第261話 野球やろうぜ! その二

 晴れた五月の爽やかな空。しかし台頭リバーサイドスポーツセンターの熱気により、その空にはうっすらと雲が出来上がりつつあった。


『さあ! 改めまして皆さんこんにちはァ! 実況のエルビス・プレス林太郎でェす!』

『解説のギガントメガ太郎です』

『迎えました二回の裏ァ!。5ー2で黒乃チームがリードしていまァす!』

『アンテロッテ選手の見事な秘打により勝ち越しを決めました。しかし試合はまだ始まったばかり。ここからどう挽回するか、期待しましょう』

『それでは両チームのメンバーを紹介しまァす!』


 黒乃チーム。

 1、ピッチャー メル子

 2、キャッチャー 黒乃

 3、ファースト 鏡乃みらの

 4、セカンド 黄乃きの

 5、サード 紫乃しの

 6、ショート フォトン

 7、レフト FORT蘭丸

 8、センター ルビー

 9、ライト アンテロッテ

 10、リベロ マリー

 11、ゴール下 美食ロボ


 マヒナチーム。

 1、ピッチャー マヒナ

 2、キャッチャー ノエノエ

 3、ファースト マッチョメイド

 4、セカンド ゴリラロボ

 5、サード 大相撲ロボ

 6、ショート チャーリー

 7、レフト ビカール三太郎

 8、センター マッチョマスター

 9、ライト モンゲッタ

 10、キーパー 黒メル子

 11、ゴール下 美食ロボ



 二回の裏。5ー2。


『打席に立つのはマッチョマスター選手ゥ! 最強パワーを誇る筋肉に対してメル子選手はどんな球を投げるのかァ!?』

『ここは変化球で攻めるのがいいでしょう。おや? キャッチャーの黒乃選手はなぜか丸メガネの上からグラサンをかけていますね?』


「われ ほーむらん うつ」

「させません! でぇぇぇぇい! サンライトボール!」


 メル子はボールを投げるのと同時に目から強烈な光を放った。目が眩んだマッチョマスターのバットは盛大に空を切った。


『三球三振だァ!』

『見事な魔球です』


「こら審判! 反則だろ!」マヒナは食ってかかった。しかし審判ロボは首を左右に振るばかりだ。


『次の打者は小熊ロボのモンゲッタだァ!』

『とても可愛いですね。バットを振れるのでしょうか?』


 青と白の宇宙服を着たモンゲッタは打席でバットにじゃれついて遊んでいるようだ。


「メル子! バットが重くて振れないから高めを攻めていこう! メル子?」


 しかしメル子はマウンドに膝をついてプルプルと震えていた。


「うう……ワトニーには投げられません」

「トラウマを刺激されてへこたれてる!」


 結局申告敬遠でモンゲッタは一塁に進んだ。


『とうとうきましたァ! 次の打席は黒メル子選手でェす!』

『夢のメル子VS黒メル子が実現しました』


 会場が割れんばかりの歓声に包まれた。


「黒メル子! どちらが本当のメル子か、白黒つける時がきましたね!」

「うふふ、勝負です!」


 メル子は鋭いボールを投げ込んだ。内角を抉るような投球に無理矢理バットを合わせようとしたため、黒メル子は勢い余ってひっくり返った。


「きゃん!」

「黒メル子ォ!!」


 黒乃はマスクを投げ捨て黒メル子に駆け寄り抱き起こした。


「黒メル子! 大丈夫!?」

「いたた。大丈夫です、ご主人様」


 黒メル子は潤んだ瞳で黒乃を見つめた。


「……」

「……」

「いつまで見つめ合っていますか! ご主人様! 早く次のサインをください!」


 黒乃は再び内角を要求した。メル子は完璧なコントロールで内角に投げ込んだ。無理な体勢でバットを振った黒メル子は、再び地面に転がった。


「きゃん!」

「黒メル子ォ!!」


 黒乃はマスクを投げ捨て黒メル子に駆け寄り抱き起こした。


「……」

「……」

「何回同じことをしますか!」


『動揺したメル子選手。制球が乱れてフォアボールで終わりましたァ!』

『茶番が長いですね』


 いよいよ美食ロボが打席に立った。謎の緊張感が球場を満たした。


「おい、美食ロボ! お前うちのチームでしょうよ!」

「ご主人様! メンバー表をよく見てください! 美食ロボはどちらのチームにも所属しています!」

「そんなバカな!?」


 美食ロボは悠然とバッターボックスで構えている。


『メル子選手、投げましたァ! ストライーク!』

『ど真ん中を見送りましたね』


「どうした美食ロボ! メル子の球に手も足も出ないか!?」

「審判、このストライクは本物か?」


「ストラーイク!」審判ロボは改めて宣言した。


「ほほう? では教えてくれ。本物のストライクとはなんなのだ?」

「え!? それは球がストライクゾーンを……」

「ふうむ、ストライクゾーンか。そもそもストライクゾーンとはなんなのだ? ホームベースの上がストライクゾーンなのか? インドにもストライクゾーンはあるのか? ストライクが本物と言ったからには答えてもらおう。まず第一にストライクゾーンとはなにか?」


「え、ええ!?」審判ロボはガタガタと震え出した。


「ストライクゾーンの定義もできないくせにストライクとはおかしいじゃないか」

「ボール! フォアボール!」


「なんでやねん!」黒乃は仰向けにひっくり返った。


『ああ! 判定が覆りましたァ!』

『美食ロボの権力はルールに勝ります』


 打者が一巡したマヒナチームは再びマヒナが打席に立った。


『5ー2でワンナウト満塁ィ! 逆転のチャンスに強打者マヒナ選手の登場だァ!』

『黒乃チーム最大のピンチです。どうにか凌いでほしいですね』


「タイムですの」


 マリーがベンチから進み出た。


「追加投手アンテロッテですの」

「追加投手ってなに!?」


『メル子選手に加わりまして、アンテロッテ選手が追加されまァす!』

『ロボット野球のオリジナルルールで、マウンドに二人立つことができます』


 思いもよらぬダブルメイドロボピッチャーに客席が沸き上がった。


「メル子さん! タイミングを合わせていきますのよー!」

「アン子さん! わかりました!」

「二人まとめて場外へ吹っ飛ばしてやる! こい!」


 マヒナも打つ気満々だ。メル子とアンテロッテは背中合わせになり、高々と足を天に向けて伸ばした。


「「レインロボースパークボール!」」


 二人は完璧なタイミングでボールを放った。二筋の光が絡み合うかのようにしてマヒナに襲いかかる。


『ああァ!? なんだァ!? ボールが二つに分身して見えるぞォ!?』

『というか実際二つの球を投げています』


 するとマヒナは背中からバットを引き抜いた。右手にバット、左手にバットだ。


『どこにバットを隠し持っていたァ!?』

『大谷も真っ青の二刀流です。ボールが二個ならバットも二本。考えましたね』


 マヒナは二本のバットを渾身の力を込めて振った。それは見事に二つのボールの芯を捉えた。


「うおおおおお! ムーンライト打法!」


 マヒナは二本のバットを振り抜いた。二つのボールは宇宙を目指し、月まで届くが如き勢いでロケットのように飛んだ。


『あああああァ! 打ちましたァ!』

『場外満塁ホームランです。しかもボールが二つなのでホームランも二つ、つまり一気に五点追加されました』


 観客の大声援に送られてマヒナはホームベースを踏んだ。メル子とアンテロッテはがっくりとマウンドに膝をついた。



 三回の表。5ー7。


『三回の表ェ! 打席が一巡しましてメル子選手からのスタートでェす!』

『大丈夫でしょうか? 先程の満塁ホームランから立ち直れていないようです』


 メンタルがズタボロのメル子はマヒナの豪速球の前にあっさりと撃沈。青い顔で打席を後にした。


「メル子! ご主人様が必ず打つから安心して!」

「ご主人様……お願いします!」


『さあ、黒乃選手ゥ! 巨大なケツをクネクネと揺らしながら構えに入ったァ!』

『一回はケツにデッドボールを喰らってバットを振ることもできませんでした。挽回を期待しましょう』


「黒乃山! 今度こそ勝負だ!」

「おうよ! 決着をつけよう!」


 マヒナは160km/hの豪速球をぶん投げた。その球は寸分の狂いもなく黒乃のケツに炸裂した。


「ぎょあああぁぇえええええ!」

「あ、黒乃山。すまん」


 ケツに球を受けた黒乃は転げ回って悶えたのち、動かなくなった。


「ご主人様ー!」

「クロちゃん!」

「黒ネエ!」


 ベンチからメル子達が一斉に飛び出した。


「ご主人様! 大丈夫ですか!?」

「……すぞ」

「どうしました?」

「ロボすぞ〜〜〜〜!!!」

「ロボすぞ!?」


 黒乃は起き上がるとマヒナに向かって駆け出した。その鬼の形相に流石のマヒナもたじろいだ。


「黒乃山! 違うんだ! わざとではない!」

「二打席連続デッドボールでなにがわざとじゃないんじゃい!」

「いや、そうじゃないんだ! ケツがデカすぎて的かと思っただけだ!」

「ロボすぞ〜〜〜〜!!!」


 両陣営のベンチから選手達がマウンド目掛けて殺到した。


『ああァ! 乱闘でェす! 両陣営入り乱れての乱闘でェす!』

『皆で黒乃選手を止めようとしていますが止まりません』


 突然の乱闘に俄然盛り上がる客席。大相撲パワーを発揮して群がる選手達をちぎっては投げちぎっては投げする黒乃。その勢いはとどまることを知らず、ノエノエを捕まえると必殺のさば折りで締め上げた。


「フンフンフン!」

「こら黒乃山! ノエノエを離せ! ノエノエは関係ないだろ!」

「フンフンフン!」

「クロちゃんだけずるい!」

「黒ネエ! 加勢します!」

「ぐへへ、黒ネエ。私も〜」

「うぁぁぁああ!」


 黒ノ木四姉妹のさば折りでノエノエは昇天した。


『え〜、乱闘が収まらないようなので、これで本日の試合は終了となりまァす』

『5ー7におっぱいポイント二百点、百合ポイント百点を加えて、305ー7で黒乃チームの勝利です。双方既存の野球の枠に収まらない自由な発想での素晴らしい戦いでした。野球は誰がなんと言おうとチームワークのスポーツです。個がチームを助け、チームが個を助けます。彼女達の仲間を思う美しい心が美しい試合を生み出したのです。この心を胸に今後のスポーツの発展を祈りたいと思います』

『ギガントメガ太郎先生、ありがとうございましたァ! それでは皆さんごきげんようォ!』


「ロボすぞ〜〜〜〜!!!」

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