第133話 ROBOSUKEに出ます! その三

 パパパパンパンパン。

 花火が盛大に打ち上がり最後の戦いの始まりを告げた。


『とうとうやってまいりましたァ! 浅草冬の名物大会「ROBOSUKEロボスケ」! その最終ステージが幕を開けようとしていまァす!』

『この戦いで優勝者が決まります。正々堂々と戦って欲しいですね』


 選手達が最終ステージの舞台であるロボローションプールに集合すると興奮を抑えきれない観客から大きな歓声が沸き起こった。


『揺れている、揺れているぞォ! 台東リバーサイドスポーツセンターが割れんばかりの歓声で揺れているゥ!』


 選手達は頭と腰にそれぞれ銀色に光るベルトを巻いている。手には様々な形のロボローション銃を構えている。


『決勝戦はロボローションが張られたプールで行われるバトルロイヤルとなっていまァす。ロボローション銃で敵の頭と腰のベルトを狙いまァす。両方に命中するとその選手は失格となりまァす。最後まで生き残った選手が勝利となりまァす』

『ロボローションプールには大小様々なオブジェクトが浮いています。これらをうまく使って隠れながら相手を撃ちます。なお相手への攻撃はロボローション銃のみに限られます』


 選手達はプールに飛び込むとそれぞれ指定のオブジェクトまで泳いだ。ここがスタート地点となる。オブジェクトの上に乗り、銃をロボローションに浸して弾を充填する。


『さあここで改めて選手紹介をしましョう。最初のペアはこちらァ! 黒乃メル子ペアでェす!』


 観客から声援が送られた。黒乃とメル子は手を振ってそれに応えた。


『競技ポイントはゼロながらメル子選手のお乳によっておっぱいポイントを荒稼ぎしています。充分優勝に手が届く範囲にいます』

『続いてはこちらァ! マリーアンテロッテペアァ!』


 お嬢様たちは投げキッスを客席に向けて投げまくった。


『競技ポイント、百合ポイント、おっぱいポイントのバランスが最もいいのがこのペアです』

『そしてェ、アニーマリエットペアァ!』


 二人はオブジェクトの上で体育座りをしている。青ざめた顔で虚空を見つめている。


『どうやら足をグネりすぎて立てないようですね。足首を鍛えなおして出場してほしいです』

『マッチョメイドペアァ!』


 マッチョメイドとマッチョマスターはオブジェクトの上でポージングをしている。


『競技ポイントはマヒナノエノエペアに迫る勢いです。ルールをちゃんと守れば優勝もあり得ます』

『ゴリラロボペアァ!』


 飼育員がバナナをゴリラロボに渡した。ゴリラロボは器用に皮を剥いてモリモリと食べている。


『競技ポイントはマッチョメイドペアに次ぐ好成績です。堅実なプレイでここまでやってきました』

FORT蘭丸ふぉーとらんまるペアァ!』


 二人はなにやらオブジェクトの上で懸命にデバイスを操作している。


『未だポイントはゼロですが何かを企んでいるようです。ダークホースとして期待しましょう』

『そしてマヒナノエノエペアだあァ!』


 観客のボルテージが最高潮に達した。二人のクールな褐色美女は涼しげな眼差しでライバル達を見渡している。


『王者として余裕の貫禄を見せつけていますね。しかし油断は禁物です』

『最後はこの二人ィ! マスターROBOSUKEとROBOSUKEロボペアァ!』


「やっぱりROBOSUKEが好き」


『名言が出ましたね』



 ヌルヌルテカテカの選手達は銃を構えた。スタートの合図を待つ。客席もそれに合わせて静まり返った。緊張感と静寂が場を支配した。

 開始のブザーと共に選手達が動き出した。


「マリー! アン子! 作戦通りいくよ!」

「わかりましたのー!」

「アン子にお任せですわー!」


 黒乃の指示の元、お嬢様たちはマヒナペアに向かって進んだ。真っ先に優勝候補を潰す作戦だ。

 しかしその直後、マリーとアンテロッテは背後からロボローションの銃撃を食らった。


『あァ! 開始早々にマリーアンテロッテペアが何者かに撃たれたァ! 腰のベルトに命中だァ!』


「誰ですのー!?」

「後ろには敵はいないはずですわー!」

「ふふふふ……」


 撃ったのは黒乃だった。不敵な笑みを浮かべて銃を構える。


「裏切ったんですのー!?」

「マヒナ様を倒さなくていいんですのー!?」

「我々はおっぱいポイントを大量に稼いでいるからね。無理してこのステージで勝利しなくてもポイントを稼げればそれでいいのだよ! フハハハハ!」


 黒乃は再びマリーに向けて撃った。二人は慌ててローションに飛び込み回避した。

 メル子はその様子を顔を青くして眺めていた。「卑怯過ぎます……ご主人様」


『マリーペア大ピンチだァ! 体勢を立て直す為にオブジェクトの下まで泳いで逃げましたァ!』

『最高に下衆な作戦ですね。しかしこれはバトルロイヤル。勝てばよかろうなのです。下衆ポイント500点追加です』


 それぞれのペアが熱戦を繰り広げていた。

 マヒナペアとマッチョメイドペアはお互い一歩も譲らずに撃ち合っている。

 FORT蘭丸ペアはオブジェクトの陰に隠れて何やらしているようだ。

 ゴリラロボペアは高いオブジェクトの上に乗ってマスターROBOSUKEペアを狙撃している。

 アニーマリエットペアは相変わらずオブジェクトの上で体育座りをしている。誰にも相手をされていないようだ。


『さァ! ここからどう戦況が動くかァ!?』

『おっと、FORT蘭丸ペアに動きがあります』


 FORT蘭丸ペアは銃を構えてゴリラロボペアに向かっていった。


『なんという無防備だァ! これでは狙撃されてしまうぞォ!?』


 しかしゴリラロボの銃からはローションが発射されない。ゴリラロボは頭を捻って銃をいじくりまわした。


『なんだァ!? 銃の故障かァ!?』

『いや、これはハッキングです。プログラミングロボの能力を活かしてゴリラロボ選手の銃をハッキングして操作不能にしたようです』


 ゴリラロボと飼育員は頭に一発ずつローションを食らった。たまらずローションの中に逃げた。


「メル子! マヒナとマッチョメイドがやり合ってる今がチャンスだよ! この隙に雑魚狩りをしてポイントを稼ぐよ!」

「いや、どちらかというと我々が狩られる側ですが……」


 黒乃は逃げ惑うマスターROBOSUKEに照準を定めた。一発撃つが惜しくもベルトには命中しなかった。


「もっと近づかないとダメだ。あっちのオブジェクトから回り込もう」


 涙を流しながら逃げるマスターROBOSUKE達を執拗に追いかける黒乃。徐々に距離を詰め必中の間合いまで到達した。


「フハハハハ、逃げても無駄だよ。観念したまえ。フハハハハ!」

「完全に悪役になっています……」


 黒乃は銃を構えトリガーを引いた。しかしローションが発射されない。


「あれ? あれ? 故障かな? ちょっとスタッフー!」


 オブジェクトの陰からFORT蘭丸がこちらを覗いている。見事黒乃の銃をハッキングする事に成功したようだ。


「FORT蘭丸貴様ーッ! 減給処分にされたいかーッ!」

「パワハラが酷い!」


 その時横から銃撃され黒乃の腰に命中した。撃ったのはマリーとアンテロッテだ。


「オーホホホホ! 作戦にはまりましたわねー!」

「FORT蘭丸さんと同盟を結んだのですわー!」


 黒乃は慌ててオブジェクトの陰に隠れた。怒りでプルプルと震えている。


「マリー! アン子! この卑怯者ーッ! 普段から世話をしてやっている恩を忘れたかーッ!」

「どの口がいいますの」

「片腹痛いですわ」

「自業自得です……」メル子もプルプルと震えた。


『マリーペアとFORT蘭丸ペアの集中砲火を食らい絶体絶命の窮地に追い込まれてしまったァ!』

『このピンチをどう切り抜けるか見ものですね』


 その頃、アニーマリエットペアは体育座りの姿勢で空を眺めていた。


『黒乃ペアは放っておいてマヒナ選手とマッチョメイド選手の戦いを見ましョう』

『相変わらず白熱の戦いを繰り広げています。四人とも片方のベルトを撃たれていますね。戦局がどう転ぶか、楽しみです』


 その時異変が起きた。

 ロボローションプールの中央部分が大きく隆起している。


『なんだァ? 水面が盛り上がっているぞォ?』

『何かおかしいですね』


 スタッフが確認に走った。選手達も異変に気が付き動きを止めた。

 水面はますます盛り上がりローションの柱になった。よく見ると大小様々な柱がプールに出来上がっている。それは複雑な形状を描き、有機物とも無機物ともしれない摩訶不思議な造形物となった。


「いけない! みんな避難して!」マヒナが叫んだ。

 しかしそれと同時に柱が触手のように体をくねらせ、近くにいたマスターROBOSUKEペアを飲み込んだ。ローションの柱の中でもがき苦しむ二人。


 客席から悲鳴があがった。いつの間にかロボローションが客席にまで迫ってきていたのだ。


『あーッ! これは緊急事態でェす! 観客の皆さんはスタッフの指示の元避難をお願いしまァす!』

『どうか慌てずに避難を開始してください。走るとローションで滑りますのでご注意ください』


 観客達は一斉に動き出した。


「これは……? ロボローションに含まれるナノマシンの暴走か?」


 マヒナは注意深くローションの柱を観察した。


「マヒナ様。つい最近、ロボローションの暴走による事件が浅草で発生したという情報がデータベースにありました。何か関係があるのかもしれません」


 ノエノエが補足した。


「黒乃山! 君たち何か知っているかい?」


 名指しされて黒乃とメル子はビクンと震えた。首をブンブンと振って否定をした。


「オーケー。じゃあアタシ達であのロボローションの怪物を退治する。黒乃山も手を貸して」

「私も!?」


 マッチョメイドペアも筋肉をパンパンに膨らませている。


「おでたち いっしょに たたかう!」


 マリーとアンテロッテもやる気充分のようだ。


「わたくし達も戦いますわよー!」

「お嬢様にかかればチョロいもんですわよー!」

「「オーホホホホ!」」


 FORT蘭丸ペアは懸命にデバイスを操作している。


「黒ノ木シャチョー! サポートしまス!」


 ゴリラロボは飼育員からバナナを貰って貪り食っている。


「ウホ!」


 アニーマリエットペアは周囲をローションの柱に囲まれた状態で体育座りをしていた。完全に目が死んでいる。


 こうして黒乃達とロボローションとの戦いが幕を開けた。

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