第265話 ロボチューブ生配信です! その十二
「あ、はい、あ、はい。あ、始まりました。あの、ご主人様チャンネルの生放送がね、始まりましたよ」
画面に白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた女性が現れた。
「あ、どうも皆さんお久しぶりです。
「助手の
画面に緑のメイド服に頭から紙袋を被ったメイドロボが現れた。
『始まったwww』
『久しぶりw』
『メル蔵ー!』
「あ、しんなりなえなえさん、こんにちは。あ、飛んで平八郎さん、今日も楽しんでくださいよ。あ、生ハムの大木さん、塩分は控えてくださいね」
「ご主人様! 今日はなにをやりますか!」
「あ、今日はね、あのね、あの、科学実験をやりたいと思いますよ」
『実験!?』
『なんの実験w』
『面白そうw』
『ここどこ?』
「あ、それいけカイヤンワンさん、ここはですね、あ、
「おー!!!」
『うるさっ』
『いきなり大声出すなw』
『いけー!』
——超伝導。
「あ、はい。あ、はい。最初の実験にいきたいと思いますよ。あ、そんではね、最初はこれ!」
「でゅるるるるるるる、でん!」
「超伝導〜〜〜」
「ぱふぱふぱふ!」
倉庫の床には金属のレールのようなものが敷かれている。レールは急なカーブや水平ループ、垂直ループなどが設えてある。まるでジェットコースターだ。
「あ、はい、じゃあメル蔵!」
「はい!」
「説明して!」
「はい! 今からピン留め効果の実験をお見せします! 床に敷かれているレールはネオジム磁石です! これは強力な磁石ではありますが、なんの仕掛けもございません! 仕掛けがあるのはこちらの板です!」
メル蔵はモクモクと煙のようなものを発する水槽の中から座布団サイズの板を取り出した。
「これは液体ヘリウムで冷やしておいたアルミニウムの板です! これは超伝導体と呼ばれるもので、冷やすことによって電気抵抗がゼロになります! この状態の超伝導体を磁石の上に乗せるとマイスナー効果により浮上します!」
メル蔵は磁石の上にアルミニウムの板を乗せた。板はふわふわとネオジム磁石のレールの上を漂っている。
『おお、浮いてる』
『すげー』
『不思議〜』
メル蔵は板を押した。するとレールの上を滑るように進んでいった。
「見てください! レールがカーブをしているのに、板はレールに沿って進んでいます! 落ちません! 板とレールは常に一定の距離を保ったまま、落ちもせず、浮きもせず、横にずれもせずにいます! これをピン留め効果といいます!」
「あ、じゃあね、ただ浮いているのを見ているだけじゃロボチューブっぽくないのでね、あ、ご主人様がね、この板の上に乗ってみますよ」
黒男はアルミニウムの板の上にあぐらをかいて座った。
「おお、浮いてる! 気持ち悪い! ケツが冷たい!」
「ご主人様! いきますよ!」
『なんか二人とも声がおかしくね?』
『楽しそうw』
メル蔵は力一杯黒男を押した。すると黒男は高速でネオジム磁石のレールの上を滑っていった。
「皆さん! 見てください! レールの上を走っています! 速い! 怖い! わぁあああああ!」
黒男はアルミニウムの板に乗ったまま宙返りをした。
「ああああああ! 怖い! 速い! ケツが冷たい!」
『はえええw』
『まじでジェットコースターやん!』
『声が高いw』
コースを一周して戻ってきた黒男の体をさらに力強く押すメル蔵。
「わぁあああぁぁあああ! 速い! ケツが冷たい! メル蔵! もう止めて!」
「まだまだいきますよ!」
『止めてあげてw』
『メル蔵容赦ないwww』
『回る黒男w』
コースを十周してようやく板が停止した。黒男は液体ヘリウムの冷却により凍りつき、メル蔵の声は気化したヘリウムを吸い込んだことにより高音になっていた。
「これで超伝導の実験を終わります!」
「……」
『黒男が凍ってるwww』
『ざまあwww』
『ロボットもヘリウムで声が変わるんだなw』
——静電気。
「あ、はい、あ、はい。次の実験にいきます」
「ご主人様! 準備が整いました!」
『解凍されたw』
『声高いままw』
『まだヘリウムが充満してね?』
「あ、はい。ではね、次の実験はこれ!」
「でゅるるるるるるる、でん!」
「静電気〜〜〜」
「ぱふぱふぱふ!」
「あ、次はね、ライデン瓶という装置を作って遊んでいきたいと思いますよ。メル蔵!」
「はい!」
「ライデン瓶の説明お願い!」
「はい! ライデン瓶とは十八世紀に作られた静電気を蓄える装置のことです! ご家庭でも簡単に作れるので皆さんもやってみてください!」
『なにそれ面白そう』
『これ知ってるw』
『作ってみよっと』
「まずはプラスチックコップ二つとアルミホイルを用意します! コップ二つの外側にそれぞれアルミホイルを巻きます! そして二つのコップを重ねます! 別のアルミホイルを折りたたんで細長い帯を作ります! その帯を二つのコップの間に差し込めば完成です!」
「できたできた。二つのコップの隙間からアルミホイルの帯がちょろっと飛び出ている感じね」
「あとは風船を布で擦って静電気を発生させて、ライデン瓶の帯に近づけると静電気がライデン瓶に蓄積されます!」
『簡単だな』
『ビリっとくるやつや!』
『髪の毛が逆立ってるwww』
「静電気の仕組みを解説します! 通常物体はプラスとマイナスの電荷を帯びています! 原子核はプラスの電荷、電子はマイナスの電荷を持っています! 物体を擦り合わせると片方の物体にマイナスの電荷が奪われます! このプラスとマイナスのバランスが崩れた状態のことを静電気といいます! 今は風船がマイナス、布がプラスになっています! ご主人様の体もマイナスの電荷を帯び、マイナス同士は反発し合うので髪の毛が反発して逆立っているのです!」
『声たけぇwww』
『髪の毛もすごいw』
『おさげも逆立ってね?』
「よしよし、ライデン瓶に静電気が貯まりました。あとはこの帯に触れるとビリっときます」
「今ライデン瓶はマイナス状態です! 私の体はプラス状態なのでプラスとマイナスが触れた時に一気にマイナスの電荷がプラスの方に流れ込んできます! これが放電です! この時に電流が流れるのでビリっと痛みを感じます!」
黒男はライデン瓶の帯をメル蔵の耳に押し当てた。バチンという音と共に火花が散った。
「ぎゃあ!」
メル蔵は衝撃のあまり背後にひっくり返った。
「なにをしますか!」
「はっはっは」
『ひでぇwww』
『黒男の逆襲w』
『声がたけぇ〜』
「あ、でもね、せっかくロボチューブでやるわけですからね、あの、これだけじゃもったいないと。あ、なのでね、はいこちら。あ、もっと巨大なライデン瓶を作りました」
カメラが黒男の後ろの巨大な装置をとらえた。そこには高さ二メートルを超える特大コップが用意されていた。
「あ、これは八又産業の人にお願いして作ってもらったね、あの、巨大ライデン瓶ですよ。もう既に静電気は貯まっているのでね、触ったら即大放電ですよ」
『やべぇw』
『でかすぎwww』
『死ぬだろこれw』
「じゃあメル蔵、触ってみて」
「いやです!」
「なんでよ」
「死にます!」
「ちゃんと大丈夫なように八又産業の人が設計してくれたから。触りなよ」
「いやです! ご主人様が触ってください!」
「いやだよ」
「自分がいやなことを人にやらせないでください!」
その時、倉庫に科学を超越するかのような未知の音色が響き渡った。
「オーホホホホ! お困りのようですわねー!」
「オーホホホホ! 実験ならお嬢様にお任せありゃれられー!」
「あ、お嬢様たちだ」
『きたぁー!』
『
『アンキモアンキモアンキモ!』
「近所に住んでるマリ助ですわー!」
「お嬢様の助手のアンキモですわー!」
「「オーホホホホ!」」
金髪縦ロール、シャルルペロードレスにグラサンをかけた少女と、金髪縦ロール、シャルルペローメイド服に頭から紙袋を被ったメイドロボの登場だ。
「じゃあさ、せっかくだからマリ助に特大ライデン瓶に触ってもらおうか」
「マリ助にお任せですわー!」
マリ助はなんのためらいもなく特大ライデン瓶の帯に触れた。その瞬間、目も眩むようなスパークと轟音が巻き起こり、マリ助は吹っ飛んだ。
「ぎゃーですのー!」
「お嬢様ー!」
床に倒れてピクピクと震えるマリ助。
『マリ助ー!』
『出てきていきなり死んだw』
『さすがお嬢様www』
(このライデン瓶は安全に配慮して設計されています)
『うそこけw』
『テロップwww』
『¥7000。マリ助起きてー』
「はっはっは、じゃあ最後の実験いこうか。あ、ニコラ・テス乱太郎さん、ロボチャットありがとうございます」
——メントスコーラ。
「あ、はい、じゃあ最後の実験はですね、ロボチューブ定番ネタのこれ!」
「でゅるるるるるるる、でん!」
「メントスコーラ〜〜〜」
「ぱふぱふぱふ!」
『コーラが噴き出すやつねwww』
『それ実験する意味あるか?』
『いまさらメントスコーラかよ』
「じゃあメル蔵! メントスコーラの説明よろしく!」
「はい! メントスコーラは正式名称『メントスガイザー』と言います! コーラの瓶にメントスを入れることによって、コーラが勢いよく噴き出す現象のことを言います! 原理的にはコーラの瓶を振るとコーラが勢いよく噴き出す現象とほぼ同じです! 炭酸水の中には二酸化炭素が入れられています! 二酸化炭素は水から分離したがっているのですが、水の表面張力によって無理矢理押さえ込まれています。しかしちょっとした刺激によって表面張力が弱まり、二酸化炭素が一気に噴き出してしまうのです! 表面がザラザラとしたメントスが一気に瓶の底まで落下することにより、効率的に炭酸水に刺激を与え、爆発的にコーラが噴き出すのです!」
「じゃあ、原理がわかったところで早速実験にいこうか」
「はい!」
黒男、メル蔵、マリ助、アンキモの四人は工場の中庭にやってきた。四人横に一列に並んで準備運動を始めた。
「あ、ただね、コーラにメントス落として終わりじゃ芸がないのでね、あの、レースを行います。メル蔵!」
「はい! コースの地面にはコーラの巨大タンクが複数埋め込まれています! このタンクにスタート地点から順にメントスが落とされていきます! コーラの爆発に巻き込まれないように全力で走ってください! 走るのが遅れると爆発に巻き込まれて吹っ飛びます!」
『なにそれw』
『大掛かりwww』
『バラエティでよくある爆発から走って逃げるやつねw』
「じゃあメル蔵! マリ助! アンキモ! 準備はいいね!」
「はい!」
「負けませんのー!」
「余裕ですわー!」
3……2……1、スタート!
四人は一斉にコースを走り出した。スタート直後に背後のコーラが大爆発を起こした。上空まで噴き上がったコーラが雨のように降り注ぐ。
「ぎゃあ!」
「ぶぇええ!」
「なんですのー!?」
「やりすぎですわー!」
『あかーん!』
『これメントスコーラじゃなくて単なる爆発だろwww』
『逃げろー!』
全力で走る四人。背後で爆発するコーラ。降り注ぐ雨。
「だれだこれ設計したやつは!」
「アイザック・アシモ風太郎先生です!」
水を吸い重くなった体を動かし、必死に爆発から逃げる。すぐ背後までそれは迫ってきていた。
「もう実験は……」
「こりごりですのー!」
ゴール直前で爆発に巻き込まれ、仲良く吹っ飛ぶ四人。滝のように降り注ぐコーラ。地面に横たわり、ぴくりとも動かなくなる四人。
『あーあ』
『全滅www』
『南無阿弥陀仏』
『もうめちゃくちゃだよ』
「エー、コレデ今日ノ、ご主人様チャンネルノ、放送ヲ終ワリタイト、思イマス。ミナサン、マタ来週!」
『だれこのロボwww』
『風太郎先生www』
『元凶www』
(軽快なBGM)
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