第277話 ロボチューブ生配信です! その十三
「あ、はい、あ、はい。あ、もう始まってる? あ、どうも皆さん、『ご主人様チャンネル』の
画面に白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた女性が現れた。
『始まったw』
『ぺったんこでわろw』
『こんちはー』
「あ、どうも。あ、ビッグりモタモタさん、初めまして。あ、飛んで平八郎さん、今日もね、あの、よろしくお願いしますよ。あ、一般の方とは違うさん、楽しんでいってね、くださいよ」
「皆さんこんにちは! 助手の
画面に紙袋を被った和風メイド服のメイドロボが現れた。
『メル蔵!』
『くそかわwww』
『でけぇwww』
『¥2000。メル蔵、最高!』
「あ、元ソルジャーさん、ロボチャットありがとうございます。メル蔵!」
「はい!」
「今日はなにをやるの!?」
「今日はゲーム実況をやります!」
『ゲーム実況久々じゃんw』
『なんのゲーム?』
『オフオフVIIやろw』
「今日プレイするゲームはこれです! デュルルルルルル、デン! ロボハザードX〜」
「え……」
『今日発売の最新作やんけ!』
『これ楽しみにしてた』
『あれ? 黒男どうした?』
黒男は顔を青くしてプルプルと震えている。
「解説をします! ご主人様はロボハザード9のトラブルが原因で、会社をクビになりました! だからロボハザードと聞くとトラウマを刺激されてしまうのです!」
『クビwww』
『ざまぁwww』
『なんでwww』
「では今からロボハザードをプレイしていきます! マルチプレイができるのでゲストを呼んであります!」
「オーホホホホ! 近所に住んでる
金髪縦ロール、シャルルペロードレスのお嬢様が画面に現れた。グラサンをかけている。
「オーホホホホ! お嬢様の助手のアンキモですわー!」
金髪縦ロール、シャルルペローメイド服のメイドロボが画面に現れた。頭には紙袋を被っている。
『キタァー!』
『マリ助ー!』
『アンキモ! アンキモ! アンキモ!』
『めちゃかわwww』
「ではこの四人でロボハザードをプレイしていきます!」
四人はそれぞれ頭にVRゴーグルを装着した。配信画面の中央にはゲーム画面が、四隅には四人の姿がワイプで表示されている。
『これ前も使ってたゴーグルなんじゃないのw』
『まだ返してなかったのかよw』
『横領www』
「では、スタートです!」
『ロボォ ハザァァァドォ テェェェン!』
「ぎゃあ! 相変わらずタイトルでびっくりさせてきます! ではご主人様! 職業を選んでください!」
「えー、なにがいいかな? まあ、マッチョポリスでいいか」
「私はもちろんマッチョメイドでいきますよ!」
「わたくしはクノイチですわー!」
「お嬢様ー! わたくしは女スパイにしますわよー!」
『マッチョメイド強そうw』
『女スパイエロいな』
『マッチョメイド、リストラされてないのかよwww』
いよいよゲームが始まった。舞台は巨大ステーション『ロボ新宿駅』だ。ゾンボ(ゾンビロボット)が徘徊する駅の中から脱出するのが目的のモードである。
『ロボ新宿駅ってなんだよwww』
『すげーリアル!』
『現実と見分けがつかんやん』
「解説します! ロボハザードXは最新の量子サーバを使ったリアルタイムワールドシミュレーション技術を使用したVRゲームです! 量子サーバはかの有名な科学者アルベルト・アインシュ太郎博士の技術提供により実現しています!」
「なんのこっちゃわからんけど、VRゴーグル被っていると現実なのかゲームなのかもはやわからんな」
「すごいですわー!」
マッチョポリス、マッチョメイド、クノイチ、女スパイの四人は、照明が消えかけた薄暗いロボ新宿駅の構内を恐る恐る進んだ。
「よしよし、このロボ新宿駅から脱出すればいいのね? メル蔵! 出口はどこなの!?」
「わかりません!」
「せっかくですので、わたくしはこちらの部屋にいってみますわー!」
「お嬢様ー! お一人は危険ですわー!」
『やべぇ、雰囲気こえぇ!』
『リアルすぎるw』
『ゾンボどこ?』
「皆さん! 勝手に動いたら危険ですよ! こちらはまだ武器も持っていないのですから……ぎゃあ!」
突然暗闇から現れたゾンボがマッチョメイドの腕にかじりついた。
「ぎゃあ! でました! ゾンボです! 噛まれています! 助けて!」
「こちらの部屋に武器がありましたのよー!」
「さすがお嬢様ですのー!」
「早く助けてください!」
マッチョメイドはゾンボを振り払うと、その巨大な拳でゾンボの頭を粉砕した。
「ハァハァ、やりました!」
「今、スパイレーダーに反応がありましたの。すぐ近くにゾンボがいますわー!」
「もう倒しました!」
四人は部屋の中の武器を漁った。
「お、拳銃があった。ご主人様はこれにするかな」
「ポン刀がありましたの。クノイチ用の武器ですわー!」
「お嬢様ー! 見てくださいましー! 鞭がありましたわー!」
それぞれが武器を手にする中、マッチョメイドだけが必死に部屋を漁り続けていた。
「あれ? あれ?」
「メル蔵、どしたの?」
「おかしいです!
『まさかの刺股リストラ?』
『嘘だろ?』
『刺股ないとかやっちまったなー!』
「ご主人様! バグです! ゲームを再起動してやり直しましょう!」
「こらこら、落ち着きなさいよ。もっと強い武器があるじゃないのさ。ほら、トライデントがあるよ。三又の槍だから二又の刺股よりも強いよ」
「刺股より強い武器があるわけがないですよ!!!」
「うるさいですの」
「ゾンボが寄ってくるから大声出さないでほしいですの」
しかし他に選択肢がないので、マッチョメイドは渋々トライデントを持った。
四人は武器を構えて慎重にロボ新宿駅を進んだ。駅構内は荒れ果て、どこからゾンボが飛び出してきてもおかしくない様相である。
「ハァハァ、暗いです。怖いです」
「駅が広すぎて出口がまったくわからんな」
「わたくしがスパイスキルを使用して出口を探しますの!」
女スパイはスパイマップを開いてルートを検索した。
「わかりましたの! そこの扉を開けば地上に出られますの!」
「ここですね!」
マッチョメイドは指示された扉を開いた。その途端、扉から大量のソンボが溢れ出してきてマッチョメイドに群がった。
「ぎゃあああああ! でました! ゾンボの群れです! 噛まれています! 助けて!」
「あ、そっちじゃなくてこっちの扉でしたの」
「アンキモってば、お茶目さんだなあ」
「オホホですの」
「じゃあこっちにいきますの」
「そっちはいいから、こっちを助けてください!」
マッチョメイドはトライデントを振り回してゾンボの群れを蹴散らした。
「ほら、メル蔵。もういくよ?」
「ハァハァ、どうして助けてくれないのですか!」
『可哀想w』
『放置ww』
『メル蔵、どんまいw』
ネズミが群れをなして走り回る汚い通路を進み、一行は地下へと向かった。
「どうして地下にいくのですか? ロボ新宿駅から脱出をするのですよね?」
「ロボ新宿の町はゾンボで溢れかえっているから、地下鉄で逃げるんだよ」
「なるほど、地下ならゾンボも少なそうですね!」
頑丈なマッチョメイドを先頭にして進んだ。道中、いくらかのゾンボとの戦闘があったものの、難なく蹴散らした。
そしてようやく地下鉄のホームへと続くエスカレーターの前までたどり着いた。
「見てください! 奇跡的にエスカレーターが動いています! 乗りましょう!」
マッチョメイドはエスカレーターに足を乗せた。巨体がゆっくりと下っていく。
「お待ちくださいまし! エスカレーターに罠を発見しましたの!」
「え!? 本当ですか! 戻ります!」
マッチョメイドは下がるエスカレーターを駆け上ろうとした。
「こらこら、メル蔵。エスカレーターは逆走したらダメだよ」
「マナー違反ですの」
「え!? 今そのようなことを言っている場合ですか!?」
足を止めた途端、エスカレーターの途中に張られたワイヤーがマッチョメイドの体に引っ掛かり、仕掛けられた爆弾が起動した。
「ぎゃああああ!」
爆風によってマッチョメイドの巨体がエスカレーターの上まで吹き飛ばされた。
「今からクノイチのスキルで罠を解除しますの」
「さすがお嬢様ですの」
「もうとっくに罠にかかりました!」
マッチョメイドは立ち上がり、手に持ったトライデントを床に叩きつけた。
「もうやっていられません! 私は一人で行動させてもらいます! お三人は勝手に脱出してください!」
マッチョメイドは大股で歩いて暗闇の中へ消えていった。マッチョポリスとクノイチと女スパイはその様子をポカンと口を開けて眺めた。
『あーあー、仲間割れじゃん』
『どうすんのこれ』
『やべえよ!』
三人はエスカレーターを下り、地下鉄のホームに到着した。
「ここまで来れば、あとは電車に乗って逃げるだけだ」
「電光掲示板によりますと、あと三分で通勤特快が来ますの」
「満員電車は勘弁ですの」
『ゔぉああ、まもなく〜、一番線に〜、通勤特快が参りま〜す、うぼぉああうま』
「来ましたのー!」
「乗りますのー!」
「メル蔵はほんとにどっかにいっちゃったのかな?」
三人は停車した車両に乗り込んだ。乗客は一人も見当たらない。
「これで逃げられるぞ!」
「出発ですのー!」
『うぉぼおお、ロボ丸の内線ロボ荻窪行き、出発しま〜す。ゔぉううおお』
列車が静かに動き出した。ホームの階段から大量のゾンボが溢れ出てきた。走る列車に群がろうとするが、次々に弾き飛ばされていった。
「危ない! 間一髪だ!」
「脱出成功ですのー!」
「ゲームクリアですのー!」
列車は薄暗いトンネルの中を突っ走った。三人は座席に座って安堵のため息を漏らした。
「なんだなんだ。今回のロボハザードは難易度低いな」
「チョロいもんですのー!」
「誰かが網棚に棒のようなものを置き忘れていますの」
『クリアおめー』
『余裕だったな』
『¥5000。おめでとう!』
突然列車に大きな衝撃が走った。床に投げ出される三人。照明が明滅してからプツリと消えた。
「なんだ!? なにが起きた!?」
「後ろの車両ですの!」
三人は信じがたい光景を見た。後ろの車両の中を巨大な生物が突き進んできているのだ。それは巨大ミミズロボであった。体長二十メートルはあろうかという巨体。大きな口の中には無数の牙が渦巻状に並んでいた。どんなものでも噛み砕けそうなおぞましさを纏って、マッチョポリス達の車両へと迫ってくる。
「うわわわわ! ボスだ! まだボスがいたんだ!」
「ラストバトルですのー!」
「撃ちまくりますのー!」
三人は迫ってくるミミズロボの口の中目掛けてありったけの銃弾を撃ち込んだ。巨大ミミズは体をくねらせて苦しんだものの、動きを止めることはできなかった。そのまま三人が乗る車両へと頭を突っ込ませてきた。
「ダメだ! 弾が切れた!」
「もうおしまいですのー!」
「万策つきましたのー!」
絶体絶命かと思われたその時、何者かが巨大ミミズの頭にしがみついているのが見えた。
「ええ!? 嘘でしょ!?」
「あれはですのー!」
「まさかですのー!」
それはゴスロリメイド服を纏った巨漢のメイドロボであった。
「ご主人様! お待たせいたしました!」
「メル蔵! どうしてここに!?」
マッチョメイドは渾身の力を込めて巨大ミミズの頭を殴りつけた。巨大ミミズは奇声をあげてのたうちまわった。
「ご主人様をお守りするのがメイドロボの役目です!」
巨大ミミズはダメージから回復すると、大きな口でマッチョメイドを丸呑みにしようと襲いかかった。マッチョメイドは両手両足を伸ばして口が閉じるのを防いだ。
「メル蔵! これを使って!」
マッチョポリスは咄嗟に網棚の上の棒をマッチョメイドに向かって投げた。それは光り輝く刺股であった。
『刺股だ!』
『最強武器きた!』
『誰だよw 網棚に刺股忘れたやつwww』
マッチョメイドは刺股を受け取ると、つっかえ棒のようにして巨大ミミズの口に挟んだ。
「今です! ご主人様!」
「おう!」
マッチョポリスとマッチョメイド。二人のマッチョは同時に拳を繰り出した。その拳は音速を超え、強烈な衝撃波を巻き起こした。その衝撃をもろに喰らった巨大ミミズの体は弾けるように吹き飛んだ。
それと同時に列車は地上に顔を出した。光り輝く太陽を背に、二人はお互いの拳を打ちつけ合った。
『勝ったwww』
『やっぱり怖いッスね、刺股は』
『¥500。おめでとう』
「あ、パッフルパフパフさん、なんとかね、愛の力で勝てましたよ。あ、タンパク小僧さん、刺股は実装されていました。あ、ニコラ・テス乱太郎さん、ロボチャットありがとうございます。あ、ではこれでね、今日の配信を終わりたいと思います。それでは皆さんさようなら!」
(軽快なBGM)
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