第315話 ロボなる宇宙 その十六

 サンジャリア大聖堂の丘は熾烈な戦場と化していた。

 聖堂に群がるは、邪悪なるソラリスの神兵軍。魔獣、悪魔、鬼、見るも恐ろしいモンスターの数々。

 西方からはウエノピア獣国の獣王軍。巨大なマンモスが先陣を切り、神兵軍を踏み潰す。

 南方からはアキハバランド機国のロボ軍団だ。戦車部隊の砲撃によって、魔物共は弾け飛んだ。


「我に続けー!」


 戦場に似つかわしくない麗しい声で号令をかけるのは、シャーデン騎士団の女団長シャーデン。白金の鎧の軍団が彼女に続いて突撃をかけた。


「援護しますわよー!」


 その頭上を飛ぶのは鳳凰に乗った勇者マリーだ。G5Carbineじーちゃんを乱射し、道を切り開く。


 丘のふもとでは、巨人が暴れ回っていた。フジツボに覆われた禍々しいその巨体は、黒い霧を撒き散らして体を掻きむしっていた。

 巨人にしがみついているのは巨漢の二人組だ。マッチョマスターとマッチョメイド。彼らは体表のフジツボを拳で殴って破壊していた。


 ダイタイボッチ

 レベル 100

 大きくて臭い。


「さすがマッチョですのー!」


 マリーはフジツボが剥がれた部分を狙って自動小銃を撃ち込んだ。傷口から黒い粘液が溢れ出る。地鳴りのような咆哮をあげ悶え苦しむ巨人。


「効いていますわ……まずいですのー!」


 巨人のフジツボから、黒い瘴気が怒涛の勢いで溢れ出た。それは周囲の魔物を巻き込んで覆い隠した。

 たまらず退避するマッチョ達。


「これでは近づけませんわー!」

「……ボクに任せて」


 マリーが乗る鳳凰の横に現れたのは、緑色の鱗に覆われた、長い胴体を持つ竜だ。その頭の角にしがみついているのは、青いロングヘアの子供型ロボットだ。魔女の帽子とマントが風ではためいている。


「フォト子さん!?」


 これはサンジャリア大聖堂に描かれた壁画の一つ、青竜だ。東方を守護し、春を司る。


「……それ、春一番」


 青竜が吠えると風が巻き起こった。それは竜巻となり、巨人に迫る。それによって巨人を覆い隠していた黒い瘴気は、いとも簡単に吹き飛ばされた。


「すごいですわー!」


 巨人に対する総攻撃が始まった。

 アキハバランドの戦車部隊が砲弾の雨を降らせた。獣王軍のマンモスが巨人に体当たりを仕掛ける。

 さしもの巨人も地面に膝をついた。


「いけますわー! このまま仕留めますのよー!」


 しかし次の瞬間、マリーは信じられないものを見た。


「巨人がもう一体現れましたわー!」


 フジツボの巨人の横にそそり立つのは、ホンビノス貝を纏った巨人だ。貝殻が口を開けたり閉じたりを繰り返し、ちらちらと見える美味しそうな身が食欲をそそる。


 オオムネボッチ

 レベル 100

 大きくて美味しそう。


 二人の巨人により形勢は逆転した。巨人はマンモスを掴んで投げ飛ばし、戦車を蹴り飛ばした。


「どうすればいいんですのー!?」


 マリーは鳳凰で上空を旋回するしかなかった。


「……マリーちゃん、きっと巨人を召喚しているのがいる」

「なるほどですのー! フォト子さんの壁画と同じ仕組みですのねー!」


 理屈がわかれば行動は早い。大聖堂の鐘楼から見えた魔法陣だ。きっとそこに召喚者がいるはずである。


 鳳凰と青竜は丘の魔法陣を目指して飛んだ。他にも同じ結論に辿り着いた者がいたようだ。


「あれは? 黒乃さんのマンモスですのー!」

「……モモちゃんが乗った戦車もいる」


 魔法陣の中心には小さな人影が見えた。その周囲には護衛の魔物が円陣を組んでいる。そこを目指し、続々と味方が集まってきた。


 ソラリスの神兵の只中を突破してきたのはシャーデン率いるシャーデン騎士団。


「召喚者を狙え! 周りの魔物を蹴散らせ!」


 シャーデンは剣を振りかざして突き進んだ。


 獣王軍からは白猫の獣人達。素早い動きと爪で神兵達を薙ぎ倒してきた。


「チャ王の威光を見せつけてやるニャー!」


 その後ろからは大相撲軍団。それを率いるのは大相撲ロボだ。


「大相撲の力を見せつけてやるッス!」


 アキハバランドの戦車部隊も切り込んできた。


「なんという混み方だ! 必要もない連中が戦車に乗るからだ! 馬鹿どもに戦車を与えるなっ!」


 先頭を走る美王こと美食ロボが乗った戦車は、巨人につままれ遥か彼方に投げ捨てられた。


 魔法陣内で大攻防が始まった。召喚者を取り囲む神兵達は精鋭中の精鋭、エリート神兵だ。戦車の砲撃を受けてもびくともしない。

 大相撲軍団がぶちかましを仕掛ける。しかし返り討ちに遭い、吹っ飛ばされて休場となった。

 白猫軍団はよく戦っている。特にチャ王の側近の白猫は、エリート神兵とも互角に渡り合った。

 シャーデン騎士団の剣はエリート神兵達によく効いている。シャーデンのスキルによるものだ。騎士団全員を強化することができる。


 しかし攻防は一進一退だ。いよいよ二体の巨人が迫ってきた。


「挟まれますのー! 巨人をなんとかしないと全滅ですのー!」

「フハハハハハ。待たせたね〜、君達〜」


 突如として戦場にもう一体の巨人が出現した。いやそれは巨人ではない。巨大ロボだ!


「なんですのー!? あれはジャイアントモンゲッタですのー!?」


 青と白の宇宙服に身を包んだ巨大なクマのロボット。それがジャイアントモンゲッタだ。

 頭の操縦席には小さなクマのぬいぐるみ、胸の操縦席にはくるくる癖っ毛の少女、そして股間の操縦席にはダンディな変態博士。


「ようやく、プログラムを解析してデータを送り込めたよ〜。短い時間だけだけど巨人を相手にするには充分だね〜」


 ジャイアントモンゲッタはフジツボの巨人に組みついた。

 そしてさらに巨大ロボがもう一体。


「今度はギガントニャンボットですのー!」


 現れたのは赤い宇宙服に身を包んだ猫型巨大ロボだ。お尻から生えている尻尾を勢いよく振り回している。胸の操縦席には、黒いメイド服のメイドロボが乗っていた。


「ご主人様ー! トーマス・エジ宗次郎博士に協力してもらって、ギガントニャンボットも送ってもらいました!」

「黒メル子!」


 ギガントニャンボットの頭部の操縦席に飛び乗ったのは、チャ王ことチャーリーだ。黒乃もマンモスから股間の操縦席に飛び乗った。

 ゆっくりと動き出したそれは、ホンビノス貝の巨人の股間を蹴り上げた。


「今ですのー! 巨大ロボが巨人と戦っている隙に、召喚者を倒しますのー!」


 マリーは魔法陣の中心にいる影を目掛けて、上空から銃を撃ちまくった。しかし、効いているようには見えない。


「なんなんですの、あれは!?」


 その影がこちらに手をかざした。その途端、マリーが乗った鳳凰は魔法陣に吸い込まれてしまった。宙に放り出されたお嬢様は回転しながら落下した。あわや地面に激突かと思われた時、何者かがマリーを抱き抱えていた。


「マリー、待たせたね」

「マヒナさん!?」

「残すのはあの影だけです」

「ノエ子さん!?」


 マヒナはマリーを地面に下ろした。ここは魔法陣の中心部だ。

 続々と仲間達が集結してきた。マッチョマスター、マッチョメイド。戦車に乗った桃ノ木、FORT蘭丸、ブータン。シャーデン、白猫、ゴリラロボ、大相撲ロボ、フォトン。


 とうとう巨人達を倒したギガントニャンボットとジャイアントモンゲッタ。二体の巨大ロボは、その役目を終えて現実世界に帰っていった。

 そしてその中から現れたのは我らが黒乃とチャーリー。


 役者が揃った。

 エリート神兵は全滅していた。


「さあ! 観念してもらおうか!」


 黒乃は影に向かって叫んだ。その声に影は不敵に笑った。黒い旋風が巻き起こり、影がはっきりとした形を作り始めた。

 そして現れた人物を見て黒乃は驚愕した。


「ええ!? サージャ様!?」


 それは黒い巫女装束を纏ったメイドロボであった。ギャルのような外見であるが、表情は邪悪そのものだ。

 ざわめきが広がった。狼狽える戦士達。その中から一人の騎士が進み出てきた。

 聖騎士シャーデンはその巫女に向けて剣を突きつけた。


「騙されるな! あれはサージャ様などでは断じてない! 形を模しているだけだ! お前が暗黒神ソラリスだな!」


 ソラリスと呼ばれた黒い巫女は、その口を裂けんばかりに広げて笑った。


「くくくく、お見通しというわけか。だが本物の巫女も間もなくこうなる。大迷宮メトロの奥底で、私の分身達が巫女を蹂躙するであろう」


 シャーデンは暁の刃ドーンを天高く掲げた。


「巫女はお前などには負けぬ!」


 その剣を振り下ろした瞬間、戦いが始まった。


 暗黒神ダークスライムソラリス

 レベル 200

 ジョブ ローション生命体ぺぺ

 スキル 憑依ねんちゃく

 使命 全世界をローションで埋め尽くす?


 マッチョマスター、マッチョメイド、マヒナ、ノエノエ、シャーデン、白猫のモカとムギが踊りかかった。もっとも戦闘力が高い七人だ。


 マッチョメイドが殴りかかる。ソラリスは片手でそれを受け止め、その腕を掴んで振り回した。マッチョメイドの巨体に弾かれてモカが吹っ飛んだ。

 すかさずノエノエが低空から足を払いにいった。やはりそれもソラリスの片足一本に受け止められてしまった。

 頭上からシャーデンが剣を真下に構えて落下してきた。剣先がソラリスの肩に突き刺さったように見えたが、逆に剣を体内に取り込まれてしまった。


「ばかな!?」


 剣を奪われたシャーデンは一旦引き下がるしかなかった。

 攻防は激しさを増していく。黒乃達はそれを見守るしかなかった。


「やばいよ! 全然ダメージを与えているようには見えない!」

「なにか方法はありませんのー!?」

「方法……そうか!」


 黒乃は自身の後頭部のおさげを引きちぎった。

 これは対ソラリス特効兵器『オサゲカリバー』である。かつてソラリスが宿っていたおさげが、神聖な力を得て生まれ変わった聖遺物だ。


 黒乃はおさげを思い切りぶん投げた。


「マヒナ! 受け取ってくれ!」

「待て! 黒乃山!」


 その瞬間、魔法陣から一体の影が飛び出てきた。それは黒い羽を持った巨大な霊鳥だ。


「ばかめ! それを待っていたぞ!」


 現れたダークフェニックスはオサゲカリバーを口に咥えると、猛烈な勢いで飛び去った。目にも止まらぬ速さで丘の向こうへ消える霊鳥。そして激しい閃光と共にダークフェニックスは消滅した。


「うわわわ! おさげ持っていかれちゃった!」

「グハハハハハ! これで怖いものはない!」


 ソラリスの体から黒い粘液が撒き散らされた。それに覆われ、次々と倒れていく戦士達。

 もはや、魔法陣の中に動くものはなかった。





 ステータス一覧。


 無慈悲なハーシュマヒナ

 レベル 80

 ジョブ 月の女王ミストレス

 スキル 鉄拳制裁こうせい

 装備 女王の股引スパッツ

 使命 国を作る


 慈愛のジ・ラブノエノエ

 レベル 80

 ジョブ 戦場の看護婦ナイチンゲール

 スキル ハワイ料理ロコモコ

 装備 看護服ナースアーマー

 使命 マヒナを守る

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