第175話 ロボチューブ生配信です! その九

「はい、あ、はい、始まりました。あ、はい、始まりました『ご主人様チャンネル』の放送がね、始まりましたよ」


 画面に白ティー黒髪おさげの女性が現れた。丸メガネの上からグラサンをかけている。


『来たーwww』

『待ってたよ』

『相変わらず貧乳だな』


「助手のメル蔵めるぞーです!」


 画面に緑のメイド服を着て紙袋を被ったメイドロボが現れた。


「はい、あ、ご主人様より先に名乗った。あ、どうも黒男くろおです。あ、ねっとりねちょねちょさん、飛んで平八郎さん、今日もありがとうございます。あ、ヴァンダミングPCさん、貧乳ではないんですよ」


『メル蔵ー!』

『ここどこよ』

『今日はなにするの?』


「ご主人様! 今日の企画を発表しましょう! デュルルルルルル、デン!」

「町中華食べてみた〜」

「パフパフパフ!」


『町中華www』

『飯配信かwww』

『やべえ夕飯前なのに』


「今日はですね、いわゆる町中華をね、あ、存分に堪能したいとね、思いますよ。あ、今日はほんとに町中華を食べるだけですからね。事件とかは起こりません」

「ご主人様! お店に着きました!」


 二人の目の前に寂れた小汚い店が佇んでいた。看板には『ロボ福』と書かれていた。


『汚ねえ!』

『中が見えないの不安だな』

『ここ女性が入っても大丈夫なの?』


「皆さん見てください。赤い看板にデカデカと『中華料理』の文字。赤いのれんに曇りガラスの引き戸。店の前には『マーボー麺』ののぼり。これぞ町中華です」

「ご主人様! 不安です!」

「あ、じゃあちょっとご主人様がね、あの、配信の許可を貰いにいってきますので、待っててください」


 黒男は引き戸を開けて中に入っていった。三十秒後フラフラしながら戻ってきた。


「ご主人様! どうでしたか?」

「ダメだって」


『ノーアポwww』

『アポ失敗』

『アホwww』


「ご主人様! 私がいってきます!」


 メル蔵が店の中に入っていった。十秒後元気よく戻ってきた。


「メル蔵、どうだった?」

「許可を貰えました!」

「なんで!?」


『www』

『美少女がいった方がいいわなwww』

『ドンマイwww』


「あ、じゃあね、店に入りたいと思いますよ。ガラガラ、お邪魔します」

「……らっしゃい」

「あ、黒男です。撮影させてもらいますので、よろしくお願いします」

「……好きな席に座んな」

「あ、ども。えへえへ」


 渋い表情を浮かべた老人のロボットが厨房で鍋を振るっていた。


『こわっ』

『店主こええ』

『でも美少女ロボットには弱いw』


「さあ、皆さん。テーブル席に座りました。見てください。赤いテーブルです。テーブル席が三つにカウンター席が六つの小さい店です。小汚いです」

「ご主人様! 床が油でペトペトしています! 謎の緊張感があります」

「いいね、いいね。いかにも町中華という感じです。テーブルにメニューはなくて壁に短冊が貼ってあります。ラーメン、タンメン、マーボー麺。うひょひょ、たまらんね」


『この雰囲気いいね』

『タンメン食いたいw』

『ここどこ?』


「よし、じゃあまずは町中華の定番、チャーハンと餃子をいこうか!」

「いいですね!」

「大将! お願いします!」

「……はいよ」


『ド定番きたー』

『餃子はマスト』

『いいセンスだ』

『二人でシェアするのw』


「あ、じゃあね、料理が来るまでの間にね、町中華について語っていきたいと思いますよ。あ、エックセズさん、ここはね、大田区の大森ですよ。大森は老舗が多いですからね」

「ご主人様! 町中華ってどういう意味ですか!?」

「メル蔵、中華料理屋と言われてすぐ思いつく店ってどんなのがある?」

「ええと餃子のロボ将、ロボーミヤン、ロボ楽苑、ロボ高屋あたりでしょうか」

「そう、いわゆる中華チェーンだね。町中華というのはその中華チェーンの対極にある中華料理屋だね」


『ロボ将好き』

『チェーンでも美味いよね』

『ロボ高屋は安くて助かる』


「町中華は、昔からあって、その町に根差した町の人に愛される個人料理屋のことだね。さらに付け加えるなら小汚い、大将が無愛想、よくわからないメニューがある、などがある」

「はいよ、チャーハンと餃子」


 テーブルにドスンと料理が置かれた。


「きたきたきた来ましたよ!」

「ご主人様! 美味しそうです!」


『チャーハン白いな』

『餃子でけぇ!』

『うおおお! やばい!』


「皆さん見てください、このチャーハン。色白です。白いチャーハンです。テカテカです」

「チャーハンって普通は茶色というか、もっと色が濃いですよね」

「実はご主人様はね、この白いチャーハンが大好物なのだよ。あまり炒めすぎない油分多めのしっとりパラパラチャーハンね。醤油を使わないから白いのかな?」


 黒男とメル蔵はレンゲでチャーハンをすくって口に入れた。


「うまっ。しっかり味がついてる。チャーハンだけで食事が成り立つタイプだ」

「なんというか白飯が欲しくなるチャーハンですね。米が一粒一粒油でコーティングされていてなめらかです」


『うおー腹へったー』

『ガチうまそう』

『¥3000。これでチャーハン食わせてくれ』


「さあ、次は餃子をいこうかな。あ、フランスに視察さん、ロボチャットありがとうございますよ」

「ご主人様! 餃子が大きくてプリプリしていますよ!」

「そうだね。ええとタレは……」


 すると大将がテーブルにやってきた。


「……うちの餃子はこうやって食べるんだよ」


 大将は餃子の上に直接、醤油、酢、ラー油を回しかけた。


「びゅわわわわわわ! 大将! なにしてるの!?」

「いいから、食ってみな」


 黒男とメル蔵はタレまみれになった餃子を箸でつまんで口に運んだ。


「ホフホフ、うまい! 皮が厚めでしっかり焼かれているので歯応えがたまらん!」

「餡が皮の中にパンパンに詰められています。それを厚めの皮でしっかりと閉じ込めているのでプリプリの見た目なのですね!」


『餃子やべえ!』

『これは食いたい』

『なんで勝手にタレかけるのwww』


「餡は挽き肉がゴロゴロしていて歯応えがある。味付けは控えめで皮を食べさせるタイプの餃子か。あらゆるメニューの名脇役を演じてくれるぜ」

「しかしタレを直接餃子にかけた効果は全くわかりません!」


 二人はチャーハンと餃子を完食した。


「ふう、食った食った」

「次はなにを食べましょう?」

「ふーむ、色々あるからなあ。でも次は麺いきたいよね」

「いいですね!」

「ええとタンメン、サンマーメン、パーコーメンと色々あるな」

「悩みますね」


『担々麺好き』

『オーソドックスにラーメンいけよ』

『サンマが乗ってるの!?』


「よし、じゃあタンメンいこうか」

「賛成です!」

「……うちはマーボー麺が美味いよ」

「え?」

「……マーボー麺、いこうか?」

「あ、はい」


『強制マーボー麺www』

『タンメン食いたいのにw』

『貧乳に食わせるタンメンはねえw』


「ご主人様! マーボー麺ってなんですか?」

「わからん。麻婆豆腐が乗ったラーメンだとは思うけど」

「……うちのマーボー麺はそこらのマーボー麺じゃねえんだよ」

「大将、どういうことですか?」

「マーボー麺はな、うちが開発したメニューなんだよ。他の店は全部うちのを真似しただけ。まあ全く真似できてねえけどな」


 大将はぶつぶつ語りながら鍋を振った。


「でた、町中華あるある。うちが元祖だと言い張る大将」

「ありがちですね」


 しばらくすると大将が一杯の丼をテーブルに置いた。


「マーボー麺、お待ち」

「おお! ラーメンの上に麻婆豆腐が乗っている!」

「想像通りです!」


『まあそうだろうなw』

『でも美味そう!』

『また一杯だけw』


「どれどれ、まずマーボーから。パクリ。んん!? 確かに普通のマーボーじゃないぞ!」

「美味しいです! なんでしょうこの味わいの深さ! ピリ辛なのに優しいです!」

「うちのマーボーはニンニク、唐辛子、酢しか使ってねえんだよ」

「豆板醤は使っていないのですか!?」

「使ってねえ」

「具は豆腐、ネギ、ピーマン、挽き肉だけのシンプルさ。それにラーメンスープの旨みが加わって旨みのオンパレードだな。確かに元祖と言っていいかも」

「辛さの後にくるスープと麺の甘みにホッとしますね」


『豆板醤なしでマーボーって成り立つのか』

『うわ、食いてえ』

『辛いの苦手だけどこれならいけそう』


「これ見てみな」

「え? ああ、お笑い芸人ロボコンビの『ろぼぉ〜ず』のサイン色紙か」

「こいつらが番組でうちに来てマーボー麺食っていったんだよ」

「へえ」

「気のいいあんちゃん達だったぜ。俺がマーボー麺食わせてやったおかげであいつら売れたんだよ」

「いや、冠番組持ってる時点で売れてるでしょ」


『でたw 有名人自慢をする大将w』

『町中華あるあるw』

『黙って食わせてくれwww』


「ほいよ、これサービスな」

「ナスのぬか漬けか!」

「大将、ありがとうございます!」

「あとこれはお土産だよ。家で食ってくれよな」

「大将、なにこれ!?」

「チャーシューまるまる一本です!」


『異様に距離を縮めてくるのが早い大将w』

『町中華あるあるのオンパレードやー』

『得したなwww』


「このナスのぬか漬けうめー」

「味の素®︎とチューブのショウガがかかっています!」


 二人は大満足で店を出た。


「ふー、食った食った」

「お腹いっぱいです!」

「メル蔵、どうだった? 町中華」

「はい! 最高でした! チェーン店とは違う未知の個性の連続でドキドキワクワクでした! 大将も最初は怖かったけど温かい人でした!」

「そうだね。町中華は料理を食べているんじゃないんだ。大将の人生を食べているんだ。黒男です」


『名言吐いたwww』

『なにゆーとんねん、このメガネwww』

『¥6000。これで明日も町中華食べてちょうだい』


「さあ、お送りしてまいりました『ご主人様チャンネル』。今日の配信は以上となります。あ、ジャパしこなでンさん、今日は楽しんでね、くれましたでしょうか? あ、一平の通訳さん、次回もね、来てくださいよ。あ、ふるふるふるとんさん、ロボチャットありがとうございました。それでは皆さんさようなら」


(中華風のBGM)

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