第243話 登場人物紹介です! その一

 ここは浅草市民娯楽の殿堂『浅草演芸ホール』。

 落語の寄席よせ、漫才、コント、マジック、曲芸。あらゆる演芸を楽しめる老舗劇場だ。本日もこの浅草演芸ホールは満員御礼、熱気に満ち溢れていた。


黒「はい〜! 皆さん、こんにちは〜!」

メ「わーわーわー! おはようございますー!」


 高座に白ティー丸メガネ黒髪おさげの女性と、赤い花柄の和風メイド服のメイドロボが現れた。客席からの大きな拍手で二人は迎えられた。


黒「さあ、始まりました。『うちのメイドロボがそんなにイガイガ栗生活してくれない』のイベントがやってまいりました!」

メ「ご主人様! 『うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない』です! タイトルを間違わないでください!」

黒「ああ、そう。長いから忘れちゃうんだよね」


 客席にどっと笑いが巻き起こった。


メ「ご主人様! 今日はどのようなイベントなのでしょうか!?」

黒「今日はね、登場人物紹介をするイベントです!」

メ「登場人物紹介!?」

黒「ほら、この作品も二百五十回を目前にして相当登場人物も増えてきたでしょ」

メ「確かに、正直誰が誰やらって人も多いのではないかと思います!」

黒「そんだからね、ここらで一度、情報を整理しようってことですよ」


 客席から再び拍手が巻き起こった。


メ「いや、待ってくださいよご主人様」

黒「どしたん?」

メ「連載の途中で登場人物の紹介をする回を挟むというのは、まあよくあることですよ」

黒「うん」

メ「でもそういう回というのは大抵なんといいますか、箸休め的な、筆休め的な回ではないですか」

黒「確かに」

メ「箇条書きでずらずらと設定を並べればいいのではないですか? わざわざ浅草演芸ホールを貸し切る意味がありますか?」

黒「ふんふん……この作品にそんな常識が通用するわけないでしょ!!!」

メ「うるさっ!」


 マイクがハウリングを起こし、客達は耳を塞いだ。


黒「登場人物紹介にも鬼の形相で挑むのがこの作品でしょ!!!」

メ「マイクを持って全力で叫ばないでください。わかりましたよ。ではやりましょうよ」

黒「じゃあ早速いこうか! イカれた野郎ども! 出てこいや!」


 ズンチャズンチャズンチャズンチャ

 ズンチャズンチャズンチャズンチャ

 

 軽快なリズムと共に、舞台袖から大勢の出演者が現れた。皆それぞれポーズを決めて歓声に応える。高座の隅から隅までを埋め尽くし、それでも足りずに何列にもなってしまった。


黒「すげえ多いよ!」

メ「多いですね! 床のバミリも役に立ちません!」

マ「これ多すぎますのよ」

ア「少しリストラした方がよろしいんではなくてー?」

マア「「オーホホホホ!」」

黒「こらこら、なんてことを言うのさ」

メ「さあ、ご主人様! どうやって登場人物紹介をしますか!?」

黒「ふふふ、もちろん自己紹介じゃい!」


 この言葉に壇上の出演者たちがざわめき始めた。


マ「待ってくれ、黒乃山。話が違うぞ」

ノ「そうです。事前の打ち合わせでは司会のアナウンサーが設定を読み上げてくれることになっていたはずですが」

黒「甘ったれたらイカンでよ!!!」

メ「うるさいです!」

黒「自分の紹介は自分でやるのがスジでしょ!!! あとアナウンサーは予算の都合で呼んでいません!!!」

メ「わかりました! じゃあもうケツがあるのでさっさと始めましょう!」


 ホールが大きな拍手に包まれた。出演者たちは一旦退場して自分の出番を待つ。高座には黒乃、メル子、マリー、アンテロッテの四人が残った。



 ——黒ノ木黒乃くろのきくろの


メ「さあ! 最初の登場人物はもちろん、我らが主人公、黒ノ木黒乃です!」

黒「あ、ども、あの、あ、黒ノ木黒乃です。あ、主人公なんですけど、あの、あ」

マ「急にしどろもどろになりましたの」

ア「さっきまでの威勢はどこにいきましたの」

メ「大勢の人の前でかしこまって話そうとすると急に話せなくなるあの現象です!」

黒「あの、二十代、女性、人間。身長はめちゃ高いです。メイドロボを、あの、どうしても買いたくて頑張ってお金を貯めてメル子を買いました。あ、尼崎出身で高卒で、今はボロアパートの二階に住んでいます。長女で妹があの、三人います。最初はゲーム会社で働いていたんですけど、あれ? クビになったので自分でゲームスタジオ・クロノスを起業しました。あ、社長です。好きなものはメイドロボとおっぱいで、その中でも一番好きなのがメル子で、あ、得意技はさば折りで、あと動物ロボと会話もできます。あの……」

メ「ご主人様!」

黒「え? なに?」

メ「長いです!」

黒「ああ、そう」



 ——メル子。


メ「メル子です! 世界一の美少女メイドロボで、去年生まれたばかりの18歳です。八又はちまた産業で生産されました。ご主人様は黒ノ木黒乃です。背は低めで金髪ショートカットのアイカップがチャームポイントです。得意技は家事炊事で、特に南米料理は世界一だと自負しています! 浅草寺の仲見世通りに『メル・コモ・エスタス』という南米料理店を経営しています!」

黒「おお〜、いいね〜。でも一番大事なことを忘れているよ」

メ「大事なこと? なんですか!?」

黒「ご主人様のことが好きで好きでたまら……」



 ——マリー・マリー。


マ「オーホホホホ! マリーと申しますわー! おフランスからやってまいりました中学二年生でございますのよー! 金髪縦ロールがトレードマークですわー! マリー家の令嬢で、人間離れした美貌と才能を併せ持つチートキャラでしてよー!」

黒「自分で言ってらあ」

マ「姉にアニーがいますのよー! お姉様を追いかけてメイドロボのアンテロッテと共に浅草にやってまいりましたのよー! なるべく自分の力で生きていくために、マリー財閥のお屋敷ではなく、ボロアパートでアンテロッテと二人で暮らしていますのよー! 黒乃さんのお部屋の真下ですわー! ことあるごとに黒乃さんに行動を被せていってお出番を奪おうとする厄介勢ですのよー!」

ア「さすがお嬢様ですの」



 ——アンテロッテ。


ア「オーホホホホ! マリーお嬢様のメイドロボ、アンテロッテでございますわー! 金髪縦ロールがトレードマークですのよー! 背は高めでGカップですわー!」

黒「うひょー!」

ア「クサカリ・インダストリアル製のロボットで、アニーお嬢様に瓜二つでございますのよー! マリーお嬢様命の、お嬢様を溺愛する、お嬢様のためのメイドロボですのよー! メル子さんとは親友ですけれど、犬猿の仲でもありますわー! 仲見世通りに『アン・ココット』というフランス料理の出店を運営していますわー! ぜひ食べにきてくだしゃんせー!」

マア「「オーホホホホ!」」



 ——黒メル子。


闇「黒メル子です。メル子に瓜二つですが、黒いメイド服を着ています。Aカップです」

黒「Aカップでも可愛い!」

闇「変態博士であるニコラ・テス乱太郎によって作られました。メル子のバージョン違いのAIをインストールされているので、実質本物のメル子です。現在はボロアパートの地下の謎の施設で暮らしています。いずれご主人様を自分のものにするために、国家転覆を企んでいます」

黒「ヒェッ」



 ——アニー・マリー。


ア「マリーの姉のアニーですわー!」

マ「お姉様ですのー!」

ア「わたくし、メイドロボのアンテロッテにそっくりでしてよー! 区別がつきませんのよー!」

黒「逆ね、アンテロッテがアニーに似てるのね」

ア「日本に留学にきて、マリエットと上野に住んでいますのよー! 女子高生ですわー!」

黒「女子高生だったのか! それにしては色気があるなあ」

ア「足首が弱点ですわー!」



 ——マリエット。


マ「アニーお嬢様のメイドロボのマリエットですのよー!」

メ「可愛いです!」

マ「わたくしはマリーお嬢様に瓜二つに作られていますのよー! 区別がつきませんのよー!」

黒「この世界では子供型ロボットは珍しいんだよな」

マ「マリーお嬢様の成長に合わせてボディを換装いたしますわよー!」

アマ「「オーホホホホ!」」



 ——マヒナ。


マ「やあ、みんな。ハワイから来たマヒナだよ。褐色肌とクールなショートヘアがトレードマークだ」

黒「ハワイっていっても月のハワイ基地ベースだけどね」

マ「その通り。アタシは元々月の住人。ハワイ基地の女王なんだ。今は宿敵アインシュ太郎を探して地球に来ているというわけさ」

黒「……」

メ「……」

マ「得意技は『更生』。ロボットの顔面に拳をめり込ませることで、社会不適合ロボを更生させることができるのさ。ちなみに人間だけど、体を改造して戦闘力を高めたサイボーグなんだ」

黒「かっけぇ!」

マ「黒乃山には何度も助けてもらったし、そのバイタリティとメンタリティは尊敬もしている。勝手にライバルだと思っているよ」

黒「でへへ」



 ——ノエノエ。


ノ「マヒナ様のメイドロボのノエノエです。ノエ子と呼んでください」

黒「うひょー!」

ノ「マヒナ様と同じ褐色肌と、ナース服ベースのメイド服が自慢です。イズモ研究所製のロボットです。MHN29というマヒナ様のメイドロボ軍団の一員で、戦闘タイプのメイドロボなので腕っぷしでは誰にも負けません。得意な料理はハワイ料理のラウラウです。マヒナ様と共に月に連邦政府を作るために日々戦っています」

メ「頑張ってください!」



 ——黒ノ木黒太郎くろたろう


父「ハハハ、黒乃の父の黒太郎です」

黒「父ちゃん!」

メ「口髭が素敵なダンディなお父様です!」

父「うちは丸メガネ工場をやっているんだよ。世界のクロノキメガネだね〜。うちの丸メガネは日本の丸メガネシェア九割を占めているんだよ。ハハハ」

マ「親娘揃って社長なんですのね」



 ——黒ノ木黒子くろこ


母「うちは黒乃の母の黒子やで」

黒「母ちゃん!」

メ「ご主人様と同じ身長のお母様!」

母「うちは大阪出身やね。父ちゃんの丸メガネに一目惚れして尼崎に嫁いできたんよ」

父「ハハハ、母さん。一目惚れは私も同じさ」

母「やだもー! 父ちゃんってば!」

メ「こんな大勢の前でイチャイチャしています!」

ア「いかにもな大阪のおばちゃんですわ」



 ——黒ノ木黄乃きの


黄「黒ノ木黄乃です。黒ネエの妹で次女です。白ティー黒髪おさげ丸メガネが特徴です。背は黒ネエより少し低いです。メイドロボが大好きです」

メ「黄乃ちゃんは高校を卒業して尼崎の大学に入ったのですよね」

黄「はい! ロボット工学を勉強してメイドロボ関連のお仕事に就きたいです」

黒「偉いなあ」

黄「性格は黒ノ木姉妹で一番まともと言われています。学校ではすごくモテます」

メ「背が高いからですね!」



 ——黒ノ木紫乃しの


紫「黒ノ木紫乃です。黒ネエの妹でいらない子のサードです」

メ「なぜそんなに自虐ですか!?」

紫「メイドロボが大好きな高校生で、白ティー丸メガネ黒髪おさげが特徴なのだ。背はきーネエより少し低い。四姉妹では一番陰キャと言われている。でも学校ではめちゃモテる、ぐふふ」

メ「背が高いからですね!」



 ——黒ノ木鏡乃みらの


鏡「黒ノ木鏡乃です! 中学生です! 尼崎から来ました! 中学生です!」

黒「鏡乃は元気だなあ」

鏡「クロちゃんの妹で末っ子です! メイドロボが大好きなので、将来はメル子をお嫁さんにしたいです!」

メ「自分でメイドロボを購入してください!」

鏡「学校では結構モテます! 背はしーちゃんより少し低いです!」

マ「四姉妹が似すぎていて区別がつきませんの」

ア「お嬢様ー! 身長で見分けをつけるのですわー!」


 パチパチパチパチ。鏡乃が舞台袖に引っ込むと盛大な拍手が巻き起こった。



メ「ご主人様! お知らせがあります!」

黒「ほうほう、なんでしょ」

メ「一話分の目安である、五千文字を超えそうです!」

黒「なぬ!? まだ全然紹介が終わっていないんだけど?」

メ「尺がまったく足りません!」

黒「しょうがない。前後編にするぞ!」

メ「ええ!?」

マ「この話、次回も続くんですの?」

ア「大丈夫なんですの?」

黒「やると言ったらやる! 次回もお楽しみに!」


 パチパチパチパチ。

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