第186話 月は無慈悲なロボの女王 その九

「あ、はい、あ、はい、始まりました。『ご主人様チャンネル』の放送がね、始まりました」


 画面に白ティー黒髪おさげに丸メガネの上からグラサンをかけた女性が現れた。後ろではロボット牛達が昼寝をしている。


『始まったwww』

『久しぶり!』

『どこの牧場だよwww』


「助手のメル蔵めるぞーです!」


 画面に青い和風メイド服を纏い、頭に紙袋を被ったメイドロボが現れた。


『メル蔵ー! クソカワ!』

『でっかwww』

『やっぱメル蔵だわ』


「皆様ごきげんよう、近所に住んでるマリ助まりすけですわよー!」

「お嬢様の助手のアンキモですわよー!」

「「オーホホホホ!」」


 画面にドレスにグラサンをかけたお嬢様と、ドレス風のメイド服に紙袋を被ったメイドロボが現れた。


『マリ助かわえ〜』

『アンキモアンキモアンキモ!』

『今日はロボチャット無し設定なのか』


「あ、はい。いつものね、メンバーが勢揃いいたしました。ふふっ」

「ワロてますが」


『www』

『どしたw』

『www』


「ええ、あのですね、あの、今日は皆さん、なんとね、ふふ。我々月に来ています」


『月!?』

『ハワイじゃないの?』

『うそくせー』


「あ、皆さん疑いましたね? 本当なんですよ。ホラ、ホラ! あ、黒男くろおです」


 黒男はその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。


「ほらね。高く飛べるでしょう? 皆さん知ってました? 月の重力は地球の六分の一しかないんですよ」


『ガチじゃん』

『すげえ!』

『月旅行してるの?』


 黒男は調子にのって宙返りをした。しかし着地に失敗して頭から地面に落下をした。


「いでぇ!」

「ご主人様!」


 黒男はプルプルと震えながらようやく立ち上がった。


『なにしとるんwww』

『アホなんだろうかこの丸メガネ』

『重力少なくてよかったなw』


「なのでね、あの、月から配信しますのでね、あ、ラグがあるので。地球の皆さんのコメントは読めないかもしれませんよ」

「ハワイ基地で唯一のアンシブル通信機はレンタルできませんでした!」

「お貧乏ですのねー!」

「月の方達はラグなしで見られるのでご安心ください!」


 カメラが眼下のワイキキビーチを映した。


「ほら、あそこがね、ハワイ基地ベースのワイキキビーチですね。山の上から一望できますね。綺麗でしょう?」

「ご主人様! そろそろ今日の企画にいきましょう! デュルルルルルル、デン!」

「女王様を救出してみた〜」

「パフパフパフ!」


『!?』

『女王様!?』

『なにそれwww』


「あ、はい、あのですね、今、月では大変なことが起きていまして、あの、みんな働かなくなってしまったんですね」

「皆さん社会不適合ロボになってしまいました!」


『なんでwww』

『ニートwww』

『うらやま』


「あの、だからね、それを気合い入れにきた女王様がね、逆に捕まってしまったんですね」

「囚われの女王様ですのー!」

「はい、あ、だから女王様を助け出してですね、社会不適合ロボ達をもう、ギッタンバッタンバッコンにしてやろうと思いますよ」


 黒男達は牧場の牛舎の中に入った。一番奥の空の単房の地面を探ると扉が現れた。開けると地下へと続く階段が見えた。


「はい、ここがね、あ、秘密基地でございますよ」


『秘密基地www』

『やべえよ、何が始まろうとしてるの』

『相変わらずわけわからん放送だなw』


 黒男が階段を降りるとそこには巨大な空間が広がっていた。


「はい、見てください。どうですこの光景。ゲームみたいでしょう? 現実なんですよこれ」

「ご主人様!」


 その巨大な空間には赤い宇宙服を纏った大型猫型ロボットが大量に整列していた。


「あ、はい、これね、ミトラーニャンボットが百体あります。ほんとはギガントニャンボットを百体用意したかったんですけど、あれね、十八メートルもあるので地下の坑道に入らないんですね。あの、だから中くらいのサイズのね、五メートルのニャンボットをチョイスしましたよ」


『なんでこんなにあるのwww』

『戦争じゃんw』

『えぐい!』


「あ、このロボット達はですね、トーマス・エジ宗次郎博士の提供でお送りしますよ」


 カメラが整然と並ぶロボット達の隙間を縫って鳥のように飛んだ。


『カメラワークwww』

『なんなんこの演出w』

『大迫力』


「あ、女王様はね、月の地下の坑道に囚われていますのでね、このミトラーニャンボット百体で攻め込んでね、一網打尽にしてやりますよ、フハハハハハ! メル蔵!」

「はい!」

「ミトラーニャンボットの力を見せておやり!」

「はい!」


 メル蔵が手元のスイッチを押すと無人のミトラーニャンボット、略してミトニャンの一体が動き出した。


「オーホホホホ! わたくしがお相手しますわよー!」


 マリ助が別のミトニャンに搭乗して現れた。ギガントニャンボットと違いミトニャンは一人乗りだ。


 マリ助のミトニャンはブーストを使い滑るように走った。その勢いで無人ミトニャンに体当たりをかました。無人ミトニャンは床に倒れ何回も転がってからようやく停止した。


「必殺ミトニャンミサイルですのー!」


 マリ助の頭部が開き上空にミサイルが発射された。ミサイルはバチバチとスパークしながら無人ミトニャンに誘導され全弾命中でございます。


「どんなもんですのー!」

「さすがお嬢様ですわー!」


『あ〜あ、木っ端微塵だよ』

『破壊力やべえwww』

『ガチ兵器じゃん!』


 床にはスクラップになったミトニャンが無惨な姿をさらしていた。カメラはその様子を執拗に映した。


『正直引いた!』

『一体壊れたから九十九体になっちゃったじゃん』


「えー、一体壊れたのでね、九十九体のミトニャンでね、殴り込みをかけたいと思いますよ! フハハハハハハ!」


『アホwww』

『戦力の無駄遣いwww』

『どうしようもない貧乳だな』


「それでも圧倒的な戦力ですのでね、もう社会不適合ロボ軍団なんてチョロいもんですよ。なのでね、もう作戦を教えちゃいます」


 画面に地図が表示された。細い通路がいくつも伸びている坑道の地図だ。デフォルメされたミトニャンの3Dモデルが地図の上を歩いている。


「あ、ミトニャン軍団はですね、三つの部隊に分かれまして、あ、この三本の坑道を進みますよ」


『なんで教えちゃうのwww』

『慢心しまくりwww』

『逃げ道がひとつしかねえ!』


「あ、目的地の宮殿までの間にね、ここ、大きな採掘場がありますのでね、はい、ここがメインの戦場になりますよ。ここで戦います」


 デフォルメミトニャンは主戦場を抜け宮殿へと向かった。


「はい、ここでですね、あの、ミトニャンが総攻撃をしかけます。あの、搭載兵器全弾飽和攻撃、ハルマゲドンモードで宮殿を破壊します」


 見事宮殿を破壊したデフォルメミトニャンは勝鬨かちどきをあげた。


『破壊するのかよwww』

『女王様の救出はどうなったwww』

『もうめちゃくちゃwww』


「どうでしょうか。この作戦私が立案しましたよ」

「ご主人様! 完璧な作戦です!」

「破壊の権化ですのー!」

「邪悪の化身ですのー!」


 黒男はカメラに指を突きつけた。


「じゃあ今から行くからね! 社会不適合ロボども! 覚悟しておけよ! 全軍進撃!」


 黒男達はミトニャンに乗り込んだ。一斉に九十九体のミトニャンが動き出した。地下の秘密基地を抜けて地上に出る。ブーストを吹かせてハワイ基地の上空を飛んだ。

 空を飛ぶミトニャン軍団をカメラがダイナミックなアングルで捉えた。


『カメラワークwww』

『すげえ! 飛んでるー!』

『迫力やべえ!』


「では皆さん、戦場でお会いしましょう!」


(勇ましいBGM)





 その頃、黒乃達はハワイ基地地下の坑道に潜んでいた。


「ご主人様! ロボチューブの配信が終わりました!」

「よしよし、計画通り。ぷぷぷ、見て見て社会不適合ロボども大慌てだぞ」


 黒乃はデバイスに映った映像を見てほくそ笑んだ。


「宮殿の監視カメラはハッキング済みナノで、いつでもデバイスで見れマス!」

「FORT蘭丸でかした! フォト子ちゃん!」

「……なに?」

「あのカメラワークはやりすぎ!」

「……あの方がかっこいいから」


 黒乃は立ち上がり一同を見渡した。


「陽動作戦はうまくいった! あとは宮殿に潜入してマヒナを助け出す!」


 一同は無言で頷き、拳を前に突き出した。

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