第198話 ロボチューブ感謝祭です! その一

「あ、さあ始まりました。あ、始まりました。始まりまして始まりました、あ」


 ステージに白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた女性が登場した。


「きたーwww」

「でけーwww」

「待ってたぞー!」

「この人、おとこ?」


 人で埋め尽くされた会場から歓声があがった。


「あ、どうも皆さん。『ご主人様チャンネル』の黒男くろおです。あ、ねっちょりねとねとさん、よろしくお願いしますよ。あ、飛んで平八郎さん、今日は会場までね、来てくださったのですね。あ、わんぱく爺さん、女ですよ女。見たらわかるでしょ」

「皆さん初めまして! 助手のメル蔵めるぞーです!」


 ステージに頭に紙袋を被り、赤い和風メイド服を纏ったメイドロボが現れた。


「きたあああああ!」

「うおおおおおお!」

「メル蔵ーーーー!」

「あああああああ!」


 会場が割れんばかりの歓声で包まれた。


「皆さーん! 会場でお会いできてとても幸せでーす!」


「メル蔵ーーーーーー!」

「デカすぎwww」

「うひょーーーーー!」

「めちゃかわwww」


「いや、すごい歓声ですね。さあ始まりました『ご主人様チャンネルスペシャル感謝祭』、ここ浅草演芸ホールからお送りしますよ。あ、ロボチューブでの配信もしていますからね」

「配信で見ている方ー!」


『見てるぞー!』

『現地行きたかった( ; ; )』

『メル蔵ーーー!』

『チケット即完だったw』


「あ、この感謝祭はですね、『うちのメイドロボが言うほどイチャイチャ百合生活してくれない』の連載二百回をね、あの、記念して行われる特別イベントでね、ございますよ」

「ご主人様! 『うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない』です! 主役がタイトルを間違わないでください!」


『アホwww』

『ダメだこのメガネ』

『クソタイトルwww』


「さあ、ではね。あの、なんだ。今日はね、色んな企画盛り沢山でいきますからね。ビックリしますよ。じゃあ始めますか! メル蔵!」

「はい!」

「タイトルコールよろしく!」

「『うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない連載二百回記念。ご主人様チャンネルスペシャル感謝祭』始まります!」


(軽快なBGM)


 チャッチャッチャッチャ。

 チャッチャッチャッチャ。

 チャッチャッチャッチャ。

 パチパチパチパチパチパチパチパチ。


「はい! 改めまして、ご主人様チャンネルの黒男です」

「メル蔵です!」

「さあさあさあ」

「はいはいはい」


『www』

『始まった!』

『お前ら臭そうだな』


「いやー、どうですか」

「どうですか。なにがですか」

「この人人ですよ。浅草演芸ホールが満員でございますよ」

「ありがたいです!」

「チケットお高いのにねえ」

「いやらしいです!」


「ガチで朝から並んだ」

「買えてラッキーだったぜ!」

『ネットワーク販売分少なすぎ( ; ; )』

『もっと大きい箱は無かったの』


「あ、アーマード・ココアさん、今度はもっとね、あ、大きい会場でできるように頑張りますよ」

「ご主人様! 最初のコーナーにいきましょう! デュルルルルルルルル、デン!」

「プレゼントボックス対決〜!」

「パフパフパフ!」


「パチパチパチパチ」

「パチパチパチパチ」

『なにそれwww』

『プレゼントボックス?』


「あ、はい、これはですね。あの、会場の入り口にプレゼントボックスが設置されていたと思います。出演者ごとにですね、あの、箱が置いてあって、そこにみんながプレゼントを入れてくれるようになっているんですね」


「入れたぞー!」

「おてまみ入れたー!」

『そんなんあったのか』


「あ、そのプレゼントボックスのですね、誰が一番たくさんプレゼントを貰えたか、勝負ですよ! あ、プレゼントボックスは四個あったと思います。ご主人様とメル蔵とマリ助まりすけとアンキモですね」

「ご主人様! ゲストを紹介しましょう!」


「おおおおおおお!」

「くるーーーーー!?」

『ゲストか!?』

『ゲスト来たー!』


「あ、じゃあもうね、今日のゲストを紹介しましょう。まあ事前の告知で来ることはみんな知ってると思うけど。さあ二人ともいらっしゃーい!」

「オーホホホホ! 近所に住んでるマリ助ですわー!」


 ステージに金髪縦ロール、シャルルペロードレスのお嬢様が現れた。グラサンをかけている。


「オーホホホホ! 助手のアンキモですわー!」


 ステージに金髪縦ロール、シャルルペロードレス風のメイド服を着たメイドロボが現れた。頭から紙袋を被っている。


「きたああああああああ!」

「マリ助きたあああああ!」

「アンキモ! アンキモ! アンキモ!」

『お嬢様きたああああ!』

『待ってた!!!』


 今日一番の大歓声が轟いた。


「皆さん〜、今日は楽しんでいってくださいましねー!」

「生お嬢様を見られるなんて幸せ者ですわよー!」

「「オーホホホホ!」」


「めちゃかわwww」

「マリ助ー!」

『漫画のキャラかな』

『アンキモセクシー』


 ステージにテーブルが設置され、その上に四つのプレゼントボックスが並べられた。それぞれの箱には『黒男』、『メル蔵』、『マリ助』、『アンキモ』と書かれている。四人は自分のボックスの前に立った。


「あ、はい、ではですね。はい、箱の中からですね、一つずつプレゼントを取り出していきます。一番最後までプレゼントが残っていた人が優勝です」


「がんばれー!」

「ドキドキ」

『この企画大丈夫なのwww』

『なんかやばそうwww』


「一個目いくよ!」

「はい!」

「せーの!」


 四人は一斉に箱に手を突っ込んでプレゼントを取り出した。そして高々と手を掲げた。


「あった! お手紙だ! やった!」

「私は入浴剤です! やりました!」

「わたくしもお手紙ですのー!」

「わたくしはウニの瓶詰めですのー!」


「俺のだwww」

「ウニwww」

『ウニ入れたの誰だよwww』

『うまそうwww』


「ハァハァ、いやー、プレゼント貰えると嬉しいね。テンション上がっちゃうよ!」

「やりましたね、ご主人様!」

「では二個目いくよ! せーの!」


 四人は一斉に箱に手を突っ込んだ。


「今度は天然石鹸です!」

「わたくしはポエム集をいただきましたわー!」

「わたくしはエポキシ樹脂をいただきましたわー!」

「……」


「あ」

「やべ」

『え』

『嘘でしょ』


 黒男は呆然とした表情で突っ立っている。


「……」

「あの、ご主人様」

「黒男さん?」

「どうしますのこれ」


 その後も黒男を除く三人は次々とプレゼントを取り出した。黒男はその様子をぴくりともせず眺めた。

 最終的にプレゼントは三人同数となった。


「えー、ではこのコーナーを終わりたいと思います……」


『イベント会場冷え冷えじゃん』

『なんだよこれ』

『あーあ』


 するとスタッフが一つの箱を持ってやってきた。それを黒男の前に置いた。


「え? なにこの箱……」

「ご主人様、嘘ですよ! 箱を開けてみてください!」


 黒男は箱を開けた。中には様々なプレゼントが詰まっていた。


「これは……?」

「それがご主人様の箱ですよ! ちゃんと皆さんがプレゼントを入れてくださいました!」

「え? ドッキリってこと?」

「そうです!」


 会場から拍手が巻き起こった。


「えへ、えへへ。よかった。ありがとう。みんなありがとう」

「おめでとうですのー!」

「よかったですのー!」


『ドッキリかい』

『びびったー』

『よかったよかった』


「あれ? でも最初に出てきたこのお手紙は?」


 黒男は封筒をひらひらと動かした。


「開けて読んでみてください!」

「ええ? どういうこと?」


 封筒を開けると中から一枚の便箋が飛び出てきた。


「なになに、『拝啓ご主人様。メル子です』」


『連載二百回までもうじきですね。思えばここまで色々なことがありました。

 覚えているでしょうか? ご主人様と初めて出会った日のことを。私はボロアパートの小汚い部屋の前に立ち震えていました。私がお仕えする方はどのような人なのでしょう? どのような生活が待っているのでしょう? 不安でいっぱいでした。

 しかしメイドロボとしてそのような態度を見せるわけにはいきません。気丈で凛々しいメイドロボでなくてはならないのです。

 不安を片手で押しやり扉を開けました。扉の向こうにはなにものにも代え難い宝石のような日々が私を待っていました。その宝石は一つとして同じものはありません。同じ輝きのものはありません。

 覚えているでしょうか? 初めて二人で食べたお料理を。初めて二人で入ったお風呂を。初めて二人で行ったお買い物を。

 初めて、初めて、初めて。私にとっては全てのものが初めてなのです。私の初めては全てご主人様がくれたものなのです。

 私の人生は全てご主人様からの光り輝くプレゼントなのです。

 一体どうやったらこのプレゼントを返すことができるのでしょうか? 私はなにをご主人様に与えられるのでしょうか?

 わかりません。でもその答えはいつかわかると信じています。ご主人様にずっとずっと仕えていればその答えに辿り着けるのかもしれません』


「ぐおっ、ぐおっ! がふん! 『だからずっと私と一緒にいてくださいね。敬具』。ぶひひん! ぶひん!」


 黒男の丸メガネから大粒の涙がこぼれ落ちた。机に両手をつき、肩をプルプルと震わせた。

 会場のあちらこちらから啜り泣く声が聞こえてきた。


『あかーん、泣けるやないか』

『まさか、この二人に泣かされるとは』

『幸せになってくれー!』


 会場が暖かい拍手で包まれた。


「あふっ! おふっ! ありがとう、みんなありがとう。メル蔵!」

「はい!」

「メル蔵!」

「はい!」

「メル蔵ー!!」

「なんでしょう!!」

「大好き!!」

「私もです!!」


 二人はしっかりと抱き合った。


「えー、次のコーナーは『ご主人様ラジオ公開録音』ですの」

「お楽しみにしてくだしゃんせー!」


(軽快なBGM)

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