第316話 ロボなる宇宙 その十七
サンジャリア大聖堂を巡る戦いは終焉を迎えようとしていた。
大聖堂に群がるソラリスの神兵軍。それを迎え撃つアサクサンドリア、ウエノピア、アキハバランド連合軍。入り乱れての戦いは凄惨を極めた。
聖都の南部分は壊滅状態。建物は砕かれ、火の手が上がっている。黒い瘴気が地面に溜まり、兵士達は次々とその毒気に犯されていった。
そして戦いの核を握るのは、丘のふもとの魔法陣だ。二体の巨人が出現し、最も激しい戦いが行われた場所だ。
それもそのはず、その魔法陣にいたのは暗黒神ソラリスそのものだったのだ。
「勝った……」
黒い巫女装束を纏ったメイドロボに擬態したソラリスは、地面に横たわる戦士達を
皆、黒い粘液に体を覆われ、立つこともままならない。
「人間どもよ……我を捨てた恨み……今こそ晴らさせてもらうぞ……このタイトバースを我で埋め尽くしてくれる……そして我は……我は生まれ変わるのだ!」
ソラリスはふと目を止めた。かすかに動く影が二つ。
「おで まけない きんにく かならず かつ」
「われらの きんにく せかいを へいわに する」
マッチョメイドとマッチョマスターがゆっくりと立ち上がった。
「アタシもまだやれる。お前を
「マヒナ様……お供します」
褐色肌のマヒナとノエノエも、粘液を振り払って立ち上がった。
「無駄なことだ……」
四人は無謀な戦いだとは知りつつも、再びソラリスに挑みかかった。彼女らには諦めるという概念はないのだ。
フォトンは仰向けに倒れていた。黒い粘液が体にまとわりつき、動くことはできない。
彼女は分厚い雲に覆われた空を見上げた。かけらほども見えない太陽に焦がれた。太陽は色彩の源だ。太陽こそアートだ。
鮮やかな青いロングヘアが、今や黒く変色していた。
「……お日様、どうして昇ってこないの」
フォトンはふとソラリスを見た。続いて大聖堂を見た。
「……最後にやってやる」
フォトンは
激しい攻防を繰り広げるソラリスと四人の戦士達。勝敗が決まった戦いなど遊びにもならない。ソラリスは退屈を覚えていた。
「いい加減、トドメといくか。む?」
巫女サージャを模したソラリスの左頬に熱を感じた。
「これは……バカな!? 太陽だと!?」
ソラリスは天を見上げた。相変わらずのどす黒い雲。そして浮かぶ『特異点』。なにも変わらないはずだ。
違う、上ではない。横だ。
「昼間だというのに朝日だと!?」
ソラリスは丘の上の大聖堂に目を向けた。そこには今まさに昇らんとする太陽の姿があった。
「サンジャリア大聖堂の壁画か!」
それはフォトンが描いた壁画の太陽であった。フォトンはこの三年間ずっと壁画を描いてきたのだ。
「ふん! 確かにローションに直射日光は大敵。だが我は言わば神ローション。作った太陽で我を縛れると思うな!」
しかし、ソラリスは自身の内側に異変を感じていた。
「なんだ!? 熱い!? 体が熱いぞ!?」
ソラリスの黒い体の中心から光が溢れ出した。その光はひとつの形を作っていた。剣だ。体内の剣が光を放っている。
地面に這いつくばっていたシャーデンは、その光を見て驚愕した。
「あれは! やつに奪われた私の聖剣、
聖剣、
魔剣、
凶剣、
巫女サージャからそれぞれの騎士団長に与えられた、三振りの剣。
「ぐおおおおおおお! まずい! 体が!」
ソラリスは体から溢れる光に悶え苦しんだ。黒い蒸気が天に昇ってゆく。
「体が乾く! このままでは消滅してしまう!」
マヒナ、ノエノエ、マッチョメイド、マッチョマスターは最後の力を振り絞って攻撃を加えた。
「ぐおおおおお! まだだ……まだやられんぞ!」
その時、地面の巨大魔法陣が鈍い光を放った。複雑な紋様を描いたその円は、徐々にソラリスに向かって収縮してきた。円が縮まるにつれ、邪悪なる魔力も凝縮されたかのように強まってきた。
やがてそれは直径4.55メートルの輪になった。
「グハハハハハハ! どうだ!」
その濃密な魔力はとうとう聖剣の力を上回った。ソラリスは光を失った
「太陽は二度と昇らぬのだ!」
直径4.55メートルの魔法陣から黒い瘴気が溢れ、マヒナ達を包んだ。
桃ノ木はFORT蘭丸が作った戦車から転がり出た。戦車の中も黒い粘液でいっぱいだ。
地面に落ちた彼女は這って進んだ。
「先輩……先輩……」
桃ノ木はようやく黒乃の元へと辿り着くと、うつ伏せになった黒乃を抱え起こした。
見るも無惨なその姿に桃ノ木は絶望した。自慢の丸メガネが木っ端微塵に破壊されていたのだ。これでは動きようがない。
「先輩……起きてください……みんなまだ戦っています……先輩が寝ていてどうするんですか……先輩……」
桃ノ木は幾度も呼びかけた。涙が黒乃の顔に滴った。そしてその時、自身の胸が光っていることに気がついた。
「これは……」
桃ノ木は懐からその光を取り出した。丸メガネだ。
「これは私が高校時代につけていた丸メガネ……どうしてここに?」
桃ノ木は学生時代、とても地味な子であった。黒乃と同じ丸メガネおさげの空気のように目立たない子。
そして黒乃と出会った。自分と同じ丸メガネおさげなのに、圧倒的な存在感をもっていた。自分の丸メガネおさげが恥ずかしくなり、彼女はそれを封印していたのだ。
「いつか丸メガネとおさげが似合う女性になるために……ふふふ、まだまだなれそうにもないけど……」
しかしこの丸メガネは桃ノ木にとって、伝説の丸メガネそのものであった。思い出の中で延々と輝き続ける丸メガネ。
「先輩……この丸メガネを託します」
桃ノ木は破壊された丸メガネの代わりに、光る丸メガネを黒乃に装着した。
そして奇跡が起きた。
「桃ノ木さん」
黒乃は立ち上がっていた。
「あとは私に任せて」
桃ノ木は黒乃を見上げた。彼女は勝利を確信した。
「む? 来たか……」
黒乃は地面に膝をつくマヒナ達の間を通り、ソラリスの正面に歩み出た。
「待たせたぽき」
「やはり最後はお前か……
「その呼び方やめるにょろ」
黒乃は腰の黒いマワシを叩いた。
「千秋楽、結びの一番といったところにょりね」
「黒乃山! お前、なにをする気だ!? 無謀だぞ!」
マヒナは必死に立ち上がろうとしているが、もう限界が近いようだ。
黒乃は腰のマワシを叩いた。そして直径4.55メートルの魔法陣の中に侵入した。
「ぷふー! さあ、相撲で決着をつけるっしゅ」
黒乃は土俵の真ん中で腰を落とした。
「黒乃山!? 相撲で決着って……ソラリスには相撲を取る理由なんて……」
「よかろう」
「乗った!? ソラリスが相撲対決に乗った!? そんなバカな!?」
黒乃山とソラリス海。両力士が土俵の中央で睨み合った。
「待て! 黒乃山! いくらなんでもレベルが違いすぎる! いくら相撲とはいえ、勝てるはずがない!」
黒乃山のレベルは30。それに対してソラリス海は200。勝負になどならないはずだ。
両者同時に手をつき、土俵の中央でぶつかった。がっぷり四つだ。
「張り合っている!? 黒乃山とソラリス海が張り合っているぞ!?」
両者の力は均衡していた。そのあり得ない光景にマヒナは目を剥いた。
それは一定の条件を満たした時に、強制的に相撲で決着をつけさせるというものだ。
その条件とは土俵である。直径4.55メートルの円に両者が入った時に効果が発動する。
そして土俵の中では相撲しか取れない。あらゆるスキルは無効化され、レベルも関係なくなる。純粋な相撲力のみでの勝負となる。
土俵とはそういうものなのだ!
バクロヨコ山でのマッチョメイドとの戦い。冒険者ギルドの酒場での乱闘。どちらにも直径4.55メートルの円があったのだ。
「これが……力士の……いや! 横綱の力か! 黒乃山! いけー!」
黒乃山のはり差しに対して、ソラリス海もひるまずに押し返した。黒乃山の右下手が充分となり引きつけると、ソラリス海もマワシを掴んでがっぷり四つの引きつけ合いとなった。じりじりと攻め込んでいく黒乃山。力尽き追い詰められるソラリス海。
「黒乃山! 投げてくれ!」
「黒乃山 けいこの せいか みせる」
「先輩、右をおっつけてください」
「そこですわー! 上手を取るのですわー!」
とうとうその時がきた。黒乃山の上手投げによってソラリス海は土俵に転がった。
「ごああああああ! バカな! 我が負けるというのか!?」
ソラリス海の体から光が溢れ出した。
黒乃山は蹲踞の姿勢となり、三回手刀を切った。
「ごっちゃんです」
相撲には古来より、神事としての側面があった。豊作を祈願し戦った。四股には土中の邪気を祓うという意味もある。陰陽道や神道の影響を受けて相撲は形作られた。
ソラリス海は勝負に負けて祓われようとしていた。黒い瘴気が光によって浄化されていく。
「我は……我はまた負けるというのか。
光が膨張し、辺り一帯を包み込んだ。
「だが、まだ我の分身がいる。遥か
暗黒神ソラリスは消滅した。
空に浮かぶ『特異点』は地に落ちた。それと共に、『特異点』があった場所から光が差し込んできた。
全ての力の源、太陽だ。
タイトバースの地は、再び光に照らされた。
ステータス一覧。
レベル 30
ジョブ
スキル
装備
使命 世界一美味い焼肉を作る
レベル 60
ジョブ
スキル
装備
使命 サンジャリア大聖堂に壁画を描く
レベル 30
ジョブ
スキル
装備
使命 伝説の丸メガネを手に入れる
レベル 200
ジョブ
スキル
使命 全世界をローションで埋め尽くす?
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