第260話 野球やろうぜ! その一

 パンパパン! 五月の浅草の空に花火の音が轟いた。

 ここは台頭リバーサイドスポーツセンター。その野球場は観客で埋め尽くされていた。


『さあ、やって参りましたァ! 夏を控えたこの時期恒例のスポーツイベントォ! 「浅草ロボット野球大会」の開催だァ!』


 パンパパン!

 大きな歓声が球場に渦巻いた。野球好き、ロボット好き、家族連れ、カップル。皆メガホンを持ち、選手達の登場を待ち侘びている。


『皆さん、改めましてこんにちはァ! 実況は私、エルビス・プレス林太郎が担当いたしまァす! そしてェ!』

『皆さん、こんにちは。解説を担当します、おっぱいロボのギガントメガ太郎です』

『よろしくお願いしまァす!』


 一際大きい歓声が巻き起こった。いよいよ選手の入場である。


『きましたァ!』

『両チームの入場です』

 

 選手達がホームベースを挟んで二列になった。歓声に応えるように手を振る。


『それでは、両チームの選手を紹介したいと思いまァす!』


 黒乃チーム。

 1、ピッチャー メル子

 2、キャッチャー 黒乃

 3、ファースト 鏡乃みらの

 4、セカンド 黄乃きの

 5、サード 紫乃しの

 6、ショート フォトン

 7、レフト FORT蘭丸

 8、センター ルビー

 9、ライト アンテロッテ

 10、リベロ マリー

 11、ゴール下 美食ロボ


 マヒナチーム。

 1、ピッチャー マヒナ

 2、キャッチャー ノエノエ

 3、ファースト マッチョメイド

 4、セカンド ゴリラロボ

 5、サード 大相撲ロボ

 6、ショート チャーリー

 7、レフト ビカール三太郎

 8、センター マッチョマスター

 9、ライト モンゲッタ

 10、キーパー 黒メル子

 11、ゴール下 美食ロボ


『両チーム。サッカーと勘違いしている可能性がありますね』


「黒乃山! 今日は容赦はしないからね」

「望むところだマヒナ! でもなんかマヒナチームに戦力が偏ってない!?」


 両チーム礼をしていよいよ試合が始まった。



 一回の表。


『一回の表ェ! 黒乃チームの攻撃でェす!』

『ピッチャーは強肩マヒナ選手。迎え打つは我らがメル子選手です』


「行くよ! メル子!」

「ホームランを打ちますよ!」


 マヒナは豪速球を投げた。その球は吸い込まれるようにノエノエのミットに収まった。


「あれ? ボールはどこにいきましたか?」


『速ァい! 165.1km/hを記録だァ!』

『大谷を超えましたね』


 メル子は見事に三振した。しょんぼりとうなだれてベンチに帰るメル子の肩に手を置いたのは黒乃だ。


『次は黒乃選手の打席でェす!』

『背が高いのでパワーは期待できそうです』


「マヒナ! どんとこい!」

「喰らえ! 黒乃山!」


 マヒナの投げた160km/hの豪速球は見事に黒乃のケツにヒットした。


「デッドボール!」


 審判ロボが両手を広げてコールした。黒乃は地面を転げ回った。


「ぐぉええええええ!」

「あ、黒乃山。すまん」


 マヒナは帽子を取って詫びた。客席からは大きな拍手が巻き起こった。


『ロボット野球では安全のために、ぶつかっても怪我をしないロボ軟球を使っていまァす!』

『しかし流石に160km/h越えは痛いです』


 黒乃は一塁に出た。次の打席は黒ノ木家四女の鏡乃だ。


「尼崎からきました黒ノ木鏡乃です! 中学生です! よろしくお願いします!」


 マウンド上のマヒナがゆっくりと投球モーションに入る。


『マヒナ選手投げましたァ! ああァ! 中学生相手に豪速球だァ!』

『大人気ないですね』


 鏡乃はフルスイングをしたものの、かすりもせずにバランスを崩して地面に転がった。


「うわぁあん!」

「大丈夫ですか! 鏡乃ちゃん!」


 ベンチからメル子と姉妹達が飛び出した。客席から大人気ないマヒナにブーイングが飛んだ。


「くっ!」

「マヒナ様! ここは変化球で攻めましょう!」


『次は黒ノ木家次女の黄乃選手だァ!』

『黒乃選手に次ぐ高身長ですので期待がもてます』


 マヒナは外角を攻めた。しかし予想外のリーチから繰り出されるスイングはマヒナの球を的確に捉えた。それは見事なアーチを描いて客席に飛び込んだ。


『あああッ! 先制ツーランホームランだァ!』

『お見事です。マヒナ選手のメンタルの弱さを見事に突いた戦術です』


 黒乃と黄乃は大歓声の中ホームベースを踏んだ。



 一回の裏。2ー0。


『マヒナチームの攻撃でェす! 投げるはメル子選手。迎え打つはマヒナ選手でェす!』

『メル子選手がどんな球を投げるのか期待しましょう』


 マウンドに立ったメル子は半身に構えてキャッチャーの黒乃と慎重にサインをやり取りした。そして大きくうなずくと投球フォームに入った。


「ご主人様! いきますよ!」

「どんとこい!」


 大きく足を上げ、ダイナミックなモーションで球を放り投げた。ついでにお乳も放り投げられそうにダイナミックに踊った。


『ああッ! すごい揺れだァ!』

『素晴らしいですね。おっぱいポイント百点追加です』


 マヒナはそのお乳の揺れに惑わされて打ち損ねた。


『打ち上げましたァ。センターフライでェす!』

『センタールビー選手、捕れるでしょうか?』


 空高く打ち上がった球はすっぽりとルビーのHカップの谷間に挟まった。


「わぁ〜お」


『捕りましたァ!』

『お見事です。おっぱいポイント、さらに百点追加です』


 しかし二番手のノエノエ、マッチョメイド、ゴリラロボに次々とヒットを許してしまった。


「ハァハァ、ピンチです!」


 マウンド上で汗をかきながら肩で息をするメル子。


『あっという間に満塁だァ!』

『おや? ベンチに動きがありますね。ピッチャー交代でしょうか?』


 ベンチから出てきたのは美食ロボだ。黒乃と共にマウンドに向かう。


「ハァハァ、私はまだ投げられます! 代えないでください!」

「店主、ここはマウンドだな?」

「もちろん、野球のマウンドですが」

「ではここで一番得意だと思う球を投げてみろ」

「得意な球? ロボスピンブラックホールボールのことですか!?」

「フハハハハハ! ロボスピンブラックホールボールときたか!」


 美食ロボは満足げにベンチへと戻っていった。黒乃は呆気にとられてその様子を見つめた。


『打席に立つのは大相撲ロボォ! 満塁の大ピンチをどうやってしのぐのかァ!?』

『おや? メル子選手、魔球の構えに入りました』


 メル子は体をコマのようにスピンさせ、その勢いを利用してボールを投げた。


「うりゃぁぁあああ! 必殺! ロボスピンブラックホールボールです!」


 白球は猛烈な回転を得、黒いエネルギーに包まれた。


『なんだァ!? これはァ!?』

『これは伝説の魔球ロボスピンブラックホールボールです。回転により小型のブラックホールを発生させ、その吸引力により強制的にバットを振らせる絶技です』


「バットが!? 吸い込まれるッス!」


 大相撲ロボの握ったバットとマワシが黒いエネルギー体の中へと吸い寄せられていった。次の瞬間、ブラックホールは消え失せ、ボールは天高く舞い上がった。


『打ち上げたァ! レフトフライだァ!』

『素晴らしい投球でした。メル子選手の勝利です』


「オーライ、オーライ」

「FORT蘭丸! 頼んだぞ!」

「シャチョー! お任せくだサイ!」


 しかしボールはグラブをすり抜け、FORT蘭丸のツルツル頭を直撃した。


「うのー! なにやってんだ貴様ーッ!」

「痛いデス! ごめんなサイ!」


 この間にノエノエとマッチョメイドがホームに滑り込んで二点が入った。



 二回の表。2ー2。


『2ー2で迎えました二回の表ェ! 打順はフォトン選手からでェす!』

『小柄な体でどこまでやれるか。注目です』


 フォトンは打席に立った。マヒナが相変わらずの豪速球で攻め立てる。


「ボール! フォアボール!」


 フォトンは一塁へ進んだ。


「ぐっ!? なぜだ!? ストライクじゃないのか!? 審判!」


 しかし審判ロボは首を振った。


『これはどういうことでしょうかァ!?』

『フォトン選手の変幻自在のロングヘアを活かしたイリュージョン戦法です。髪の毛に背景を投影させ、ストライクゾーンを錯覚させたのです』


 しかし続くFORT蘭丸、ルビーはあえなく三球三振。


「よし! 追い込んだぞ! あれ? フォトンが一塁にいないぞ?」

「マヒナ様! 三塁です!」


 気が付かないうちにフォトンが一塁から三塁へ進塁していたようだ。


『いつの間に三塁へ進んだんだァ!?』

『再び髪の毛迷彩を駆使して盗塁していたようです。恐るべしフォトン選手』


 フォトンの搦め手からめてに客席から歓声が湧き上がった。勝ち越しのチャンスである。


「いいぞいいぞ! アン子! 頼んだよ!」

「アン子にお任せですわー!」

「タイムですの」


 マリーがベンチから進み出た。


「追加打者わたくしですの」

「お嬢様!?」

「追加打者ってなに!?」


『アンテロッテ選手に加わりまして、マリー選手が打席に追加されまァす!』

『ロボット野球のオリジナルルールで、左右の打席に一人ずつ立つことができます』


 思いもよらぬダブルお嬢様打席に会場のボルテージが最高潮に達した。マリーが右打席、アンテロッテが左打席に立った。


「正々堂々と勝負ですのー!」

「きやがれですのー!」

「二対一じゃないか!」


 ぼやきながらマヒナは投球モーションに入った。三塁のフォトンの動きに注意を払う。マヒナは改造された右前腕を高速回転させた。そして渾身の力を込めてボールを放った。それはあまりの威力に空気との摩擦を生み、赤く燃え上がった。


『ああァ!? 燃える魔球だァ! これは危険だぞォ!』

『死人がでます』


 しかしアンテロッテは怯まずにバットを振るった。


「クサカリ・インダストリアルに伝わる曲率推進ブレードを応用した曲率推進打法ですわー!」


『マヒナ選手の燃える魔球に対して、アンテロッテ選手は秘打で対抗だァ!』

『空間歪曲による歪力差を利用してバットを推進させます。理論的にはどんな球でも打つことができます』


 アンテロッテの秘打とマヒナの魔球が正面からぶつかりあった。凄まじい放射線を放出し、会場が光に包まれた。その横でマリーは普通に空振りをしてすっ転んだ。


「いけーですのー!」


 アンテロッテはバットを振り抜いた。ボールが太陽に向かって突き進んでいった。その瞬間、マヒナは帽子を脱いで地面に膝をついた。


「やられた……」


 遥か高くまで打ち上がったボールは、煙を一筋残してスタンドに落下した。


『入りましたァ! アンテロッテ選手、マリー選手のダブル打法でスリーランホームランでェす!』

『見事な連携でした。二人の力が合わさりマヒナ選手を打ち破りました。美しい愛の成せる技です。百合ポイント百点追加です』


 客席からお嬢様たちに賞賛が浴びせかけられた。二人はそれに応えながらゆっくりとダイヤモンドを回った。


「これ、マリー必要だったか?」黒乃は呆然とその様子を眺めた。

「ご主人様! マリーちゃんがいたから三点入りましたよ!」


『これで5ー2となり勝ち越しを決めましたァ!』

『試合はまだまだ続きます。次回もお楽しみに』

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