第201話 ロボチューブ感謝祭です! その三

 パチパチパチパチパチ。

 まばらな拍手が浅草演芸ホールに響いた。


「あ、はい、はい、さあ。あ、最終話を見ていただきましたけれども」


 ステージに黒男くろおが現れた。


「良かったですのー!」

「感動しましたのー!」


 ステージにマリ助まりすけとアンキモが現れた。


「……」


 ステージによたよたとふらつきながらメル蔵めるぞーが現れた。


「あ、最終話を見ていただきましたが、皆さんいかがだったでしょうかー?」


「えー……」

「いや、感動はしたけれども」

「ナニコレ」

『まじで泣いた』

『これ放映して大丈夫だったの?』

『会場ドン引きじゃんwww』


「うわぁぁぁあああああ!」


 突然メル蔵がステージの床に突っ伏して泣き出した。


「うわっ、どうしたのメル蔵」

「うわぁぁぁああああ! ご主人様がぁああ! ご主人様が死んでしまいましたぁぁぁああ!」

「はっはっはっは」


 黒男は手を叩いて喜んだ。


「ワロてる!? 自分が死んだのにワロてます! どういうメンタルなのですか!」

「まあまあ、ご主人様は人間だからね。そりゃいつかは死ぬでしょ」

「それはそうですけれども! ヒック! アフン!」

「それよりも私はメル蔵が元気でいるのがわかってほっとしたよ」

「私のことはどうでもいいのですよぉおおお! うわぁぁぁああああ! ヒック!」

「メイドロボ愛がすごすぎますの……」

「度を越してますの……」


 黒男は床に倒れ込んだメル蔵を引っ張り起こした。


「ほらほら、しっかりして。ご主人様が死ぬのはまだ何十年も先の話なんだから」

「あのしらたき様って子は誰なのですか!? 全く知らない人ですよ!」

「しらゆきね。私だって知らないよ。まだ生まれてもいないし」

「知らない人には仕えたくないですよぉおおお! ウェップ!」

「私だって最初は知らない人だったでしょが」


「メル蔵ー! しっかりー!」

「メル蔵ー!」

『あーあ、ガチ泣きじゃん』

『まあこうなるのは無理もないwww』


「うわぁぁぁぁああ! だいたいなんですかお嬢様たちも! なんで冒険家なんてやっているのですか!」

「急に矛先がこっちに向きましたの」

「八つ当たりですの」

「お嬢様と冒険家にはなんの関連性もないではないですか! 木星になにをしにいったのですか! あんな惑星、ろくなものがないでしょう!」

「そんなことを言われても困りますの」


「www」

「メル蔵ー!」

『そこは別にいいだろwww』

『二十三世紀には人類は木星に住んでいるのか』 


「はいメル蔵、しっかりして! 次のコーナーいくよ!」

「……」

「デュルルルルルル、デン!ですの」

「お料理対決〜!」

「パフパフパフ!ですの」


「パチパチパチパチパチ」

「わー!」

『このテンションでできるのかwww』

『メル蔵がんばれ!』


「あ、はい、ではね、あの、ここでシークレットゲストをお呼びしていますからね」

「……え?」


「おおおおお!?」

「シークレットゲスト!?」

『まじかよ』

『誰!?』


「皆さんこんにちは。丸メガネ愛好家の黄豚きーとんです」


 ステージに白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた少女が現れた。


「あ、ども、丸メガネ愛好家の紫豚しーとんです」


 ステージに白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた少女が現れた。


「尼崎から来ました、丸メガネが大好きな鏡豚みらとんです! 尼崎から来ました! 中学生です!」


 ステージに白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた少女が現れた。


「きたあああああwww」

「わあああああああ」

『まじかよwww』

『四姉妹きたwww』


 三人はメル蔵に群がった。


「メル蔵さん!」

「メル蔵〜」

「メル蔵ー! 会いたかったよー!」

「皆さん、来ていたのですか!? ちょっ……どこを触っていますか!」


「即セクハラwww」

「もみくちゃwww」

『豚どもwww』

『賑やかになってきたな』


「皆さん、どうしてそんなに元気一杯なのですか? ご主人様が死んでしまったのですよ!?」

「いや、まだ死んでないけど」


 三人は口々に言った。


「メル蔵さん、黒ネエは死んで当然の人なんです」

「ぐっふっふ、婆さんになるまで生きられたのが奇跡」

「クロちゃんは思い出の中で生きてるから!」

「皆さん……」

「死んでないからね」


 スタッフがテーブルとホットプレートをステージに運んできた。手早く調理器具と食材を並べた。


「あ、この料理対決はね、私達四姉妹がですね、料理をして誰が一番美味しいかを競う対決でね、ございますよ。審査員はね、メル蔵とマリ助とアンキモにやってもらいますからね」

「マリ助にお任せですのー!」

「どんときやがれでござんすわー!」

「あ、私も審査員なのですか!? ちょっとスタッフー! 打ち合わせと違うではないですか!」

「ごめんなサイ!」


 四姉妹はエプロンを装着してテーブルの前に立った。


「パチパチパチパチパチ」


「あ、じゃあね、今回はお好み焼きで対決しますからね。あの、オリジナルお好み焼きでね、ほら、うちらは関西人だから。お好み焼きを焼きますよ。幼い頃からね、家で、あ、お好み焼きをお好んでいますから。あ、お好み焼きは大阪風と広島風とありますけどね、やっぱりね、あの、ご主人様は、」


『はよ焼け』

『このメガネ無駄に話が長いんだよな』


「じゃあいくよ! 黄豚きーとん!」

「はい!」

紫豚しーとん!」

「おう」

鏡豚みらとん!」

「なあに?」

「調理スタート!」


 四人は一斉に調理に取り掛かった。


『さあ、始まりましたァ。お好み焼き対決でェす。実況は私、エルビス・プレス林太郎でお送りしまァす。そして解説はこの方ァ』

『皆さんお久しぶりです。おっぱいロボのギガントメガ太郎です』


『実況解説付きwww』

『出たがりの作者www』

『未だにおっぱいロボの意味がわからんwww』


『おっとォ、四人ともまずはキャベツを刻むようでェす!』

『お好み焼きのキモはキャベツにあります。結局のところ、お好み焼きとはキャベツを食べるものですからね』


 黒男、黄豚、紫豚は軽快にキャベツを刻んでいるが、鏡豚は包丁さばきがおぼつかないようだ。


「ああ! 危ないです!」


 メル蔵が慌てて鏡豚に駆け寄り包丁を取り上げた。


「硬い部分を千切りにしようとしてはいけません。芯を先に取り、葉を丸めてから切るのです!」

「メル蔵〜、自分でできるから〜」


『さあ、次は生地作りだァ! それぞれ薄力粉に卵と水を入れ溶いていくゥ!』

『四人それぞれ生地のレシピが違うようですね』


「ふふふ、ご主人様は王道の山芋を入れる。出汁は顆粒タイプので十分」

「私はお水の代わりに牛乳を入れて味わいを出します!」

「うぷぷ、私はこれが隠し味だ」


 鏡豚は生地になにやら入れようとしている。またもやメル蔵が慌てて駆け寄った。


「鏡豚ちゃん! なにをしていますか!?」

「えへへ、お味噌を入れる」

「お味噌!? お好み焼きにお味噌!? やめてください!」

「大丈夫だから〜。メル蔵はあっちいって〜」


『お節介www』

『心配性のママかな』

『鏡豚がんばれ』


『いよいよ焼きに入りまァす!』

『お好み焼きの味の決め手は焼きです。いくらいい材料を揃えても焼きがダメなら失敗作になってしまいます』


 四人は十分に温まったホットプレートに生地を流し込んだ。


『おやァ? 黒男の生地は生地というよりもキャベツの千切りにしか見えないぞォ!』

『これはお好み焼きの名店「ロボくま」のお好み焼きですね(第70話参照)。キャベツに対して極端に生地が少ないのが特徴です』

『なんだァ!? 次女黄豚のお好み焼きはお好み焼きというよりホットケーキだァ!』

『生地がパンパンに膨らんでいます。お菓子でも作っているのでしょうか』

『ああァ! サード紫豚の生地は真っ赤だァ!』

『どうやらハバネロソースを入れたようです。審査員の皆さん南無阿弥陀仏』

『四女の鏡豚はァ……生地を薄く伸ばして、焼いた麺を乗せたァ!』

『これはまさかの広島風のお好み焼きですね』


 ジュージューという音と共に香りが浅草演芸ホールに広がった。


「はらへったー!」

「食わせてくれー!」

『おおおおお』

『結構うまそうwww』


『さあ、各々焼き上がりましたァ! 黒男のお好み焼きから試食でェす!』

『一見すると普通のお好み焼きに見えますね』


「いただきますの。ほむほむ。ふわっふわですのー!」

「生地を噛む食感はなく、キャベツのシャキシャキ感だけを感じるお好み焼きですのー!」

「生地が少ないロボくまのお好み焼きがよく再現できています! これぞまさに飲めるお好み焼きです!」


『これはかなり好評だぞォ!』

『次は黄豚のお好み焼きだァ!』


「どこからみてもホットケーキにしか見えないですの。ナイフとフォークで食べますの。はむはむ。甘いですのー! 上にかかっているのはおソースではなくてハチミツさんですのー!」

「味はホットケーキに近いですの。ベーキングパウダーが入っていますのね。でも食感はシャキシャキキャベツでお好み焼き調ですの」

「これはお菓子風味のお好み焼きでおやつとして最適です! 楽しいお好み焼きです!」


『次は紫豚の真っ赤なお好み焼きだァ!』

『ハバネロソースがどう転ぶか見ものです』


「わたくし、お辛いのは苦手でしてよ。ほむり。辛いですわー!」

「一口齧ったら中からなにか出てきましたわー!」

「これは? 豆腐です! ハバネロで辛く味付けされた麻婆豆腐です! 豆腐のなめらかさとトロリとした食感が辛さをマイルドにしてくれています!」


『意外にも好評だァ!』

『最後は鏡豚の広島風お好み焼きです。味噌を入れていましたが、はたして?』


「中におソバが入っていますのね。広島風は初めていただきますわ」

「しかもこのおソバは焼きそば用のものではなくてラーメン用のものでごじゃんすわー!」

「そして麺にとろとろの餡がまとわりついています。これは? 味噌味の餡です! そうです! これは味噌ラーメン焼きです!」


『なんだァ!? 奇想天外なお好み焼きのオンパレードだァ!』

『どれも素晴らしいアイディアでした。ただいま審査員が採点を行っているようです』


「それでは勝者を発表しますの」

「デュルルルルルルル、デン!ですの」

「勝者黒男さんですの!」

「パフパフパフ!ですの」


「わああああああああああ」

「パチパチパチパチ」


 妹達はずっこけた。


「どうして黒ネエなんですかー!」

「賄賂だ〜賄賂を使ったんだ〜」

「クロちゃんが一番普通だったのに〜」

「では解説します。普通に考えてお好み焼きの名店『ロボくま』のお好み焼きに勝てるはずがありません。勝負は最初からついていました」

「フハハ! フハハハハハハ! 見たか小娘ども! これが勝利のメソッドだあ! フハハハハ!」


『黒男www』

『パクリで勝ったwww』

『ほんとクソメガネ』


 納得がいかない妹達は黒男を床に押し倒して代わる代わるケツで黒男の顔を押しつぶした。


『さあ、まだまだ感謝祭は続くぞォ! 次のコーナーはプレゼント抽選会だァ!』

『彼女達の私物が当たります。自分の座席番号をよく確認の上お待ちください。ロボチューブを見ている方にも当たりますのでハッシュタグ「#ご主人様感謝祭プレゼント応募」とコメント欄に打ち込んでください』


『#ご主人様感謝際プレゼント応募』

『#御主人様感謝祭プレゼント応募』

『#ご主人様感謝祭プレゼント公募』

『#ご主紐様感謝祭プレゼント応募』

『#ご主人様懺悔祭プレゼント応募』

『#ご主人様感謝祭プレジデント応募』

『$ご主人様感謝祭プレゼント応募』


 こうして『うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない連載二百回記念。ご主人様チャンネルスペシャル感謝祭』は大盛況のうちに幕を閉じた。

 今後も愉快なご主人様と可愛いメイドロボ達の活躍をご期待ください。

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