
「ゴリラロボ、いったいどうしたんだい? 四層でなにがあったんだい?」
「ウホ……」
「ふんふん、なになに? ここまでは野生のパワーで順調に来られたけど、四層は野生のパワーが通用しなかった? お化けだらけで
その言葉に一行は顔を見合わせた。
「イヤァー! シャチョー! お化けとドウやって戦うんデス!?」
FORT蘭丸は頭の発光阻止を明滅させて怯えた。
「……お化け……怖い」
フォトンは青いロングヘアを真っ赤にさせて桃ノ木にしがみついた。
「第四層……一筋縄ではいかなそうだ」
黒乃の丸メガネに一筋の汗が滴った。
ステータス一覧。
レベル 35
ジョブ
スキル
装備
使命 世界一美味い焼肉を作る
レベル 15
ジョブ
スキル
装備
使命 のんびり暮らす
レベル 65
ジョブ
スキル
装備
使命 サンジャリア大聖堂に壁画を描く
レベル 40
ジョブ
スキル
装備
使命 伝説の丸メガネを手に入れる
レベル 70
ジョブ
スキル
装備
使命 世界を救う
レベル 20
ジョブ
スキル
装備
使命 美味しいお肉を提供する
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