第162話 ご主人様ショッピング その二

「あ、はい、始まりました。あ、始まりました。『ご主人様ショッピング』の放送がね、あ、はじもりました」


『はじもったwww』

『またショッピングかいw』

『また公園www』


 画面に白ティー黒髪おさげ、丸メガネの上からグラサンをかけた女性が現れた。


「あ、正月休みだからでしょうか。早速たくさんコメントがね、あ、来ていますよ。あ、メッキリヨボヨボさん、飛んで平八郎さん、おはようございます。あ、四十二度のとろけそうな日さん、塩分とってくださいね。あ、どうも黒男くろおです」

「助手のメル蔵めるぞーです!」


 画面に緑の和風メイド服を着て頭に紙袋を被ったメイドロボが現れた。


『メル蔵きたー!』

『やっぱメル蔵なんだよなあ』

『でけぇwww』


「あ、今日はですね、あの、ゲストがもう凄いたくさんいるのでね、もう一気に出てきてもらいたいと思いますよ。じゃあ……」

「近所に住んでるマリ助まりすけですわー!」

「助手のアンキモですわー!」


 画面に金髪縦ロールのお嬢様が現れた。それぞれグラサンと紙袋を装着している。


『マリ助きたー!』

『アンキモ! アンキモ! アンキモ!』


「はい、次!」

「あ、丸メガネ愛好家の黄豚きーとんです」

「あ、丸メガネ愛好家の紫豚しーとんです」

「あ、丸メガネ愛好家の鏡豚みらとんです! 中学生です!」


 画面に白ティー黒髪おさげに丸メガネの上からグラサンをかけた少女達が現れた。


『で、でたー!』

『クローン人間www』

『久しぶりじゃん!』


「まだいますよ! ラスト、はい!」


 すると画面にグラサンをかけた少女が現れた。ショートボブにプルプルとした唇が可愛らしい。


「あの、あ、ウチは鏡豚のお嫁さんの朱豚しゅっとんです。中学生です」


『可愛いww』

『しゅっとんwww』

『お嫁さんなのw』

『豚シリーズwww』


 画面に八人が勢揃いした。


『www』

『個性が凄い』

『今日ゲスト多すぎw』

『¥5000。朱豚を貧乳ロボにしたい』


「あ、はい、ではね、ゲストの紹介も終わったところでね。あ、ニコラ・テス乱太郎さん、ロボチャットありがとうございます。朱豚は鏡豚のお嫁さんなので貧乳ロボにはなりませんよ」

「ご主人様! 最初の商品を紹介してください! ドュルルルルルル、デン!」

「ご主人様チップス〜」

「パフパフパフ!」


『なにそれwww』

『ポテチwww』


「あ、ご主人様チップスはですね。あの、仲見世通りのお土産物屋さんで販売されていますね、はい、そういうチップスですね。浅草界隈のロボットとマスターのカードが入っていますよ」


『なにそれ欲しい』

『肖像権とかそういう概念はないのwww』

『なんでも売ってんな、その店』


 メル蔵が画面の前に段ボール箱を置いた。その中にはご主人様チップスの袋がぎっしりと詰まっている。


「あ、今日はね、このご主人様チップスを開けながらね、あの、食べながらね、どんなカードが出るのか、みんなで楽しんでいくぞー!!!」

「「おー!!!」」


『うるせぇwww』

『急にテンションを上げるなw』

『音割れたwww』


 皆段ボール箱に殺到しご主人様チップスの袋を奪い合った。


「こら、鏡豚! それはクロちゃんの袋でしょ!」

「これメル蔵が出そうだからこれちょうだい!」

「マリ助ちゃん! それは私が先に選んだやつですよ!」

「早い者勝ちですわー!」


『醜い争いw』

『譲りあえよ』

『¥4000。これが人類とロボットの戦争か』


「あ、はい、みんな自分の袋を選び終わりました。あ、やんごとなきなきさん、ロボチャットね、ありがとうございますよ。じゃあメル蔵!」

「はい!」

「袋開けて!」

「開けました! モグモグ、納豆ブルーチーズ味のチップスです! おいしいです!」

「カードは!?」

「カードは二枚入っています! コモンカードの『公園で座っている黒乃』と……やりました! SRの『青いメイド服のメル子』です!」


『すげえw』

『いきなりSRきた!』

『欲しい』


「じゃあ次! マリ助オープン!」

「開けましたわ。モグモグ、ドリアンカレー味のチップスですわ。臭いですの」

「カードは!?」

「えーと、コモンの『一人で蕎麦食ってる黒乃』とSRの『料理をするアンテロッテ』ですわー!」


『またSRw』

『いいなー』

『可愛い!』


「次! アンキモいこうか!」

「オープンですわー! モグモグ、スキヤキミント味ですわー! カードはハズレの『足が臭い黒乃』とSRの『紅茶を淹れるルベール』ですわー! やりましたのー!」

「どうしてご主人様がハズレカード扱いなの!!!」


『ワロタwww』

『www』

『どんまいw』


「ご主人様! 実際足が臭いのでしょうがないです!」

「毎日洗ってるから臭くないでしょ! じゃあ次、朱豚!」

「よいしょよいしょ、袋が開かへん」

「鏡豚にかしてみ。ほら開いた」

「えへへ、鏡豚ありがとう」


『可愛いw』

『和むわー』

『ほっこりした』


「チップスは沖縄サムライ味や。沖縄のサムライの味がする。カードは『拳を顔面にめり込ませるマヒナ』と『腹筋でキヤノン砲を受け止めるノエノエ』やね。どっちもSR」

「いいなー」


『大当たりやんけ!』

『ほぴい』


「じゃあ次! 黄豚!」

「開けます! パクパク、ドリルニンジン味です。健康的です。カードはハズレの『自販機のお釣りを漁る黒乃』とSRの『勝手に壁に絵を描いてロボマッポに追いかけられるフォトン』です! 嬉しい!」


『黒乃www』

『人気急上昇中のフォト子ちゃん』


「次! 紫豚!」

「ほいほい。ポリポリ、うまい! 水素と酸素の結合味。カードはハズレの『丸メガネをなくした黒乃』とSRの『闇を司りし黒メル子(貧乳)』だ! やったー」

「いいなー」


『メガネ無しバージョンは欲しいwww』

『貧乳でも可愛いよ』


「じゃあ最後! 鏡豚いこうか!」

「開けるよー。多分メル子が二枚来るよ。えい! うーん、もちゃもちゃ。至高のポテチ味だ。カードは……え? ハズレの『食い逃げをする美食ロボ』と『臭い飯を泣きながら食べる美食ロボ』だ」


『あ……』

『やべ……』

『最悪だ……』


 鏡豚はプルプルと震えている。カメラが地面に置かれた未開封の段ボール箱に寄った。


「あー、鏡豚。ドンマイ! はい! という事でね、そんなご主人様チップス! 二十四個セット! 五千円(送料別)でのご提供となります!」


『たっけぇwww』

『なんか割り増し感あるなw』

『¥20000。五箱買いました』

『売れたwww』


「あ、ニコラ・テス乱太郎さん、お買い上げありがとうございます。博士のくせに計算ができないのかな。まあお送りします」

「クロちゃん!」

「どした? 鏡豚?」

「鏡豚もメル子のカード欲しい!」

「いや欲しいったって、当たらなかったんだからしょうがないでしょ」

「メル子が欲しい!」


『でたワガママwww』

『中学生だしなw』

『誰かあげなよ』


「みーちゃん、ワガママ言わないの! 美食ロボだって可愛いでしょ」

「美食ロボ可愛くない! こんなのいらない!」


『こんなのwww』

『まあ可愛くはないわなwww』


「もうこれいらない! 捨てる!」


 鏡豚は美食ロボのカードを地面に叩きつけた。


「あ、こら! 鏡豚なんてことするんだ!」

「ミラちゃん、ウチのノエノエカードあげるから。美食ロボと交換しよ? ね?」

「いらない! 自分でメル子引きたかった!」

「鏡豚! いい加減にしないとクロちゃん怒るよ!」


 デデーン! その時カメラの前に着物を着た恰幅の良い初老のロボットが現れた。


『!?』

『美食ロボじゃん!』

『やべえ! 本物来たwww』


 美食ロボは地面に打ち捨てられたカードを拾い上げた。


「女将、このカードは本物か?」

「そりゃ仲見世通りの土産物屋で買ってきたから本物だよ」

「ほほう、では教えてくれ。美食ロボとはなんなのだ」

「自分のことだろ! ふらっと来て食い逃げするのが美食ロボだよ!」


『なにこれwww』

『何の話www』

『やべえジジイwww』


「ふうむ、食い逃げか……そもそも食い逃げとはなんなのだ? 金を払わないから食い逃げなのか? 食い逃げがない国もあるのか? 美食ロボが本物と言ったからには答えてもらおう。まず第一に食い逃げとは何か?」

「言っていることがまったくわからん」

「食い逃げの定義だ。食い逃げと呼ばれるためには何が必要なのだ? 飯を食って逃げれば食い逃げなのか? 金を欠いたら食い逃げではなくなるという店はどこだ?」

「知るか!」

「食い逃げの定義もできないくせに美食ロボというのはおかしいじゃないか」

「けぇれ!」

「フハハハハハハ! 女将また会おう!」


『マジでヤバいやつじゃん』

『フハハハじゃねんだわ』

『なんなんこれwww』


「あ、皆さん。皆さんは食い逃げとか絶対にしないようにお願いしますよ。よいしょと。あ、ほら、メル子のカード出たわ。ほれ! 鏡豚! メル子のカードあげるよ!」

「いらない」

「え?」


 鏡豚は地面に捨てられた美食ロボのカードを拾い上げた。


「鏡豚このカードでいい! 美食ロボかっこいい! 美食ロボの論破力すごい! 食い逃げで財を成したい!」

「ええ!?」


『やべえwww』

『鏡豚覚醒www』

『あーあーどうするのこれ』


「美食ロボ! 鏡豚にも食い逃げ教えて!」

「こら! 待て!」


 皆で鏡豚を追いかけた。画面の前に紙袋を被ったメル蔵が現れた。


「ええ、皆さん。今日の配信はこれで終わりたいと思います。ご視聴ありがとうございました。あ、滑り台の上にも三年さん、次回もぜひ見てくださいね。あ、移動式子供用プールさん、今日もたくさんのコメントありがとうございました。それでは皆さんさようなら」


(軽快なBGM)

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