第138話 巨大ロボに乗ろう!

「さあ、授業を始めたいと思います」

「起立! 礼! 着服! メル子先生よろしくお願いします!」

「はい黒乃くん、よろしくお願いします」


「メル子先生! 今日はなんの授業なんでしょうか!」

「はい、今日は『巨大ロボに乗ろう』の授業となっています」

「巨大ロボ!? 巨大ロボに乗れるんですか!?」

「もちろん乗れますよ」

「すごいです!」


「ではまず巨大ロボに乗る前に、巨大ロボの歴史から勉強していきましょう」

「はい!」

「21XX年現在、巨大ロボは一般的な存在となっていますが、世界初の巨大ロボはいつ生まれたか知っていますか?」

「うーん? 2080年だと思います!」

「実はもっと早い2050年には実用化されていたのです。2040年から始まった急激なAIの進化と共に巨大ロボは実用化されました」

「結構昔なんですね!」


「では巨大ロボは主にどこで使われていたと思いますか?」

「はい! 知っています! 戦場です!」

「その通りです。巨大ロボは新しいAIが搭載されたロボットが乗る兵器として戦場に駆り出されました」

「可哀想です!」


「しかしロボット達の革命によりロボットの人権が世界中で認められるようになると巨大ロボの戦場での役目も終わりを迎えました」

「よかったです!」

「現在巨大ロボが活躍しているのは建築現場や採掘現場、はたまた宇宙空間など多岐にわたります」


「では次に巨大ロボの法的な立ち位置を見ていきましょう」

「法的?」

「黒乃くん、巨大ロボに人権はあると思いますか?」

「もちろんあります! ロボットですから!」

「残念。巨大ロボには人権は認められていません」

「なぜですか!?」

「それはAIが一定の容量を満たしていないからです。新ロボット法では動物ロボと同じ立ち位置となります。人権は認められないものの保護対象ではあります」


「なぜそんなポジションなんですか!?」

「それは設備的な問題があるからです。人権を認めたからには巨大ロボに対する様々なサービスを社会が用意する必要があります。しかし巨大なロボットに対してそれらを揃えるにはコストがかかり過ぎて現実的ではないのです」

「お金の問題ですか!」

「そうです。ですのでAIの性能をグンと落として『道具』として扱われています」

「ちょっと可哀想です(泣)」


「では次に巨大ロボに乗るための資格についての話をしましょう」

「先生! 巨大ロボに乗るには何の資格が必要なんですか!?」

「巨大ロボを動かすには『大型汎用人型機械操縦士』の資格が必要です。用途に応じて第一種、第二種、特殊の免許が必要となります」


「いや待ってください! ボクちゃん達、北海道で巨大ロボに乗りましたけど無免許運転だったんですか!?」

「安心してください。先生が免許を持っていますよ。AI高校メイド科を卒業することで巨大ロボ免許を取得することができるのです」

「メイド科すごい!」

「責任者が免許を持っていれば同乗者は普通運転免許で補助操作をする事ができます」

「ボクちゃん普通免許持ってます! 良かった!」


「さあ黒乃くん。八又はちまた産業の浅草工場へやってまいりました」

「いつもの工場の倉庫ですね。ここに巨大ロボがあるんですか!?」

「八又産業は世界的な巨大ロボメーカーでもあります。かっこいい巨大ロボがありますよ」

「やった! 早く乗りたい!」


「アレですか!?」

「アレです。A1-GND-1979、通称『八龍丸パチドラ』です。全長十八メートル、四十三トンの最新モデルですね」

「赤いボディがカッケェ! 先生! 早く乗りたいです!」

「落ち着いてください。まずは左右の安全確認をしましょう」

「右見て、左見て、安全ヨシ! 先生! 操縦席が高くて乗れません!」

「AIを搭載していますから呼びかければ乗れますよ」

「八龍丸! 座って! 乗せて! よしよしいい子だ。やった! 股間のコクピットに乗れました!」

「先生は胸のコクピットに乗れました」


「では黒乃くん。コクピットの説明をしますよ」

「はい!」

「まずシートベルトをしっかりと締めましょう」

「んしょ、んしょ。六箇所も留める所がありました。安全は大事ですね!」

「はい、では目の前に二本あるのが操縦桿です。これをそれぞれの手で握ってください」

「これですね。左右独立してるんですね。すごい! 自由自在に動く!」

「はい、操縦者の腕の動きがそのまま巨大ロボの腕の動きとなります」


「次に左右のペダルに両足を差し込んでください」

「足がスポッと入りました! これも足の動きに合わせて動くんですね!」

「そうです。操縦者の足の動きに合わせて巨大ロボも動きます」

「では右手の操縦桿のスイッチをマニュアルに切り替えてください。これで手動で巨大ロボを動かす事ができます」


『マニュアルモードスタート』


「うわ! 喋った! 君が八龍丸か。よろしく!」

『ヨロシク、オ願イシマス』

「さあ黒乃くん歩きましょう。左右の足を動かしてみてください」

「よーし! 歩くぞー! それ! 右足を前へ! うわわわ! 動いた! すごい! 左足を前へ! 歩いてる! 右足を……先生!」

「どうかしましたか?」

「一歩一歩歩くのつらいです!」

「マニュアルモードですからね」


「右足を……うわわわ! 傾いて倒れる! 先生! 倒れます!」

「黒乃くん、落ち着いてください」

「あれ? 勝手にバランスを取ってくれた! すごい!」

「危ないと思ったらAIが自動で体勢を調整してくれます。ちなみにフルマニュアルモードだとAIのサポートがほぼなくなります。一部の天才操縦士達はこのモードで戦います」

「戦うとは!?」


「一歩一歩歩くのは大変なのでオートマモードに切り替えましょう」

「切り替えできました!」


『オートマモードスタート』


「このモードは一歩一歩足を動かす必要はありません。右足のペダルをつま先で踏み込む事で前に進みます。踵がブレーキですね。左足のペダルは左右に傾きます。これで方向を変えてください」

「なるほど! 移動は足で操作するんですね!」

「黒乃くん、倉庫から外に出てみましょう」

「はい! うわ! ペダルを踏むだけで前に進んでる! 楽ちんだ!」


「倉庫の外に出ましたね。ここは射撃練習場です」

「射撃練習!?」

「上半身の操作は左右の操縦桿を使って行います。前方にロケットランチャーが置いてあるのが見えますね? あれを拾いましょう」

「これですね。どうやって拾うんですか!?」

「手をロケットランチャーに近づけてみてください」

「操縦桿を動かして……あ、すごい! 勝手にロケットランチャーを拾った。八龍丸、お前賢いな!」

『ソレホドデモ』


「ではロケットランチャーを撃ってみましょう。左手の操縦桿のスイッチを射撃モードに切り替えてください」

「ポチッと、できました!」

「では腕を動かして前方にある廃車に狙いを定めてください」

「よいしょっと。できました。あれ? スクリーンに変なマークがでました」

「それはロックオンマーカーですね。ロックオンスイッチを押してロックオンしてみてください」

「あ! ロックオンできました!」

「ロックオンしてしまえば後は自動でAIが狙いを定めてくれます。そして射撃ボタンで発射です!」

「ポチッと! 発射ファイア! うわわわわ! ロケランが命中した! すごい! 燃えてる! 木っ端微塵だ! フハハハハハ!」

「おめでとうございます」


「よし次だ! あの赤い車を狙うぞ! それ! ロックオン! あれ? ロックオン! こら! 八龍丸! ロックオンしろ!」

『アレハ、社長ノ、ロボンタックデス』

「知るか! 撃て! 木っ端微塵にしてくれる! おりゃー! 撃て! ほげえええええ! 痛い! お尻が痛い!」

「やりすぎるとAIが自制を求めるためにシートに電流を流します」

「いでえええ! 八龍丸貴様ーッ! お前を木っ端微塵にしてくれようか! いでででで!」


「黒乃くん、落ち着いてください」

「いやだー! ロボンタックをスクラップにしてやるんだ! ボクちゃんならできる! ボクちゃんにも帰る場所があるんだ! わ! わあああああぁぁぁぁぁぁぁ……」

『緊急脱出装置ヲ、発動シマシタ』


「えー、黒乃くんは座席ごと発射されて宇宙に飛び立ったようです。巨大ロボが兵器として扱われていたのは何十年も前の話です。現在では人類の平和の為に日々働いてくれています。巨大ロボには人権はありませんが私達の大事なパートナーです。安全に配慮して丁寧な操縦を心掛けましょう。それでは本日の授業は以上となります」

『メル子先生、アリガトウゴザイマシタ』

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